「第22回文化庁メディア芸術祭受賞作品展」が6月1日(土)から6月16日(日)にかけて、日本科学未来館、フジテレビ湾岸スタジオを中心に開催された。開催日前日の31日(金)には、受賞作家が多数駆けつけ、報道関係者に向けて内覧会が行われた。本稿では受賞作家のコメントを踏まえながら、フジテレビ湾岸スタジオの会場の様子をレポートする。
フジテレビ湾岸スタジオではアート部門4作品、エンターテインメント部門8作品(うち3作品は日本科学未来館でも展示)、アニメーション部門1作品、マンガ部門5作品が展示されている
写真:中川周
意識的に色を使った作品が際立つアート部門
フジテレビ湾岸スタジオ会場は多目的ホール、M1スタジオの2つの空間からなり、前者には4作品、後者には14作品が展示されている。まず初めに多目的ホールで来場者を迎えるのは、アート部門で新人賞を受賞したJonathan Fletcher MOOREのインタラクティブアート『SPARE (not mine)』だ。白い壁の前には1本のタイヤが置かれ、壁にはタイヤがぶつかった跡が残っている。このタイヤは、ロサンゼルスの道路に破棄されたものであり、自動車業界における自動化の勃興と人間が受ける影響について探求している。
Jonathan Fletcher MOORE『SPARE (not mine)』
横一面に広がる白い空間に、1本のタイヤが映える
© 2018 Jonathan Fletcher Moore
場所は変わってM1スタジオには、同じくアート部門で新人賞を受賞したAndrey CHUGUNOVによるメディアインスタレーション『Total Tolstoy』が展示。本作はロシアの文豪トルストイがロシア正教会から破門され、亡くなるまでの10年間の日記を約11分の色と音声で表現した作品。さらに、優秀賞の平川紀道のメディアインスタレーション『datum』では、空間、色、時間という異なる概念を、高次元空間において対称的に扱うことで、これまでにない映像表現を実現した。物理学者らとの対話のなかで出会った「次元」という言葉に着想を得たプロジェクトだ。
平川紀道『datum』
『datum』はチリのアタカマ砂漠にあるアルマ望遠鏡周辺でのインターバル撮影で得られた映像をベースにしている
体験型ゲームからミュージックビデオまでバラエティに富んだエンターテインメント部門
また、多目的ホールには、エンターテインメント部門で優秀賞を受賞した『歌舞伎町 探偵セブン』制作チーム(代表:加藤隆生/西澤匠/平井真貴/堀田延/岩元辰郎)による体験型ゲーム『歌舞伎町 探偵セブン』が、キャラクターの設定画、キャバクラをイメージしたセットなどを踏まえて紹介されている。本作品は、参加者が「セブン探偵事務所の7人目の探偵になる」という目的のもと、実際に歌舞伎町の町をめぐりながら事件の解決を目指すというもの。
制作チームの一人である西澤氏。会期中には2つの会場を舞台に、チコちゃんが失踪してしまう事件の謎解きも行うという
© SCRAP
さらに進んでいくと、新人賞に選出されたAna RIBEIRO / Carlo CAPUTO / Julia LEMOS / Leonardo BATELLI / William RODRIGUEZによるゲーム『Pixel Ripped 1989』が来場者の目を奪う。本作は、VRゲームの中で8ビットゲーム「Pixel Ripped」をプレイするアドベンチャー作品だ。
内覧会ではゲーム内のキャラクターに扮したコスプレも披露
© ARVORE Immersive Experiences
『Pixel Ripped 1989』の奥には、優秀賞の『TikTok』、さらにM1スタジオには、同じく優秀賞の『LINNÉ LENS』、大賞の『チコちゃんに叱られる!』に関する展示が行われており、これら3作品は日本科学未来館でも紹介された。詳しくは第22回文化庁メディア芸術祭受賞作品展レポート(1) 日本科学未来館編を参照のこと。
LINNÉ LENS制作チーム(代表:杉本謙一)『LINNÉ LENS』/『チコちゃんに叱られる!』制作チーム『チコちゃんに叱られる!』
チコちゃんだけでなく、カラスの「キョエちゃん」の姿も
© NHK (Japan Broadcasting Corporation) All rights reserved.
