「マカロニほうれん荘展 in 福岡」が2018年11月17日(土)~2019年1月17日(木)にわたって北九州市漫画ミュージアムで開催されている。本展覧会は、連載開始から40年あまり経過した『マカロニほうれん荘』を展示の中心としつつ、鴨川つばめの画業を振り返るものとなっている。

「マカロニほうれん荘展 in 福岡」会場入り口

ついに開催された原画展

鴨川つばめの『マカロニほうれん荘』は、1977年から1979年に「週刊少年チャンピオン」に連載された作品であり、今もなお多くのファンに愛されている。だが、インタビューや原画展のようなイベントは長い間行われてこなかった。
そんな長い沈黙を破り、2018年5月19日(土)~6月3日(日)に東京の中野ブロードウェイ・Animanga Zingaroで原画展「マカロニほうれん荘展」が開催された。好評を博した同展は、8月4日(土)~26日(日)に大阪のあべのandでも開催されることとなる。本展覧会はそれらに続く巡回展であり、満を持して作者の地元・福岡での開催となった。北九州市漫画ミュージアム学芸員の石井茜氏によれば、福岡での開催にあたって、展示パネルやキャプションに用いる作家プロフィールや書誌、作品解説などを本展にあわせて追加したとのことである。これは漫画ミュージアムならではのこだわりポイントであるとともに、初めて鴨川作品に触れる人への作品の紹介としても機能する狙いがあるという。

「マカロニほうれん荘展 in 福岡」来場者へのメッセージ
「マカロニほうれん荘展 in 福岡」原画とキャプション

鴨川つばめの作品を幅広く展示

本展覧会では展覧会名に記されている『マカロニほうれん荘』の原画はもちろんのこと、東京・大阪展ではなかった『マカロニ2』、『ドラネコロック』といった『マカロニほうれん荘』と同時期の鴨川の他作品から、近年の仕事まで展示されている。原画だけでも280点、連載当時のグッズやファンレターのスクラップブックといった展示物を含めると、総展示物数は300点弱にものぼる。もはや「鴨川つばめ展」とさえ呼べるレベルのボリュームといえよう。とはいえ、展示スペースの都合上すべての展示物が同時期に展示されることはなく、12月19日を境に前期と後期で90点以上の展示物が入れ替えられている。
展示されている原画は、すべて鴨川のセレクトによるものであり、多くの原画が1話分全ページでの展示となっている。中でも『ドラネコロック』の原画については、クリスマス回やお正月回といった展覧会中の時期にちなんだ話もセレクトされており、鴨川の選出センスにニヤリとさせられる。『マカロニほうれん荘』は、第1話から終盤まで幅広く原画がセレクトされており、鴨川の真骨頂ともいえる強弱のついた独特のタッチや多くの要素をまとめ上げる高い画面構成能力に加えて、同作品後期に見られるボールペンで描かれたような硬く勢いのある描線や、マジックペンによるラフな描線まで原画で確認することができる。
カラーあるいは2色原稿が多く選出されているのも本展覧会の特徴といえる。コマごとの感情表現を演出する背景の色や、登場人物のファッションにおける色使い、唇や夕焼けに見られる2色原稿での印象的な赤の使い方など、モノクロで収録されているコミックスでは見ることができない鴨川の多彩なカラーリングを味わえるのは、原画展ならではといえる。展示スペース内では『マカロニほうれん荘』、『ドラネコロック』、『マカロニ2』などのコミックスを自由に手に取ることができるため、展示作品以外の物語を読むだけでなく、コミックスと原画を比較して両者の違いを楽しむことも可能となっている。

『マカロニほうれん荘』第24話「朝焼けに愛を語ろう」展示(前期に展示)
『ドラネコロック』より「おやじのシャララ!!」展示(後期に展示)
鴨川つばめの近年の仕事「#5KEY⓾Music カバーイラスト」(後期に展示)

展覧会にも取り入れられたロックの要素

『マカロニほうれん荘』はロックミュージックの影響を強く受けた作品でもあり、劇中のギャグのネタや登場人物の衣装などに70年代当時のロックが使用されている。その要素は本展の演出にも取り入れられており、展示会場内では鴨川自身のセレクトによる104曲ものロックミュージックがBGMとして流されている。また、展覧会スペースの最後には、会期と同時期に公開中であった、ロックバンド「クイーン」を題材とする映画『ボヘミアン・ラプソディ』のポスターが掲示されている。石井氏によれば、会期と映画の公開時期が重なったことはまったくの偶然だが、『マカロニほうれん荘』と映画とを関連付けて語るファンも多く、相乗効果で盛り上がっているということである。

(左)『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)のポスター
(右)鴨川つばめによるBGM選曲リスト

どこまでも続く「マカロニ」のつながり

『マカロニほうれん荘』第1話に始まり、数多くの鴨川作品が一堂に会する本展覧会は、鴨川つばめの画業を会場スペースに凝縮したものといえる。鴨川が魂を込めて生み出した数々のハイテンション・ギャグは、後続のマンガ家にも多大な影響を与えただけでなく、多くの読者を魅了した。本展で展示された当時のファンレターのスクラップブックからは、そんな当時の読者の熱狂とともに、鴨川が読者とのつながりをいかに大事にしていたのかがわかる。そして鴨川がファンを大切にする姿勢が今なお変わっていないことは、本展がすべて写真撮影可となっていること、鴨川・秋田書店サイドから来場者へのポストカードのプレゼントが提案されたことからもうかがい知れる。
原画や音楽を通じて作品のさまざまな魅力を提示した「マカロニほうれん荘展 in 福岡」であるが、鴨川つばめの展覧会は2018年に始まったばかりである。長年の沈黙を破り、展覧会という形で再び生まれた鴨川とファンとのつながりは、今後どのように展開していくこととなるのか、注目していきたい。

『マカロニほうれん荘』ファンレターのスクラップブック
来場者プレゼントのポストカード

(information)
「マカロニほうれん荘展 in 福岡」
会期:2018年11月17日(土)~2019年1月17日(木) 11:00~19:00
休館日:毎週火曜日
会場:北九州市漫画ミュージアム 常設展示エリア(あるあるCity 6階)
入場料:一般400円、中高校生200円、小学生100円
http://www.ktqmm.jp/kikaku_info/9645

※URLは2019年1月7日にリンクを確認済み