第6回シリアスゲームジャム(主催:日本デジタルゲーム(DiGRA Japan)ゲーム教育研究部会)が2017年12月16日・17日にジェイ・クリエイション(東京都千代田区)で開催され、学生・社会人26人・4チームが参加。キャラクターをトイレまで誘導する「Where is the restroom?」(チームPEE-MAX)が最優秀賞を受賞した。

公式サイトより(http://www.mediadesignlabs.org/SGJ6/

シリアスゲームは教育・福祉・医療・公共政策といった現実の社会問題を解決するためにデザインされたデジタルゲームの総称で、オランダを中心に海外で先行している。日本でも2014年に第1回シリアスゲームジャムが東京工科大学メディア学部の主催でスタートし、テーマを変えながら過去5回、開催されてきた。

ゲームジャムは職歴もスキルも多様な参加者が即席のチームを組み、数十時間で一つのゲームを開発するイベントだ。シリアスゲームジャムはシリアスゲーム分野に限定されたゲームジャムで、他のゲームジャムとは異なるさまざまな工夫が行われている。第6回は「えいごでコミュニケーション」をテーマに約30時間で実施された。

新たにリリースに向けてのサポートも実施

今回のミッションは「日本語しかわからない小学生(3年生)の子供とご両親」を仮想ユーザーに、「親子のコミュニケーションのきっかけづくりや、伸長をめざしつつ、児童に対して英語の楽しさを実感させる」ゲームを作るというものだ。背景には学習指導要領の改訂に伴い、2020年から小学3年生で英語の授業が必修になることがある。

また、今回はシリアスゲームジャム初の試みとして、イベント終了後に継続開発を行い、実際のリリースまでサポートするための体制についても説明がなされた。大会委員長をつとめた粟飯原萌(日本大学生産工学部)は開会式で「全チームがリリースされるくらいの意気込みで頑張って欲しい」とエールを送った。

大学生からITエンジニア、プロのゲーム開発者まで26人が参加した。前列中央が大会委員長の粟飯原萌(撮影:筆者)

開会式ではAiko Takazawa(イリノイ大学)による「学びとコミュニケーション」と題する基調講演も行われた。Aikoは留学中に東日本大震災が発生した際、Facebookを介して最新情報が得られたことから、知識と環境は互いに関連性を持つと説明。「テクノロジーを活用して、英語を学ぶ環境そのものをデザインして欲しい」と期待を寄せた。

基調講演をつとめたイリノイ大学のAiko Takazawa(撮影:筆者)

その後、参加者達は事前に決定されたプロジェクトごとに分かれて、開発をスタートした。多くのゲームジャムは開催当日にテーマが発表されるが、シリアスゲームジャムでは事前にテーマが公開され、それにもとづいて参加者内でA4用紙1枚にまとめられた「ペラ企画書」の募集が行われ、参加者は開発したい企画書に投票し、上位案が採用となる。その後、採用企画とチーム編成が発表されるという流れだ。

こうしたステップを踏むのは、シリアスゲームの開発ではエンターテインメント性に加えて、実際に社会の役に立つかという課題解決性が重要視されるからだ。そのためにはテーマの理解や事前リサーチなどが必要になる。今回も事前にAikoによるビデオ講義がWebにアップされるなど、テーマの理解を促すための事前情報が運営元から提供された。

和気あいあいと開発を進める参加者たち(撮影:筆者)

開会式が終了すると、メンバーがチームごとに分かれて、実際の開発へと移った。中には事前にSNSなどで情報を共有し、グラフィックデータの制作をはじめ、下準備を行ってきたチームも見られた。もっとも、顔を合わせての開発はこれが初めてのチームが多く、まず自己紹介からスタート。その後、和気あいあいと開発が進んだ。

また、初日の午後には本イベントの協力をつとめたオランダ大使館から差し入れがあり、お茶とお菓子での交流時間も設けられた。大使館・経済部商務補佐官のライテ・ダウマ氏は「オランダでは約4割のディベロッパーがシリアスゲームを開発中」と解説。各チームの進捗状況に期待を寄せた。

各チームのユニークなアイデアはどこまで実装されたか?

