マンガに登場する料理「マンガ飯」がブームになっている。マンガから派生したレシピ本も出版され、実際につくったマンガ飯がレシピサイトや個人のブログで紹介されるなど、その影響力は大きい。そこで、料理レシピサービス「クックパッド」とコラボレーションしているマンガ飯を実際につくってみることにした。
『紺田照の合法レシピ』のキッチン(クックパッドwebサイトより)
ブログやSNSでマンガの中の料理を紹介
マンガの中に出てくる料理「マンガ飯」が話題になっている。マンガそのものもだが、マンガの中の料理を実際につくって、ブログ、FacebookやInstagramといったSNSに紹介する人が増えているのだ。
マンガの中の料理やレシピを自分のブログ「マンガ食堂」で発表している著名ブロガーの梅本ゆうこさんは、2012年にリトルモアから書籍版『マンガ食堂』を出版。TBSの人気番組「マツコの知らない世界」でも「マンガ飯の世界」として紹介されたほど。
梅本さんのブログだけでなく、ネット検索をかけてみると、いくつものページがヒットする。それぞれにマンガに対する思い入れと料理のワザが込められていて、おもしろい。
中でもマンガ飯記事の件数が多いのが人気レシピサイト「クックパッド」だ。ためしにアクセスをして「マンガ」でレシピ検索すると、出てくるメニューは280以上(2018年2月20日現在)。
取り上げられているマンガは『週刊少年ジャンプ』で人気の高い学園料理マンガ『食戟のソーマ』(附田祐斗・原作/佐伯俊・作画)や、料理が苦手な女性と料理上手なゲイの男性の賑やかな日常を描いたラブコメ『にがくてあまい』(小林ユミヲ)、商店街のはずれにひっそり佇む「瑠璃色食堂」を舞台に二代目店主の女子大生が美食を追求する『瑠璃と料理の王様と』(きくち正太)、妻を亡くして男手一つで幼稚園に通う娘を育てる高校教師と、彼の教え子で、料理店を経営しながら料理研究家としても活躍する母親と二人暮らしの女子高生が、料理を通じて心通わせていく食育マンガ『甘々と稲妻』(雨隠ギド)などなど。ほかにも、孤独な棋士の少年が料理上手な3人姉妹との出会いで心癒されていく『3月のライオン』(羽海野チカ)や、都会育ちでプライドが高い書道家と長崎県五島列島の人々の交流を描く『ばらかもん』(ヨシノサツキ)まであって、かなりバラエティに富んでいる。
マンガ好きで料理も好きな読者にとって、グルメ・マンガに限らず、好きなマンガの中に出てくるメニューはつくってみたくなるのが人情かもしれない。思い起こせば、私にだって『包丁人味平』(牛次郎・原作/ビッグ錠・作画)を読んで「ブラックカレー」をつくろうとして、失敗したブラックヒストリーがある。マンガの中で使っている材料で、同じようにつくったつもりなのだが、いまだに原因は不明なままだが……。
料理マンガからレシピ集が生まれる時代
グルメ・マンガでレシピが重視されるようになったのは、『ビッグコミックスピリッツ』で1983年に連載が始まった、雁屋哲・原作/花咲アキラ・作画の『美味しんぼ』あたりからだと言われている。それまでのグルメ・マンガは料理対決や、主人公の料理人としての成長を描くものが主流で、レシピにはあまり細かく触れられていなかったのだ。
『美味しんぼ』も、究極のメニュー対至高のメニューという料理対決構造をとってはいるが、だしのとり方や素材の活かし方といったうんちくが随所に散りばめられていた。ただ、至高と究極だけに食材には凝っていて、スーパーやデパ地下でささっと揃えるのはかなり難しい。料理方法も含めて素人がおいそれと真似できないハードルの高さが難点といえば難点だった。
マンガ飯への流れをさらに一般化させたのが、『モーニング』で1985年から連載が始まったうえやまとちの『クッキングパパ』だろう。このマンガにはそもそも料理対決が出てこない。ほのぼの路線の1話完結式で、主人公は伝説の料理人でも料理評論家でもなく、ごく普通のサラリーマン。家事が苦手な妻に代わって料理の腕を振るうが、調理師免許を持っているわけではない。使う食材も身近なもので、出張先や旅行先で珍しい料理に出会うこともあるが、基本は誰もがつくれる家庭料理になっている。
