近年の展覧会に増加している、作品の背景や世界観を伝えるための、デジタル技術を用いたインタラクティブ・コンテンツ。そのつくり手に焦点を当て、デジタル技術とアート鑑賞の関係を探る企画、第2回は、アーティストとしてメディアアート作品を手がけながら、他者の作品とのコラボレーションや、展示のアートディレクションなどを通し、さまざまなコンテンツを制作するアーティストユニット、plaplax(プラプラックス)にインタビューを行った。これまでの制作におけるエピソードを基に、コラボレーションならではの思考や工夫、その可能性について話を聞いた。

絵本『もこ もこもこ』を体感する

plaplaxと絵本

plaplaxはその活動のなかで、絵本作家の展覧会の総合ディレクションや、絵本作品を基にしたインタラクティブ・コンテンツ、コラボレーション作品の制作などに比較的多く携わっている。「キッズワンダーランド『ミッフィーはどこ?』」(彫刻の森美術館、2010〜11年)の制作・アートディレクションをはじめ、「いわさきちひろ生誕100年『Life展』あそぶ」(安曇野ちひろ美術館、ちひろ美術館・東京、2018年)や「みんなのレオ・レオーニ展」(東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館ほか全国巡回、2018年〜)などにおいて、錚々たる作家の絵本作品と向き合い、その作品世界を拡張させてきた。
絵本という媒体やそれを生み出す作家に関わることに意識的なのか、と尋ねると、そもそも、彼らの作品世界にとって「絵本」が重要なキーワードであることを教えてくれた。

インタビューに応じてくれたplaplaxメンバー、近森基(ちかもり・もとし)さん、小原藍(おはら・あい)さん

《Tool’s Life ~道具の隠れた正体》の絵本性

plaplaxが、これまでさまざまな展覧会に合わせ、いくつものバージョンを制作してきた作品のベースとなっているのが《Tool’s Life ~道具の隠れた正体》である。照明を落とした暗がりの空間の中、テーブルに置かれたさまざまな道具類にスポットライトが当たっている。鑑賞者が道具のひとつに触れると、それに反応して、テーブルに落ちていた道具の影が生き物のように動くのだ。鑑賞者はどの道具に触れてもよいし、触れる順番も決まっていない。複数を同時に触ってもいい。
この作品のベースとなる考え方が、まさに「絵本」だという。ページをめくるという行為が、一見開き分のエピソードをスタートさせるように、道具に触れることが、影の動きを誘発する。
子ども向けの絵本は、物語の始まりと終わり以外は、どこから読んでもいいようなつくりになっているものが多い。plaplaxの作品も、読む順番の決まっていない絵本だと思えば、なるほど合点がいく。
「子どもの遊び」をひとつのテーマとし、電子メディアを主な表現手段として作品を制作するplaplaxにとって、絵本は読み手の最小限のインタラクションで自由に物語を紡ぐことのできるメディアであり、常に彼らの制作の指針となる存在だったようだ。

plaplaxの作品世界のベースとなっている作品《Tool’s Life ~道具の隠れた正体》(2001年)

作家や作品を尊重し、自ら設けたルール

いわさきちひろ作品とplaplaxのコラボレーション展「いわさきちひろ生誕100年『Life展』あそぶ」(展覧会についての詳細は別記事参照)にて発表した《画机の上のあそび場》について、詳しく話を聞くことができた。この作品も《Tool’s Life ~道具の隠れた正体》がベースとなっており、画家・いわさきちひろ(以下ちひろ)が制作に用いた画材や鏡などのツールが画机に配置され、鑑賞者がそれらに触れることで、同じ画材で描かれた作品や、スケッチ、画材の実験記録などがアニメーション化されたものが、画材の根元から画机にふわっと現れる。
その、現れる際の動きに、ちひろの作家性やその作品を尊重するがゆえの工夫があったという。

《画机の上のあそび場》(2018年)

