ギネスブックにも登録された世界最大のゲームジャム(ハッカソン)イベント「Global Game Jam」。このU18部門である「GGJ NEXT®」が今年も2019年7月に世界36会場で開催された。国内では北海道(釧路市)と東京(千代田区)の2会場で、中学生と高校生で合計16名が参加。若年層に広がるゲーム教育の模様をレポートする。

「GGJ NEXT」公式サイトより

若年層を対象としたゲーム教育プラットフォーム

ゲーム教育(註1)の波が全世界に広がっている。背景にあるのが若年層向けプログラミング環境の普及で、ビジュアルプログラミング言語のScratchViscuitは好例だ。その際、格好の題材になるのがゲームづくりとなる。PCにむかって半日~終日でミニゲームを作るワークショップやハッカソンは、今や世界規模で行われているといっていいだろう。

こうした流れを受けて、2018年からスタートしたゲーム開発ハッカソンが「GGJ NEXT」(主催:国際非営利団体Global Game Jam)だ。48時間でゲームを作る「Global Game Jam(GGJ)」の姉妹版で、GGJがプロや学生を対象とするのに対して、GGJ NEXTでは18歳未満を対象としている(註2)。2018年度では世界20会場で約800名が参加し、「フラクタル」をテーマにさまざまなゲームづくりが行われた。これに対して2019年度は36会場に拡大するなど、順調な成長が感じられた。

ブラジル/クリチバ会場のプレゼンテーション動画(2018年度)

GGJ NEXTの目的は次世代のゲームディベロッパーの育成だ。もっとも、そのためにはゲーム教育ができる指導者の育成も課題になる。そのためGGJ NEXTの公式サイトには、ゲーム教育のメソッドやカリキュラムに関する情報が集約されており、希望者は簡単なトレーニングも受けられる。また、会場の運営責任者を対象としたコミュニティがチャットツールのSlack上でつくられるなど、ゲーム教育プラットフォームの性格もあわせもっている。

なお、GGJと同じくGGJ NEXTも各会場の主催と運営は、現地の運営責任者に一任されている。そのため地域の事情にあわせたアレンジが可能で、7月中であれば開催日を任意で設定できるほか、開催期間も1日~5日と幅広く選べる。ただし18歳未満が対象となることから、安全面に対する配慮が課題となった。そのため開催前にはテレビ会議による面接、さらには保護者から同意書をとることなどが必須とされた。

一方で主催者側からは、公式サイト上のカリキュラム類に加えて、開会式で上映するためのキーノートビデオが会場向けに用意された。ビデオは英語で作成され、各地域のボランティアによって字幕が着けられた(このスタイルは本家GGJと同じだ)。ビデオではMojangで『Minecraft』の開発にゲームデザイナーとして関わるアグネス・ラーソン氏が登場し、ゲームづくりについて簡単な解説とエールを送った。その後、今年のテーマ「Inconvenient Superpowers(不便な特殊能力)」が発表された。

GGJ NEXT 2019 キーノートビデオ

GGJ NEXT2019の会場分布
アメリカ/コロラド会場
アルゼンチン/メンドーサ会場
チュニス/チュニジア会場

運営責任者の裁量が大きく、自由な運営が可能

それでは日本の会場について紹介していこう。今年度は北海道/釧路高等専門学校で7月27日、東京/ヒューマンアカデミー秋葉原校で7月29日にそれぞれ開催された。このうち釧路高等専門学校会場では中学生14名が参加し、プログラミング言語・開発ツールではScratchが採用された。同校の学生4人と、札幌から参加した社会人3名がメンターでつく中、参加者間で互いに教えあうなどしてゲームづくりに挑戦。その結果、14本のユニークなゲームが完成した。傾向的にはシューティングゲームが多かったという。

ワークショップでははじめにScratchの基本的な解説が1時間程度行われ、そこから参加者がそれぞれ、自由にゲームづくりを進めていった。アイディア出しの過程では、各々の参加者がアイディアを付箋に書き出してPCの画面に貼り、それらを見て回ることで、企画の参考にする時間も取られた。実行委員の一人である三谷実緒さんは「せっかくGGJという名前で行われるので(グループ開発ではなく、個人開発となったが)、参加者間による化学反応の要素を残したかった」と振り返った。

