2014年8月21日から25日、広島市内のアステールプラザにて、第15回広島国際アニメーションフェスティバルが開催された。
2年に1度の開催である広島国際アニメーションフェスティバルの今大会は30周年ということで(第1回は1985年だが、事務局が設立された1984年から数えている)、それを記念した催しも企画された。特集「広島大会設立30周年記念特別プログラム」は、過去の大会に名誉会長として招かれた作家の作品を集めた「広島大会歴代名誉会長特集」、過去の大会での受賞作品を集めた「広島大会歴代受賞作品特集」、過去大会の様子を写真等の展示で紹介する「広島大会設立30周年記念特別展」で構成され、日本における海外アニメーションの受容において非常に大きな役割を果たしてきた同フェスティバルのこれまでを一望できるものとなっていた。
一方、フェスティバルの中心となる短編作品対象のコンペティションでは、学生作品が主要な2つの賞を受賞したことが話題となった。
グランプリはイギリスのナショナル・フィルム・アンド・テレビジョン・スクールの卒業制作『ザ・ビガー・ピクチャー(The Bigger Picture)』(デイジー・ジェイコブス監督、2014年)。この作品は、母親の介護と死に向き合う兄弟の物語を、等身大のセットを組み立ててその壁に描いた壁画のアニメーションとセット内の立体物のコマ撮りとを組み合わせる独特の技法を用いて語ったもので、今年のアヌシー国際アニメーション映画祭で学生部門グランプリを受賞するなど、話題作として注目を浴びてきた。
ヒロシマ賞は「愛と平和」というフェスティバルのスローガンにふさわしい作品に贈られるグランプリと同等の賞で、ハンガリーの国立モホリ=ナジ芸術大学の卒業作品『シンフォニーNo.42(Symphony No.42)』(レーカ・ブチ監督、2013年)が受賞した。この作品は、人間と動物たちとの関係性を、42の細切れのエピソードの不可思議な連鎖によって描いていくもので、今年のベルリン国際映画祭の短編部門にもノミネートされるなど、こちらも話題作だった。
広島は他の主要なアニメーション映画祭とは異なり、コンペティションに学生部門や依頼作品部門などの細かな区分を設定しておらず、あらゆる作品がひとつの枠組みで賞を競うことになる。しかし、そのなかでも両賞を学生部門が独占するというのは珍しく、アレクサンドル・ペトロフ監督が『雌牛』(1989年)でグランプリを、マーク・ベイカー監督が『丘の農家』(1989年)でヒロシマ賞を受賞した1990年の第3回大会以来のこととなる(学生作品がグランプリを受賞すること自体、第3回以降初めてだ)。
大学でのアニメーション教育の充実と、卒業後の短編作品のマーケットの不在(もしくは短編に対する制作助成金や制作の拠点の減少)による一般作品のクオリティの低下は、短編作品をめぐる近年の状況でしばしば指摘されることである。才能ある学生の作り手が卒業後に作品制作を行える環境が、世界的にあまり用意されていないということである。広島の過去の受賞作を振り返ってみれば、世界的な巨匠や、将来的にそう呼ばれることになる作家の出世作がグランプリを受賞していることが多いが、今回の受賞作品の傾向はそれとは明らかに異なっており、短編作品をめぐる上述の環境の変化、つまり、巨匠と呼ばれるような作家になるまでのプロセスを経る場の不足が、今回の受賞結果に至るひとつの大きな理由になっていることは間違いないだろう。
30周年記念大会となった今回の広島は、過去の達成の回顧と新たな傾向の訪れの両方を目撃することのできた象徴的な大会として、将来的には記憶されることになるかもしれない。
広島国際アニメーションフェスティバル公式ホームページ
http://hiroanim.org