30時間でゲームを開発する「ゲームジャム高梁(たかはし)2018」(主催:一般社団法人クリエイティブシティ高梁推進協議会)が岡山県高梁市の吉備国際大学で2018年10月27日・28日に開催され、地元のインディ(独立系)ゲーム開発者や学生30名が参加。5作品が完成し、インターネット上に公開された。また、デジタルコンテンツの協業制作を体験する「デジタルからくり装置作りワークショップin高梁」(主催:国際ゲーム開発者協会〔IGDA〕日本)も併催され、小学生15名がパソコン上でドミノ倒しづくりに挑戦した。
「ゲームジャム高梁2018」会場の様子
過去4回の開催で恒例行事化
ゲームジャムは職歴もスキルも多彩な参加者が会場で即席チームを結成し、数十時間でゲームを制作するイベント。ゲーム制作に必要な暗黙知が効率的に習得できるとして、世界的な盛り上がりを見せている。こうした流れを受けて、コンテンツ制作を通した地域活性化を吉備国際大学と進めてきた高梁市と、インディゲーム開発者を中心に岡山市で発足した「岡山Unity勉強会」や「中四国ゲームジャム実行委員会」が連携し、2015年に市役所を会場に初開催。県外からも参加者を呼び寄せ、17名でゲームづくりを行った。
その後もゲームジャム高梁は毎年秋の恒例行事となった。今年度は運営がクリエイティブシティ高梁推進協議会に移管され、産官学連携によるゲームジャムを支える運営母体が確立。9月15日・16日には吉備国際大学で「VTuberハッカソン2018 岡山大会 in 高梁」(主催:岡山Unity勉強会)も開催され、約40名が参加した。ゲームジャム高梁の参加者を中心にIT&コンテンツ制作関連のベンチャー企業も発足するなど、ゲームジャム高梁の人材育成に関する取り組みは、着実に成果を見せ始めている。
今年度の参加者は専門学校生23名、大学生2名、社会人5名で、香川県から駆けつけた社会人もみられた。会場は24時間開放され、遠隔地からの参加者向けに大学側が宿泊施設を無料提供。食事も地元企業が協賛し、参加者に無償でふるまわれるなど、高いホスピタリティが実現された。会場には地元のインディゲーム開発者が制作したオリジナルゲームや、ゲームジャムで開発中のゲームを試遊するスペースも設けられ、見学者や後述するワークショップの参加者がゲームに興じたり、感想を提示したりする姿もみられた。
ゲームジャム高梁の中核メンバーである、高梁市議会議員の石井さとみ氏(左)と、岡山理科大学講師の山根信二氏(右)
学生と社会人が一緒になってゲーム制作に挑戦
ゲームジャムで開発されたゲームのテストプレイをする参加者(左)と、地元のインディゲーム開発者が制作したゲームをプレイする子どもたち(右)
地元企業からの協賛で豪華な食事が参加者にふるまわれた
2018年7月に西日本を襲った豪雨災害で、全壊58戸を含む市内440戸が被害を受けた高梁市。こうした経緯から本年度の制作テーマは「つながる」となり、復興の意味合いもこめられたゲームジャムとなった。そのなかでも高梁市の偉人や建造物などを積み上げ、高さを競う『Pittanko Takahashi』が完成度の高さから最優秀賞にあたる高梁賞を受賞。地元企業から提供された記念品を受け取った。
なお、完成したゲームは公式サイト内(https://itch.io/jam/game-jam-takahashi-2018/entries)で公開され、自由にダウンロードしてプレイできる。
高梁賞を受賞した『Pittanko Takahashi』制作チームの面々と、受賞理由を述べる吉備国際大学アニメーション文化学部教授の井上博明氏(右)
開発された5本のゲーム
実際に開発された5本のゲームの概要を紹介する。高梁賞のほか、吉備国際大学の建学に多大な功績を残した福西志計子にちなんだ福西賞が『走れ!コンセント君』。幕末の高梁で、偉大な教育・経世家として藩政改革を成し遂げた山田方谷にちなんだ方谷賞が『BeEaten』に贈られた。
●『Pittanko Takahashi』(高梁賞)