開発は順調に進行し、2日目の午後4時から発表会が行われた。本稿ではペラ企画書とゲーム画面の双方を掲載することで、事前のゲーム案がどのように開発に落とし込まれたのかについて紹介していく。参加者の約7割が学生だったこともあり、進捗が全体的に遅れ気味で、中にはせっかく開発してもうまく統合されなかったチームも見られた。

チーム1:『Discovery』のペラ企画書とゲーム画面

公式サイト(http://www.mediadesignlabs.org/SGJ6/)より転載
夜の教室を探索し、英単語に相当するアイテムを集めていく(撮影:筆者)

夜の教室を舞台とした脱出ゲームで、プレイヤーは教室内を歩き回りながら、黒板に英語で記されたアイテムを探していく。英単語の意味がわからない子供と、操作に不慣れな親が協力しながら進めていくイメージだ。ステージは教室ステージが作られた。間に合えばさらに家庭科ステージも加える予定だったとのこと。

チーム2:『Englishクエスト』のペラ企画書とゲーム画面

公式サイト(http://www.mediadesignlabs.org/SGJ6/)より転載
英語クイズの要領で適切な単語を選び、モンスターを攻撃していく(撮影:筆者)

主人公は英単語テストを控えた少年で、夢の世界で勇者となり、魔物化した英単語と戦っていく。出題に対して適切な英単語を選択すれば攻撃となる。出題と正解をうまく適合できないエラーはあったものの、オープニングで導入演出を盛り込むなど、他のチームにはない取り組みが目立った。

チーム3:『Where is the restroom?』のペラ企画書とゲーム画面

公式サイト(http://www.mediadesignlabs.org/SGJ6/)より転載
聞き取った英文情報を元にキャラクターの移動をプログラムする(撮影:筆者)

ペラ企画書の制作者いわく「海外で初めて口にしたフレーズから発想した」という本作。制作時間の関係でマップの作り込みまでは至らなかったが、トイレの場所をヒアリングして、そこにたどり着けるようにキャラクターの移動をプログラムしていくという内容だ。

チーム4:『採掘でディギン』のペラ企画書とゲームプレイ風景

公式サイト(http://www.mediadesignlabs.org/SGJ6/)より転載
視線追跡システム搭載の二眼式ヘッドマウントディスプレイ(HMD)「FOVE0」をつけてプレイ(撮影:筆者)

4タイトル中で唯一のVRゲームで、親がモニターを見ながら口頭で指示を出しつつ、子供がVR内で適切なアイテムを選択するという内容で、そこに英単語学習の要素を絡ませている。二眼式HMDを使用する関係上、対象ユーザーを中学生以上に設定。友達同士でワイワイと遊ぶのに適したゲームに仕上がった。

最優秀賞に輝いたのは「トイレ探しゲーム」

『Where is the restroom?』を開発し、最優秀賞に輝いたチームPEE-MAXのメンバー

このようにユニークな4作品が出そろった第6回シリアスゲームジャム。審査の結果、最優秀賞に輝いたのは、トイレ探しゲームこと「Where is the restroom?」となった。審査委員をつとめた古市昌一(日本大学生産工学部)は、「誰もが身近に感じられるテーマで、ゲーム自体は未完成に終わったが、可能性が一番感じられた」と賞賛した。

シリアスゲームジャム6th結果発表

最優秀賞(Grand Prix Award) Where is the restroom?
優秀賞(Excellent Researcher Award) Where is the restroom?
優秀賞(Excellent Design Award) 探掘でディギン
特別賞(Release and Support Award) Discovery

日本ではまだまだ知名度が低いシリアスゲーム。しかし、2000年代に知育ゲームがブームになるなど、ゲームを社会で活用するための下地作りは徐々に進んでいる。こうした中、本イベントのような取り組みが拡大することで、より豊かな社会が到来する。そうした可能性を感じさせるイベントだった。


(information)
第6回「シリアスゲームジャム ゲームの力で世界を救え!
~えいごでコミュニケーション English Please~」
会期:2017年12月16日(土)、17日(日)
会場:株式会社ジェイ・クリエイション
主催:日本デジタルゲーム学会(DiGRA Japan)ゲーム教育研究部会
http://www.mediadesignlabs.org/SGJ6/