1985年頃のアニメブームの衰退とともに、勢いを失っていったアニメ雑誌だが、1992年より放映されたテレビアニメーション『美少女戦士セーラームーン』をきっかけとしたアニメブームにより、新たな局面を迎えた。最終回の今回は、そんな1990年代から現代に至るまでに創刊された数々のアニメ雑誌を取り上げながら、その方向性を探っていく。
「クイック・ジャパン」vol. 10(1996年)表紙
再びのアニメブームとともに創刊ラッシュ
1990年代に入り、再びアニメブームが訪れる。起爆剤となったのは1992年の『美少女戦士セーラームーン』。この勢いは1995年の『新世紀エヴァンゲリオン』に繋がっていく。この人気の高まりの中、アニメ雑誌にもさまざまな動きが出てきた。それはアニメ雑誌がファンの関心に応えるためにセグメント化されていく過程であった。
1990年代の動きとしてまず注目したいのが、声優雑誌の登場だ。1990年代アニメブームと軌を一にして、声優ブームも起きていた。1960年代のブーム、1980年前後のブームに続く、第3次声優ブームである。それを受け、1994年に「ボイスアニメージュ」(徳間書店)と「声優グランプリ」(主婦の友社)が刊行された。こうした雑誌は、声優の撮り下ろしグラビアが大きなセールスポイントとなっていた。第3次声優ブームは、まず女性声優が人気を牽引したが、21世紀に入ると男性声優も注目を集めるようになり、今や声優は「憧れの職業」のひとつとなった。それを反映し、声優雑誌も増加して、現在は刊行ペースもさまざまに十数誌が刊行されているという。
次に注目したいのはA5判で文字中心のアニメ誌の登場である。これまでの主流だったA4判ビジュアル雑誌に対し、インタビューなどをメインにした読み物中心のアニメ誌が登場するようになったのである。
この背景には、エヴァンゲリオンブームのなかで、いわゆる“謎本”も含めた、本作品を語る書籍・雑誌が多数出版されたことがあると思われる。これがスタッフインタビューも含めた「アニメを語ること」にニーズがあるという判断に繋がったのではないだろうか。
A5判のアニメ雑誌としては、1997年1月にはキネマ旬報社から不定期刊で「動画王」がスタート。最新作を取り扱うのではなく、「メカデザイン」「魔法少女」などのテーマを中心に、過去の作品をフィーチャーしていく内容で、vol. 12まで出版された。また同年夏には「月刊ニュータイプ」増刊号として「Newtype mk.Ⅱ」(角川書店)も登場。こちらは業界を背負うアニメーション監督のインタビューを集めた内容だったが、同誌は単発で終わってしまった。そのほか1999年に「季刊アニメ批評」(マイクロマガジン社)、2004年に「Anime Studio」(宙出版)が創刊されているが、どちらも短命に終わった。
こうしたA5判アニメ雑誌の代表選手としては2006年創刊の「オトナアニメ」(洋泉社)が挙げられる。新作のスタッフインタビューを中心にした紙面構成で2015年の第37号まで続いたが、現在は休刊中である。
このほかゲーム雑誌としてスタートした「CONTINUE」(2001年創刊、太田出版)や、ポップカルチャーマガジンを標榜する「Febri」(2007年創刊、2009年に休刊するも2010年に現在の形にリニューアルして復刊、一迅社)が、A5判雑誌としてアニメを積極的に取り上げている。
「CONTINUE」vol. 55(2018年)表紙
ちなみにこのようなアニメだけに特化せず、ゲームなども包括した“オタク総合誌”とでもいうべき雑誌はほかにも存在しており、2007年創刊の「メカビ」、2006年創刊の「現代視覚文化研究」(三才ブックス)などが知られている。
一方、1990年代後半には、A4判のアニメ誌も創刊が続いている。いずれも1997年夏に公開されたアニメ『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを君に』と『もののけ姫』の盛り上がりが後押しをしたものと思われる。
まず1998年に「AX」(ソニー・マガジンズ)、「電撃B-magazine」(その後「電撃Animation magazine」に改題。メディアワークス)が新たに創刊された。OVA専門誌であった「アニメV」(1985年創刊、学習研究社)も同年に総合アニメ雑誌「Looker」として新創刊している。しかしこれらの雑誌は新たな読者を開拓することは難しく、いずれも2001年までに休刊している。まただいぶ遅れて2005年にDVD付録がついた「アニメーションRE」(インデックス・コミュニケーションズ)が登場しているが、こちらもvol. 3で終わった。この後、2002年より放映された『機動戦士ガンダムSEED』が大ヒットを記録すると、総合アニメ雑誌は部数を大幅に増やすことになるのだが、これら新雑誌が2002年まで継続していたら果たしてどのような結果になったであろうか。
アニメファンの変質に基づくアニメ雑誌の変化