2人対戦専用ゲームで、上から落下してくる高梁市にゆかりのあるアイテムをつみあげ、制限時間内で高さを競う。シンプルでわかりやすいルールや、1ボタンで操作できる点、ゲームとしての総合的な完成度などが評価され、高梁賞を受賞した。
●『走れ!コンセント君』(福西賞)
コンセント状のキャラクターを操作して部屋の中を動き回り、家電のプラグをオンオフしながら制限時間内に決められた課題を達成していくアクションパズル。チュートリアルを兼ねたステージ1と、本編のステージ2が楽しめる。
●『BeEaten』(方谷賞)
食物連鎖をテーマとした4人対戦専用のアクションゲーム。小さな魚からスタートし、自分を補食させることで、より大きな魚を操作できるようになる。最終的に画面右上のシャチに補食させれば勝利。
●『つなげてスライム~Connecting Slime~』
スマートフォン向けのアクションゲームで、スマートフォンを傾けたり、振ったりしながら、さまざまな障害物を乗り越え、スライムをゴールまで導いていく。大きなスライムを振って分割したり、タップして合体させたりと、大きさを変えることができる。
●『ラブコネ(仮)』
ゲーム&ウォッチ『マンホール』を彷彿とさせるアクションゲーム。画面左から登場し、右に向かって移動する天使を落下させないように、雲の切れ間をキー操作で塞いでいく。天使のキャラクターにはUnity Technologies Japanが配布している「Unity-Chan!(http://unity-chan.com)」を使用している。
「デジタルからくり装置作りワークショップ in 高梁」を併催
一方、本年度は新たな取り組みも見られた。ゲームジャムの会場ロビーにパソコンが並べられ、IGDA日本が主催した「デジタルからくり装置作りワークショップ in 高梁」が同時開催された。ワークショップはゲーム開発ツールUnity上で、ドミノ倒しのようなコンテンツを共同制作するというもの。また、クレヨンで描いたキャラクターをカメラで取り込み、ドミノ倒しのステージ上に表示させる「お絵かきワークショップ」も組み込まれている。なかには付き添いの保護者が子どもと一緒になって挑戦する姿もみられた。
「デジタルからくり装置作りワークショップ in 高梁」会場の様子
本ワークショップは2016年にスタートし、少しずつかたちを変えながら日本各地で開催され、今回で7回目となる。今回は新たにオブジェクトが触れると爆発エフェクトを発する爆破ブロックが追加され、子どもたちの関心を引いていた。もっとも、子どもたちのなかには爆破ブロックを配置しすぎて、爆発で飛散したブロックがほかのステージに影響を与えてしまったり、ボールの動きがうまくつながらなくなったりする例もみられた。子どもたちは、楽しみながら共同制作ならではのジレンマも体験したというわけだ。
「お絵かきワークショップ」はゲーム内に出現させるキャラクターを、指定の紙に描く(左)と、作成したキャラクターがクラウド経由でブラウザ上に表示されるというもの。「デジタルからくり装置作りワークショップ」とも連携し、作成したキャラクターを画面上に表示できる(右)。
初めは緊張していた子どもたちも、徐々になれていき、友達どうしで制作物を見比べ、歓声をあげるようになっていった
高梁市の人口は約3万2000人で、ほかの多くの地方自治体と同じく、人口減少問題に直面している。その一方で地域がコンパクトで、小回りが効きやすいメリットもある。
会場でもゲームジャムやワークショップを通して、保護者と市議会議員や運営スタッフがプログラミング教育について意見交換をする姿などもみられた。
世界的に見ても産官学によるゲーム産業育成策が功を奏しているのは地方自治体レベルが多い。ゲームジャム高梁が今後どのような成果を見せていくか、継続した取り組みを期待したい。
(information)
ゲームジャム高梁2018
日時:2018年10月27日(土)、28日(日)
会場:吉備国際大学 高梁キャンパス 国際交流会館
http://itch.io/jam/game-jam-takahashi-2018