写真:中川周
またM1スタジオには、エンターテインメント部門で新人賞を受賞した水曜日のカンパネラ『かぐや姫』制作チーム(監督:山田健人)による『水曜日のカンパネラ『かぐや姫』』、大森歩による映像作品『春』も並ぶ。前者は音楽ユニット水曜日のカンパネラのミュージックビデオだが、その発想や実験性、創造性がアートムービーの域に達するほどだったことが贈賞の理由だ。ブースにはミュージックビデオのほか、ビデオ内で用いられた衣装も展示された。後者の『春』は、女子美大生が、子供返りしていく認知症の祖父の介護を強いられるという内容の短編映画。彩度を抑えた画面のなかで、現代日本の問題を簡潔に表現した。
水曜日のカンパネラ『かぐや姫』制作チーム(監督:山田健人)『水曜日のカンパネラ『かぐや姫』』
映像に加え、ミュージックビデオ内でボーカルのコムアイが着用している津野青嵐による3Dペンの衣装も展示
パフォーマンスとテクノロジーを掛け合わせた作品が初の2部門同時受賞
会場の奥には、アート部門優秀賞の真鍋大度/石橋素/MIKIKO/ELEVENPLAYによるダンスインスタレーション『discrete figures』、エンターテインメント部門優秀賞のPerfume + Reframe制作チーム(代表:MIKIKO)/真鍋大度/石橋素によるパフォーマンス『Perfume × Technology presents “Reframe”』のブースが配されている。同じ作家らが同時に2部門で受賞するのはメディア芸術祭が始まって以来初めてのことで、いずれもダンスパフォーマンスとテクノロジーを掛け合わせた内容だ。正面にはダンスの映像が写され、横の小さなディスプレイではその映像内で使われている技術が逐一示されており、来場者はパフォーマンスのからくりを知ることができる。『discrete figures』について、これまでもテクノロジーを駆使した多くのプロジェクトを生み出してきたRhizomatiksの真鍋氏は「データを集めやすくなった今の時代だからできること」と話した。
真鍋大度/石橋素/MIKIKO/ELEVENPLAY『discrete figures』
ダンサーがとったポーズと近い映像素材がステージ上のフレームに投影される
© Rhizomatiks / ELEVENPLAY
フランスの短編作品がアニメーション部門大賞に
フジテレビ湾岸スタジオで展示されているアニメーション部門の作品は大賞を受賞したBoris LABBÉの短編アニメーション『La Chute』のひとつのみ。本作品は、ダンテ・アリギエーリの『神曲地獄篇』に着想を得た約14分の短編アニメーション。墨汁と水彩絵具による絵がデジタル編集され、そこに弦楽奏の断片的な響きと電子音によるオリジナルの音楽が重ねられている。全編にわたって繰り返される反復表現によって生み出される独特な世界観が評価された。
Boris LABBÉ『La Chute』
来場者は座って映像を楽しむことができる。大音量で流れる音楽とともに展開されるアニメーションは圧巻
© Sacrebleu Productions
SFからボーイズラブまでさまざまなジャンルが揃ったマンガ部門
最後になったが、多目的ホールを抜け、M1スタジオで来場者の目に飛び込んでくるのはマンガ部門大賞のBoichi『ORIGIN』だ。舞台は2048年の東京、殺人を繰り返す超高性能なAIを搭載したロボットと、それに立ち向かう人間社会に溶け込むプロトタイプのロボット「オリジン」との戦いを描いた作品。緻密に書き込まれたキャラクター、SFとしての作り込み、ところどころに垣間見えるユーモアなど、マンガ作品としてのレベルの高さが評価された。
Boichi『ORIGIN』
壁にはマンガのコマが大きく写され、細部まで観賞することができる。会場にはBoichi氏も駆け付けた
© boichi, Kodansha 2019
また、優秀賞を受賞した4作品のブースでは、イラストのパネルや原画、制作に使われた道具や資料などが展示された。
原作:宮川サトシ/作画:伊藤亰『宇宙戦艦ティラミス』は、地球連邦政府と宇宙移民との抗争激化というSF設定のもと、最新鋭の宇宙軍用艦ティラミス内で繰り広げられるやりとりを描いたギャグコメディ。2018年にアニメ化された際の映像とともに紹介された。コナリミサト『凪のお暇』は、人に嫌われないように周囲の空気を読んで生きてきた28歳のOLが、お暇生活を始める物語。現代の日本社会に生きる人々の心情を真摯に表現した。
コナリミサト『凪のお暇』
『凪のお暇』のブース。ガラスケースには線画や制作に使われた道具、単行本が展示された
© AKITASHOTEN
紗久楽さわ『百と卍』は、江戸文化に詳しい作者が初めて挑んだ異色のボーイズラブ(BL)作品だ。原画やネームと合わせて、制作時に参考にしたという江戸に関する書籍や印籠のレプリカなども展示された。齋藤なずな『夕暮れへ』は70歳を越えた作者の20年ぶりの単行本。自身の経験を踏まえ、介護、孤独死といった重いテーマを題材にしつつも、不思議なユーモアで昇華させていることが贈賞の理由である。
本展では、文化庁メディア芸術祭における受賞作品32作品を一挙に鑑賞できる。また、受賞者を交えたトークイベントやゲストを迎えたシンポジウム、連携フェスティバルとして「MUTEK.JP」や「東京2020 NIPPON フェスティバル」などとのコラボレーションイベントも開催。日本だけでなく、各国から集まった「メディア芸術」を、多方面から堪能できる機会となっている。
(information)
第22回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展
会期:2019年6月1日(土)~6月16日(日)
※6月4日(火)・11日(火)を除く
開館時間:10:00〜17:00
会場:日本科学未来館、フジテレビ湾岸スタジオ、東京国際交流館、BMW GROUP Tokyo Bay、シンボルプロムナード公園ほか
入場料:無料
主催:第22回文化庁メディア芸術祭実行委員会
http://festival.j-mediaarts.jp
上記ウェブサイト内のページより、受賞作品、審査委員会推薦作品、功労賞などをすべて紹介した電子書籍「第22回文化庁メディア芸術祭 受賞作品集」がダウンロードできます。
※URLは2019年6月4日にリンクを確認済み
◀ 第22回文化庁メディア芸術祭受賞作品展レポート(1) 日本科学未来館編 |