一般社団法人デジタルメディア協会(AMD)は2016年4月の「ニコニコ超会議」で上映された超歌舞伎『今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)』の上映会を12月21日に都内で開催した。理事長の襟川恵子氏は「本作は歌舞伎役者の中村獅童とCGキャラクターの初音ミクが競演し、全5回の公演で約2万6500人を動員した人気コンテンツ。本作に込められた、さまざまなアイディア・技術・ノウハウを学び取り、皆様の取り組みに役立てて欲しい」と挨拶した。
『今昔饗宴千本桜』は歌舞伎の代表的な演目である『義経千本桜』をヒントに、初音ミクの世界観を取り入れて制作された新作歌舞伎。神代の時代・平安時代・大正百年という3つの時代を行き来しつつ、佐藤四郎兵衛忠信と美玖姫が千本桜を守って悪と戦うストーリーで、CG映像をふんだんに取り入れた舞台演出が特徴だ。プロデューサーの横澤大輔氏は古典芸能・デジタル技術・サブカルチャーの融合で多くの人が楽しめるエンターテインメントを、日本から発信したかったと企画意図を説明した。
舞台は6幕構成で、大正百年の「現代」からスタートし、平安時代から神々の時代へと時空を交錯しながら進展する。主役の忠信が白狐からの生まれ変わりである点や、『義経千本桜』でキーアイテムとなる「初音の鼓」が本作でも登場し、忠信と美玖姫の絆を示すアイテムになるなど、『義経千本桜』の設定を引用しつつストーリーが展開。その一方で日ノ本の象徴である神木・千本桜をめぐる勧善懲悪のストーリーとし、ラストで忠信が大立ち回りを演じるなど、現代的な要素もとりいれた。
本作は「ニコニコ動画」でネット中継配信されることもふまえて、投稿者が動画につけられるコメントが忠信に力を与えるという設定も取り入れた。これによりネットでは約12万1千人の視聴者が合計で約21万4000件のコメントを投稿。フィナーレでは天井から大量の花吹雪が舞い降りるという演出につなげた。横澤氏によると「歌舞伎は見せ場で屋号をかけるなど、もともと参加型の娯楽。今回の公演でも参加型の要素を取り入れたかった」と説明した。
上映終了後の質疑応答では、CGキャラクターの初音ミクと役者の掛け合いがどのように行われているのかについて質問があった。横澤氏は「基本は映像のみで、一部コマンド操作でリアルタイムな演技も可能にしている」と回答。全員が参加してのリハーサルが公演3日前に行われ、公演も幕張メッセの仮設舞台で行われるなど、時間がない中で関係者全員が共通の目的に向かって終結できたと語った。襟川氏から「ハンドキャプチャーが非常に良くできている」と評価される一幕もあった。
会場ロビーでは『今昔饗宴千本桜』でも使用されたNTTのイマーシブテレプレゼンス技術「Kirari!」のデモ展示も行われた。本技術を使用すると被写体のみをリアルタイムで切り出し、伝送することが可能で、公演中でも忠信が分身の術を用いて多数の敵と戦うシーンで使用されている。同社では競技場全体を世界中に伝送することを目的に研究開発を続けており、2020年の東京五輪におけるパブリックビューイングなどをはじめ、さまざまなシーンで応用が検討されている。
会場ではドワンゴ取締役などをつとめる夏野剛氏も登壇し、「制作に非常に資金がかかったが、NTTさんに『超特別協賛』として助けていただいた。2017年度も、よりスケールアップしたものを企画している」とあかした。横澤氏も個人的な見解としつつ、「伝統芸能・デジタル技術・サブカルチャーの組み合わせは海外展開にも適している」として、次回作への意欲を示した。ゲーム業界においても、ニコニコ動画を用いた参加型のエンターテインメント手法として参考になりそうだ。