ゲームエンジンの普及で、3D空間上にゲームステージらしき空間を配置して、キャラクターを動き回らせる程度のことは、簡単にできるようになった。しかし多くの初心者(特に学生)ゲームデザイナーは、ここで行き詰まる。どのように改良しても、ゲームがなかなかおもしろくならないからだ。ゲームの「磨き方」を知らないと言ってもよいだろう。
こんな悩めるビギナーに最適な書籍が出版された。『3Dゲームをおもしろくする技術』だ。著者の大野功二氏は多くの商業ゲーム開発にたずさわったゲームデザイナーで、3Dゲームを作る上での多彩なテクニックが惜しげもなく紹介されている。
本書のポイントは「とにかく具体的」であることだ。「3Dゲームをおもしろくするプレイヤーキャラクターの技術」「(同)敵キャラクターの技術」「何度も遊びたくなるレベルデザインの技術」「キャラクターのアタリ判定の技術」「3Dゲームと3Dカメラの技術」の全5章で、48個のテクニックが図解入りで紹介されている。同人・インディゲーム開発者にとっても、大いに参考になるだろう。
たとえば同じアクションゲームでも『ゴッドオブウォー3』と『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』ではバトルの仕組みが異なる。前者が近距離から中距離と、比較的攻撃レンジが広い中でアクションが行われるのに対して、後者はチャンバラが中心の近接アクションゲームだからだ。このように、プレイヤーに対してどのような体験をさせるかで、必要な仕組みは異なる。こうした一つひとつの細かい事柄が、図版入りで丁寧に説明されている点が特徴だ。
実際、過去のゲームデザインの解説書は、あまりに抽象的・概念論的すぎて、ゲームの開発現場や教育現場ですぐに役立つものが少なかった。その中にあって本書は既存のゲームを分析しながら、細かいゲームメカニクス(ゲームのおもしろさを生み出す仕組み)を解説し、体系化を試みるという真逆のアプローチをとっている。こうした要素は単に遊んでいるだけでは、なかなか気づきにくい。まさに現役ゲームデザイナーならでの企画だろう。
ただし、あえて注文をつけるとすれば、図版と文字だけの説明では限界があることだ。遊んだことがないゲームの場合は、なおさらわかりにくいだろう(そのため本書を読む際は、実際にゲームをプレイすることを強くオススメしたい)。これがタブレットなどで、ゲームのプレイ動画つきで説明されたら、ずっと読みやすく、わかりやすくなるはずだ。つまり本書は、本来なら電子書籍向きの企画なのだ。
もっとも、コスト云々を差し引いても、現状では実現が難しい。一つには権利処理が煩雑だからだ。一般的にゲームメーカー側は自社が提供する素材以外を使用した書籍編纂を敬遠する傾向にある。窓口担当者による内容の確認が困難だからだ。本書においても著者側が3Dモデリングツールを用いて、オリジナルの図版として描き起こしており、権利処理の問題が背景にあると推察される。これが動画ならなおさだだろう。
その一方で、昨今ではゲームのプレイ動画を共有して楽しむ文化が、家庭用ゲームでも広まってきた。つまり動画を活用したゲームデザインの解説書を出版できる可能性が、ようやく生まれてきたのだ。映画業界ではDVDの特典映像などで監督が映画の演出意図を解説する行為も一般的だ。ゲームでも映像を活用した技術解説が、もっと気軽にできるような時代になることを期待したい。
『3Dゲームをおもしろくする技術』
著:大野功二、出版社:ソフトバンク・クリエイティブ
出版社サイト
http://www.sbcr.jp/products/4797357363.html