今回書評として取り上げる『ゲームの今――ゲーム業界を見通す18のキーワード』は、前回取り上げた『インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ』とセットで読んでほしい1冊だ。『原始人』ではスマホが行き渡り、誰もがネットで情報を発信できるようになった社会では、150人程度の仮想共同体をネットでマネジメントできる原始人、すなわち「スナックのママ」がロールモデルだと論じられていた。その上でインディゲーム開発者に向けた1冊として同書を薦めた。
しかし、スナックのママとしてコミュニティを活性化させるには、人柄や話術などに加えて、それなりの基礎教養が必要だ。ゲーム開発者においても絵が描けます、プログラムができます、だけでは通用しない。ゲームの宣伝や売り方、さらにはユーザーコミュニティの現状に至るまで、幅広い視点で業界を俯瞰し、広く浅くトレンドを理解することが求められる。そうした勉強をどこで行えばよいのか。そのためにお薦めしたいのが本書『ゲームの今』というわけだ。
本書は2010年に出版された『デジタルゲームの教科書――知っておくべきゲーム業界新トレンド』の続巻という位置づけで、前著で24のテーマが扱われたのに対して、本書では18のテーマに絞り込まれている。しかも前著が産業論を大きなテーマとしていたのに対して、本書では「ビジネス」「カルチャー」「テクノロジー」の三部構成をとり、より文化論的な視点を押し出した。中でも「ゲーム実況」や「自作文化」は、混沌としがちな内容が的確に交通整理されているので、多くの業界人に一読をお薦めしたい。
マンガやアニメなどと異なり、ゲーム業界は企業主体でコンテンツの制作や人材教育が行われてきた。そのため社内でも次第に、専門職としての技能研鑽やキャリアパスが整備されてきた。しかしスマホの普及やゲームエンジンの一般化で、誰もがゲームを作って全世界で配信できる時代となったため、企業中心だった業界構造が大きく揺らいでいる。その根底にあるのが絶え間なく続く激しい技術革新だ。わずか数年でウェブアプリからネイティブアプリに移行したモバイルゲームなどは、その好例だといえるだろう。
こうした時代においては、企業人においても俯瞰的な視野を持ち、人生の幹を太くしていくことが求められる。そのためには専門知識に加えて、広く浅く情報を汲み取り、仮説に基づいて点と点を結び、面に広げていく力が求められる。その前提条件となるのが基礎教養だ。そのために本書では「ゲームビジネスに携わるのであれば、開発職でも非開発職でも、最低限これくらいは知っておいてほしい」という内容が含まれている。広く浅く現状を俯瞰するには最適だ。
特に近年のゲーム業界で問題になっているのが、市場の変化に対して人間の意識が追いつかず、世代間や分野間で「ゲーム」に対する分断化が進んでいることだ(2012年にあれだけ世間を騒がせたコンプガチャ問題も、もう過去の話のようだ)。その結果、経営層や中間管理職が過去の成功体験に引きずられて失敗する、新興のゲーム会社が過去の知見を適切に活かせない、ということが目立っている。もちろん紙幅の都合で省略されたテーマも多い。ぜひ本書を出発点に情報の最新アップデートに努めてほしい。
■収録テーマ
【ビジネス】流通・モバイルゲーム・ブラウザゲーム・クラウドファウンディング・ゲーム広告・東南アジア市場
【カルチャー】ゲーム実況・e-sports・シリアスゲーム・アカデミック・自作文化・アナログゲーム
【テクノロジー】
バーチャルリアリティ・モバイルでのゲームデザイン・ミドルウェア・コンピュータグラフィックス・ゲームサウンド・サーバインフラ
『ゲームの今――ゲーム業界を見通す18のキーワード』
編著:徳岡正肇、出版社:SBクリエイティブ
出版社サイト
http://www.sbcr.jp/products/4797380057.html