「ジャポニスム2018:響きあう魂」公式企画「MANGA⇔TOKYO」展が、2018年11月29日(木)から12月30日(日)までの間パリ市内のラ・ヴィレットにて開催された。ジャポニスム2018では日仏友好160年を記念し、パリを中心に様々な日本文化を紹介する展示会やイベントなど大規模な複合型文化芸術イベントを8カ月にわたって開催している。本展はその一環であり、日本のマンガ、アニメ、ゲーム、特撮作品を取り上げた展示会となっている。
「MANGA⇔TOKYO」展キービジュアル
「MANGA⇔TOKYO」というタイトルが示す通り、本展は「東京」と作品の相互関係をコンセプトに、現実の東京が作品をいかにインスパイアし、またフィクションやそのキャラクターたちによって実際の東京がどのようにその景観やイメージを変化させてきたかを、90タイトルを超える作品の原画や作品映像などを通じて来場者に伝える展示となっている。
展示が行われたラ・ヴィレット公園はパリ市内の北部に位置し、その敷地の中には科学館やシアター、展示施設、ホールなど多数の文化施設が設置されている。今回「MANGA⇔TOKYO」展が開催されたのは「グランド・ホール」と呼ばれる建物で、展示会場面積も約3,500㎡(入り口前も含めれば約4,000㎡)と大規模な展示となっている。また最大20mほどの天井高も併せて、建物の内部は美術館や博物館というよりも巨大な体育館やイベントスペースのような空間が広がっている。
左:グランド・ホール外観
右:展示会場内 展望デッキより
さらに展示会場の内部は、中央の大きなスペースを囲むよう4隅に中2階のようなエリア(ギャラリー)が5つとそれらをつなぐブリッジが配されており、そのエリアからは会場全体が見渡せるようになっている。この「グランド・ホール」の巨大な空間と独特な会場の構造は、そのまま「MANGA⇔TOKYO」展の展示構造に取り入れられており、この展示の大きな特徴のひとつとなっている。
会場簡易図面(筆者作成) 灰色の部分が中2階とブリッジ部分
まず展示会場の入り口前には、秋葉原や池袋に掲示されていたアニメやゲームの広告が展開され来場者を出迎える。建物の中に入ると秋葉原や池袋のアニメショップを再現した「リトル秋葉原・リトル乙女ロード」が設置されている。来場者はこのショップエリアで実際にグッズを購入することもできる。
左:会場入り口部分
右:ショップエリア 「リトル秋葉原」(手前)と「リトル乙女ロード」(奥)の2スペースに分かれており、それぞれ男性向けと女性向けの商品を中心に展開している
会場のショップエリアで販売されている「MANGA⇔TOKYO」コンセプト・ブック ゲスト・キュレーターの森川嘉一郎准教授(明治大学)の解説、展示のオリジナルキャラクターをデザインした吉成曜氏らの座談会などが収録されているほか、オリジナルキャラクター「ヨリコ」と「ビッピー」のアクリル・フィギュアが付属している。会場内のショップエリア限定販売
そして店舗の脇を抜け会場内へ入ると、巨大なスクリーンと東京の模型が設置された展示空間が広がっている。スクリーンにはアニメ・ゲーム・特撮の映像と東京のマップが表示され、映像の舞台となっている箇所が示されている。さらに模型の同じ場所がムービング・ライトで照らされ、来場者にまさに今観ているシーンの舞台が現実に東京に存在すること、作品と現実の都市が密接な関係にあることを伝える構造になっている。
会場中央 中央のメイン・スクリーンのほかにもサブ・スクリーン(写真中央奥)が設置され、都市模型と対応したマップで作品の舞台となった場所も示される
都市模型 縮尺は1/1000で模型サイズは約21m×17m
左:展望デッキより見たスクリーンと都市模型 スクリーンに映っている『秒速5センチメートル』のシーンの舞台となった代々木付近に模型上でもライティングされている
右:こちらは『シン・ゴジラ』のシーン
先に述べた通り、中2階は5つのエリア(ギャラリー)で構成されているが、そのうちギャラリー1とギャラリー2では現実の東京が破壊と復興を繰り返しながら発展してきたこと、あるいはその時代ごとの東京の日常を、マンガ・アニメ・ゲーム・特撮といった作品がどのように描きだしてきたのかが膨大な数のマンガ原稿や映像によって語られる。
ギャラリー1 「破壊と復興の反復」をコンセプトに、東京が災害などで繰り返し都市レベルの破壊を被りその都度復興を遂げてきたこと、そうした体験がフィクションに大きな影響を与えてきたことが展示される
左:ギャラリー2b ギャラリー2は「東京の日常」をコンセプトにabcの3つのエリアで構成され、東京で生きる人々の日々の暮らしを描いた作品を通じて江戸時代から現在までの東京の変遷をたどる
右:ギャラリー2c 各ギャラリーは壁ごとに時代や「コンビニ」などのサブテーマで区分けされており、それぞれのテーマに沿ってセレクトされた作品・シーンが展示されている
このようにギャラリー1およびギャラリー2では、いわば「現実の東京がどのように作品に影響を与えたか」が展開されているのに対し、最後のギャラリー3では「作品やそのキャラクターが現実の東京をどのように変えたか」、フィクションが現実の東京の景観に侵食するさまが示される。キャラクターの等身大ポップやフィギュア、さらにアニメなどとタイアップした電車やコンビニ店舗の再現展示などが展開されている。
電車再現展示 「ラブライブ!」とタイアップした電車車両の再現展示。窓の外にはマンガやアニメなどの広告があふれる現実の東京の風景の映像が流れ、効果音も合わさって実際に電車に乗っているような体験ができる
撮影 OMNIBUS JAPAN INC.
