2018年9月29日~12月24日にかけて、マンガ家・一条ゆかりの「集英社デビュー50周年記念 一条ゆかり展 ~ドラマチック!ゴージャス!ハードボイルド!~」が東京・本郷の弥生美術館にて開催。展示の様子をレポートする。

「集英社デビュー50周年記念 一条ゆかり展 ~ドラマチック!ゴージャス!ハードボイルド!~」チラシ

強い意志を持った女性像を描く

同展覧会は、豊富な原画や当時の印刷物(雑誌や単行本、そしてふろくなど多岐にわたる)などから50年にも及ぶ一条の画業を振り返るとともに、一条本人のコメントを交えながらその制作の歴史に迫るという内容だ。
展示は1967年の集英社「第1回りぼん新人漫画賞」にて準入選を果たし、同誌デビューのきっかけとなった作品『雪のセレナーデ』から、集英社「コーラス」で2003年から2010年に連載され、第11回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した『プライド』までを年代順に追っていくという構成になっている。展示作品だけ追っていても見応えがあるボリュームだが、各作品が描かれたときに一条自身が置かれていた境遇や、作品についてのコメントも同様に見逃せない。
幼い頃から絵を描くのが得意でマンガ家になることを夢見ていたという少女時代、もともと裕福であった家庭は父の代で躓いたため、一条は小学生の頃からアルバイトをして自立を目指していたという。また、『世界少年少女名作全集』(創元社、1953-1956)を愛読していたことからヨーロッパの貴族に憧れ、映画のようなスケールの作品を描きたいとその頃から考えていた。
「女性にとって仕事は自分を守ってくれるものなので、人生の保険として手放してはいけない」(会場内パネルより)と語る一条。その強い信念は、彼女が描き出してきたさまざまな野心や欲望を抱え、自らの強い意思を持ってその人生を切り開いていく登場人物たちにも重なる。
例えば、1969年に発表された『ヘイ!メリアン』(「りぼんコミック」6月号掲載)では、男子校に留学してきた少女・メリアンが野球部に入って活躍し、エースの少年から思いを寄せられる。しかし実はメリアンが来日した理由は、憧れの人にプロポーズするためというストーリーだ。また、2003年から連載された『プライド』ではオペラ歌手のトップを目指す対照的な女性二人が、強かで華やかに活躍しながらも泥臭くもがく姿が描かれている。一条が一貫して強く魅力的な女性像を提示してきたということが、展覧会を通して伝わってくる。

展示会場の様子
展示作品より「プライド」『コーラス』2007年4月号 扉 ©︎一条ゆかり/集英社【展示期間:後期】

少女マンガに留まらず幅広い作品を制作

また、一条は「りぼん」で挑戦的な作品を発表することによって、それまでの対象年齢を引き上げ、幅広い読者層を得ることに成功したということも、本展では大きなトピックとして紹介している。

もともとルールを破るのは好きでしたけれど笑、全てを逸してはいけないこともわかっていたから、いきなりバーンと制約を破るのではなく、針でつついて少しずつ穴を大きくしていくような破り方をしていました。(略)ルールを破る、というかルールを緩めて広げる、みたいなことをずっとやっていました。(会場内パネルより)

それまで「りぼん」で許容されていた表現を超え、ベッドシーンまで描いたほか、家族間の恋愛や年の離れた恋愛など、さまざまな愛の形もまた表現してきたことがわかる。
「常に代表作を更新していく」という重圧を自らに課していたかのように見える一条は、マンガ界を牽引する存在であり続け、半世紀にわたって新しい作品を提示し続けてきた。その一方で変わらないものは、華やかかつ野心的に、たくましく生きる登場人物たちの姿だろう。その姿こそが読者を勇気付け、奮い立たせてきたのだ。
なお、本展において惜しむらくは、一部の展示が原画ではなく掲載当時の雑誌のコピーになっていたところだ。50年もの間、多くの作品を生み出してきた作家の原稿が失われるということは、おそらく少なくない頻度で起こっているだろう。あらためてマンガ原稿の保存・管理方法についても考えさせられることとなった。
とは言え、数々の原画や印刷物からは、一条ゆかりというマンガ家が描いてきた作品が、いかに先進的なものだったのか、存分に感じさせられる。また、一条がいかに同時代の少女たちや女性、そして少女マンガが縛られていた慣習や価値観と戦ってきたのかを再認識することができる展覧会となっていた。


(information)
集英社デビュー50周年記念 一条ゆかり展 ~ドラマチック!ゴージャス!ハードボイルド!~
会期:2018年9月29日(土)〜12月24日(月・祝)
会場:弥生美術館
料金:一般 900円/大学・高校生 800円/中・小学生 400円
http://www.yayoi-yumeji-museum.jp/yayoi/exhibition/past_detail.html?id=1263