また、三谷さんは次のようにも語った。「『ゲームづくりって楽しいね!』とか『自分でゲームをつくることができる!』という体験を最重要視したので、細かいところはさておいて、自分でモノづくりができた感を大切にしていました。なので、決まったレールで同じようなゲームをつくるというよりは、メンターの学生さんたちと向き合ってゲームをつくるという感じが強かったかなと思います。放任しすぎてもダメそうだし、レールを敷きすぎても微妙そうというさじ加減を見極めるのが、わりと大変だったかなあと思いました」

日本/釧路高等専門学校会場
日本/ヒューマンアカデミー秋葉原校会場

これに対して筆者が運営責任者を務めたヒューマンアカデミー秋葉原校会場では高校生2名が参加し、Googleが無償で提供しているゲームエンジン、Game Builderを用いてゲームづくりが行われた。Game Builderでは『Minecraft』のようにブロックを組み合わせてステージをつくり、さまざまな命令(=ゲームのメカニクス)が書かれたカードを組み合わせることで、簡単なプログラムが楽しめる。最大4人までオンライン上で同時開発や同時プレイも可能だ。開発したゲームをオンライン上で発表したり、共有したりもできる。

そのうえで、ゲームジャムではしばしば「ゲームの企画が固まらないため、開発が始められない」問題が発生する。そこで今回はテーマを逆手にとり、「スタート地点から1分以内にゴールしなければ死亡してしまうキャラクター」というルールを筆者の方で設定した。その上でステージの形状やエネミーの配置、すなわちレベルデザインに集中してもらおうと考えたのだ。

もっとも、レベルデザインに特化することで、アイディアの広がりが限定される……そのように感じる人がいるかもしれない。しかし、本会場に限って言えば、その懸念は杞憂だった。参加者の高校生は二人とも、ユニークな発想で思いがけず高品質なゲームをつくり上げたのだ。どちらも立体的なステージ構成が特徴で、Game Builderの機能をよく生かした内容になっていた。

RGBY Racers

YAHIRO

『RGBY Racers』はスペースシップを操縦してコースを3周する3Dレースゲームだ。JavaScriptを使用してGame Builderの標準機能が拡張されている点もポイントで、この機能を用いてリザルト画面が独自に実装された。一方『YAHIRO』は3Dアクションゲームで、アイテムを収集しながら1分以内にゴールを目指すことが目的だ。ステージには初心者向けルートと上級者向けルートがあり、挑戦しがいのある内容になっている。

もっとも、初めての開催とあって、課題も残る結果となった。ネットワークインフラが不安定で、オンライン上での共同開発ができなかったのだ。当初は参加者全員で同じレベルデザインを行い、対戦/協力プレイを体験してもらう予定だったが、一人ずつ個別のレベルデザインを行う結果となった。また、広報宣伝が行き届かず、小規模開催になってしまったのも問題だった。

ただ、ゲームづくりの初心者(『RGBY Racers』の制作者はJavaScriptの簡単な経験があったが、『YAHIRO』の制作者はプログラム経験が皆無だった)でも、半日でこれだけの成果が出せることがわかった。GameBuilderのUIはシンプルな半面、立体的なレベルデザインを行うには制約が厳しい面があるが、そうした制約を乗り越える力を二人ともが備えていた。

GGJ NEXTは次年度も7月に開催が予定されている。会場申請に際して英語でのやりとりが必須になるため、運営責任者にとって敷居が高いのは事実だが、ゲーム教育の世界的な広がりが感じられるイベントであるため、参加をお勧めしたい。実際、教育者にとっては、ゲーム教育のメソッドやカリキュラムなどの情報が得られる点でも有用だろう。オープンキャンパスなどと組み合わせるやり方も考えられる。本稿が何らかの参考になれば幸いだ。


(脚注)
*1
ゲーム教育(Game Education)はゲーム開発者教育の意味。これに対してゲームに関する研究はゲーム研究(Game Studies)と呼ばれる。ゲーム教育はゲーム研究の一分野でもある。

*2
U18(Under 18)は18歳未満という意味だが、運用や基準は世界各地の運営責任者に任されている。日本では高校生以下を意味することが多い。


(information)
GGJ NEXT
会期:2019年7月のうち1日~5日間(会場により異なる)
会場:全世界で36会場、日本では2会場
参加費:無料
主催:国際非営利団体Global Game Jam
https://ggjnext.org

※URLは2019年9月5日にリンクを確認済み