コンビニ店舗再現展示 「初音ミク」とタイアップしたコンビニの店舗再現。外装のラッピングのみならず、店内ポップや棚に並んだコラボグッズの再現、さらには店内放送まで流れている
等身大フィギュア・ポップなど イベントなどで「現実の東京に現れた」キャラクターたち
また会場の構造上、すべてのギャラリーから会場中央のスクリーンと東京模型が一望できるようになっており、会場のどこにいてもこのスクリーンと模型が意識づけられる。さらに一部の展示作品や各エリアに設置されたサブ・スクリーンではその作品・シーンの舞台となった場所が地図で示されており、来場者の意識が「作品(フィクション)」と「東京(リアル)」を行き来するように促されている。
また展示の最後にはメッセージ・コーナーが設けられており、来場者が絵馬を模したカードにメッセージやイラストを自由に書き込むことができる。絵馬掛けには、マンガ・アニメファンによるキャラクターのイラストやセリフを描いたもの、日本語で「たのしかった」などのメッセージが書かれたものなど、来場者が思い思いに描いた絵馬が掲げられている。また展示には休日は家族連れ、平日は課外授業で引率されてやってくる子供たちが非常に多く、このコーナーも子供たちが自分の知っている日本語や、オリジナルのキャラクターなどを描く様子が見受けられた。
左:会場俯瞰 画像手前(ギャラリー2c)や左奥(ギャラリー1)など、各エリアから中央のスクリーンや模型は一望できる構造となっている
右:メッセージ・コーナー 絵馬も模したカードにメッセージやイラストを描き、絵馬掛けに吊すことができる。特に子供たちに人気であった
会場にはマンガ・アニメのファンのみならず、先にふれた課外授業で訪れた子供たち、日本文化に興味のある人、広く展示やアートに興味を持つ人々など、幅広い層の来場者が訪れていたが、展示作品を1点ずつ熱心に見入る人、模型とスクリーンをずっと眺めている人、電車やコンビニなどの前で談笑したり記念撮影をしたりする人など、訪れた人々がそれぞれの興味や関心に沿った楽しみ方をしていることも印象的であった。
本展のキュレーターである森川嘉一郎准教授(明治大学)は、2004年のヴェネチア・ビエンナーレ第9回国際建築展の「おたく:人格=空間=都市」展、2014年に開催された「『リトルウィッチアカデミア』とアニメミライ~等身大原動画でみる作画の魔術~」展など、アニメやおたく文化に関わる特徴的な展示を多数手がけているが、この展示でも会場の構造をダイレクトに取り入れる展示構成や地図やGoogle Earthの映像の多用など、意欲的・実験的な手法が多数取り入れられている。こうした部分が上記のように幅広い来場者がそれぞれの楽しみ方で過ごしながら、日本の「MANGA」に対する興味関心や理解を高めることができる展示になっているように思われた。こうした作品の背景も内包した「MANGA」の魅力を海外の人に伝えられる機会が、今後も増えていくことを願っている。
(information)
「MANGA⇔TOKYO」展
会期:2018年11月29日(木)~12月30日(日)
会場:ラ・ヴィレット
主催:国際交流基金、国立新美術館、文化庁、マンガ・アニメ展示促進機構、ラ・ヴィレット
ジャポニズム2018 ホームページ内 「MANGA⇔TOKYO」展 概要
※URLは2018年1月15日にリンクを確認済み
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