『クッキングパパ』には毎回、中心になった料理の絵入りレシピがつくというのがミソで、それを読めば味の再現ができる仕掛けだ。レシピだけをまとめた料理本もつくられてベストセラーになっている。
ほかにも、マンガからレシピ集までつくられた例としては、夫が単身赴任中の妻がズボラでもおいしいご飯をつくる『花のズボラ飯』(久住昌之・原作/水沢悦子・作画)や、飲んべえの主人公がひたすら酒と肴を楽しむ『酒のほそ道』(ラズウェル細木)などもある。
これをさらに一歩進めたのが、レシピサイトとの連携だった。
クックパッドを見ながらマンガ飯をつくる
『クッキングパパ』はマンガ飯を紹介する個人のブログでも紹介されることが多いが、「クックパッド」は、2013年に講談社とのコラボで、クックパッドスタッフが選んだマンガとレシピを毎週配信するサービスをスタートさせた。マンガ配信は2016年夏に終了したが、レシピを再現した「クッキングパパレシピのキッチン」は今も利用できる。
このほかにも、クックパッドでは2011年に、料理研究家の魚柄仁之助/原作・山仲剛太/作画で『少年サンデー超』に連載され、ウェブ版も同時配信された『クックドッポ』とタイアップ(現在はリンクが切れている)していた。
中学生の天才料理少年が父親殺しの重要参考人として警察に追われながら、父親の身に起きたことの謎を解くために、父親の関係者を訪ねる旅に出る、というお話。行く先々で、ご当地のB級グルメ勝負に巻き込まれ、ミステリと旅と味がひとつになっていたのだ。
連載当時のクックパッドには、主人公・独歩がつくった創作B級グルメのレシピが紹介され、単行本の巻末にもアクセス方法が書かれていた。フグの身欠を使ったたこ焼きなど、試したいものが多いのでリンクの再開が待たれる。
左:『クッキングパパ』のキッチン(クックパッドwebサイトより)
右:『クックドッポ』1巻表紙(2011、小学館)
というわけで、実際にマンガ飯にチャレンジすることにしよう。マンガは、ウェブ雑誌『少年マガジンR』で連載中の『紺田照の合法レシピ』(馬田イスケ)。アウトローの高校生が実は料理名人という一風変わったグルメマンガだ。日々、命をやり取りする修羅場を潜りながら、学校では意外に真面目で、寡黙な生徒。弁当も自分でつくっていて、ガールフレンドらしき存在もいるという落差がマンガとしての読みどころだ。そして、1話ごとに紺田照のオリジナル料理が登場するのがもうひとつの売りだ。
取引相手のロシア・マフィアを納得させるために豆乳入りピロシキづくりに挑んだり、割れたビール瓶からヒントを得てタジン鍋でカレーをつくったり、弁当のおかずに薄切り牛肉をミルフィーユ状のステーキに変えてみたり……。
材料はスーパーなどで手に入るものが中心で、調理方法も簡単なものばかり。冷蔵庫の残り物を使うことも多い。レシピはマンガの中はもちろん、クックパッドの「紺田照の合法レシピの公式キッチン」で公開されている。
実はこの「公式キッチン」は日頃から愛用していて、じゃがいも衣のハムカツや先の豆乳入りピロシキはわが家の定番メニューになっている。今回試したのは、第3巻に登場する「鶏手羽元と蕪のオーブン焼き」。
塩麹と酒、おろしにんにくをすり込んで30分置いた手羽元と、くし切りにした蕪を200度のオーブンで裏表合計25分程度焼くだけ、というお手軽料理だ。
マンガには調味料の分量やオーブンの温度、焼き時間などが明記されていないが、クックパッドにはしっかり書かれているので助かる。コツは、少し残した蕪の茎に残った砂をきれいに取ることと、皮をやや厚めにむくことくらい。
『紺田照の合法レシピ』3巻(表紙)(2016、講談社)
左:『紺田照の合法レシピ』3巻(p.128)
右:実際につくった「鶏手羽元と蕪のオーブン焼き」
さらにクックパッドには、「つくれぽ」と題してユーザーが試したアレンジメニューなども載っている。この料理の場合は、塩麹の代わりに、市販の肉を柔らかくする調味料を使ったものと、手羽元の代わりに胸肉を試したものが出ている。
味は、ビールにもご飯にも合う。ほかのマンガメニューもつくってみたくなった。
こういう人が増えているのが、「マンガ飯ブーム」の真相なのかもしれない。