どうしてA4判総合アニメ誌は苦戦したのか。おそらくその理由は、アニメファンの変質にある。
アニメ雑誌が誕生したころは、テレビアニメの本数も今ほど多くなく、ファンも「アニメファン」とひとくくりにできるぐらいのまとまりがあった。だが、1990年代末になると、深夜アニメ枠の放送が本格的となり、アニメの本数が爆発的に増え始めたため、ファンのセグメント化は加速していた。また同時に、ゲームやマンガといった隣接ジャンルに、かつてアニメが担っていた魅力を持つものが増えてきて、アニメが“オタク趣味”のワン・オブ・ゼムになっていったという状況もあった。
こうした状況は先述の“オタク総合誌”の成立を促す一方で、「最新の話題作を中心にまんべんなくシーンをフォローする」という総合アニメ誌の訴求が弱くなってしまう状況を生んでいたのだろう。
そうした状況は、先述の「声優雑誌」のように「アニメのなかの1要素」に特化した雑誌を生むことにもつながった。
例えば制作技術を軸に、スタッフに迫る雑誌としては「アニメスタイル」(2000年創刊し、第2号で休刊、ウェブマガジンに移行。その後2011年に復刊。美術出版社→スタイル社)や「アニメーションノート」(2006年創刊、誠文堂新光社)が登場した。またデザイン雑誌の『MdN』(エムディーエヌコーポレーション)、CG技術に特化した「CGWORLD」(ボーンデジタル)などもたびたびアニメーションを取り上げるようになった。
「MdN」vol. 283(2017年)表紙
またアニメを含む美少女キャラクターに特化した「メガミマガジン」(学習研究社)も登場。1999年に創刊され、セクシーな版権イラストをセールスポイントにした同雑誌は人気を集め、他社でも類似の企画(「アニメージュ」の増刊「萌えめーじゅ」、「月刊ニュータイプ」の増刊「娘TYPE」など)も登場した。逆に女性ファンに向けた雑誌としては、2007年に「PASH !」(主婦と生活社)が登場。女性向けのカルチャー誌「spoon」の別冊としてスタートした「spoon.2Di」(プレビジョン)も女性ファンにターゲットを絞った編集方針で継続している。
このほか専門性の高い雑誌としては、メカニックに特化した「GREAT MECHANICS」(2001年創刊、双葉社)、アニメソング専門誌「リスアニ!」(2010年創刊、エムオン・エンタテインメント)などがある。
異色のアニメ誌としては、「日経エンタテインメント!」の増刊としてスタートした「日経characters!」(2003年創刊、日経BP社)や、フリーペーパー・ブームの時期に立ち上げられた無料アニメ誌の「まんたんブロード」(毎日新聞社)、「アニカン」(エムジーツー)などがある。
また1990年代末からは、いわゆる一般雑誌でもアニメ特集がしばしば組まれるようになったことも無視できない。
例えば『新世紀エヴァンゲリオン』については、アダルト雑誌「デラべっぴん」(英知出版)が放送終了直後の1996年8月号で14ページの大特集を組んでいるし、カルチャー誌「クイック・ジャパン」がvol. 9とvol. 10で連続して『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督のロングインタビューを掲載し大きな話題になった(このインタビューは後に『スキゾ・エヴァンゲリオン』『パラノ・エヴァンゲリオン』〔いずれも1997年、太田出版〕として単行本化された)。またカルチャー誌「STUDIO VOICE」(INFASパブリケーションズ)も1997年3月号で本作品の大特集を組んでいる。
『新世紀エヴァンゲリオン』をその先駆けとしつつ、21世紀に入ってからは「CUT」(ロッキング・オン)、「SWITCH」(スイッチ・パブリッシング)といった一般雑誌が、劇場映画の話題作公開のタイミングなどに合わせてアニメ特集を組むことは当たり前に行われるようになった。
こうして振り返ってみると、1990年代からのおよそ四半世紀は、「ジャンル内での細分化」と「一般誌のアニメ誌への接近」という2つの状況に挟まれて、「アニメ誌とは何か」が問われ続けた時期であったといえる。
1970年代後半に誕生したアニメ誌は、若者向けビジュアル誌としてスタートし、やがてアニメの浸透、ファン層の拡大とともにそのスタイルも内容も多様化して現在に至った。一部のアニメ誌は既に電子版もリリースしているが、これからのアニメ誌がどうなっていくかの予想は難しい。それは雑誌メディア全体の行く先が不透明なことと、アニメ系WEB媒体がアニメ誌とは本質的に異なるメディアとして成立したことの2点と無関係ではない。また公式サイトなどでスタッフインタビューもはじめ本格的な情報発信を行うケースも増えている。こうした状況の変化はあるものの、アニメ誌のように「ファンの視線をベースに、作品やクリエイティブへの関心をコンパクトにまとめた媒体」というのはほかに存在しないのも事実。今後どのような形になろうとも、アニメ誌のその部分は不変ではないだろうか。