ちひろ作品をインタラクティブ・コンテンツ化する試みはこれまでなされたことがなかった。作品に対して、どこまで手を入れることが許されるのか。そのラインを探るべく、ちひろ美術館への企画プレゼンテーションの段階でさまざまな提案をしたという。すると、メディアアーティストとのコラボレーションはちひろ美術館にとっても新しく、かつ積極的な挑戦だったこともあり、NGが出ることはなかった。結果的には、プロジェクション映像となったちひろ作品の一部に鑑賞者のシルエットが入り込む作品など、ちひろの作品世界に直接介入するような作品も制作・発表できることとなった。

《絵のなかの子どもたち》(2018年)でちひろ作品に入り込む鑑賞者たち

しかし、そのような自由度の高い環境のなかでも、《画机の上のあそび場》をつくるうえで、彼ら自身で設けた線引きがあったという。「ちひろの絵をアニメーション化することは、技術的にはもちろん可能なのですが、例えば全身像として描かれたものを、操り人形のように手足などのパーツ毎に分けて動かすような加工・変形はしたくないと考えました。ただ、ちひろの絵は一枚絵を額縁に入れて鑑賞する作品だけではなく、雑誌や新聞などにレイアウトされる印刷媒体であることもあったので、絵の拡大縮小、レイアウトは可、ということにしました。これは美術館側から制約を受けて、ということではなく、自分たちがちひろの作品を納得のいくかたちで扱うために設けたルールでした。」と、アニメーションを専門とするメンバーの小原さんは語る。設けたルールの基、絵を加工・変形することなく、その全体像を傾けたり、拡大、縮小したりといったシンプルな動きのみで、絵が生き生きと動いて見えるよう試行錯誤をしたという。さらに、ちひろは自身の息子の幼少期をはじめ、同じ年頃の子どものスケッチを大量に残している。ちひろ自身が描いたスケッチをコマとして繋げるだけで、赤ん坊が動いて見えるようなアニメーションができてしまったというから驚きである。
これらのこだわりや試行錯誤、発見のエピソードは、彼らがアーティストとして、アーティストの作品を尊重する意識から生まれたものだ。

《画机の上のあそび場》、ちひろのスケッチをコマにしてつくられたアニメーション

原画鑑賞は大人の楽しみ

plaplaxが絵本に関連する仕事の初期段階で手がけた展示「キッズワンダーランド『ミッフィーはどこ?』」がそうだったように、ほかの展覧会との兼ね合いで、原画がほぼない場合もあるという。
plaplaxはそれを逆手に、ポジティブに捉え、展覧会のディレクションを行った。「知っている絵本作品であっても、その原画をしげしげと眺めるという楽しみ方は、子どもたちはあまりしませんよね。子どもたちにとっては、印刷されたものであっても、家で自分の手でページをめくって読む絵本の方がずっとおもしろいはずなので、展覧会としては、その体験を拡張させた遊び場のようなイメージで構想しました。子どもたちが限られた時間のなかで作品世界に入り込む入り口としては、鑑賞というよりも、遊ぶ感覚で触れられる体験型のインタラクティブ・コンテンツは有効だと思います。ちょうど、会場となった彫刻の森美術館は野外彫刻を遊びながら楽しむ美術館なので、館のコンセプトにもマッチしました。」と、近森さんは語る。絵本の展覧会といえば、原画を見るという鑑賞形態になることが一般的だが、考えてみれば、それは大人の楽しみ方である。

絵本の世界が拡張したような展示空間
撮影:笹谷美佳
Ⓒ Mercis bv

より深いメッセージを体感することのできる装置

どこからでも読めるものも多いとはいえ、絵本という媒体は基本的・表面的には一筋の物語をたどる。しかし絵とテキストというシンプルなかたちに作家が込めたメッセージは重層的で、示唆に富むものだ。2019年plaplaxが制作したコンテンツ2点は、そのことをわかりやすく体感させてくれる。
「みんなのレオ・レオーニ展」にて、絵本『あおくんときいろちゃん』(作:レオ・レオーニ、訳:藤田圭雄、至光社、1967年)を基にしたコンテンツを制作した。絵本の一見開きを思わせる映像が壁面に映し出され、その前に人が進み出ると、人の動きに寄り添うように、映像上に丸い色が現れる。両端から二人がそれぞれ違う色の丸と一緒に中央に向かい歩み寄っていくと、2色の丸が左右からひゅっと近づき、中央で重なり混色される。絵本の一場面を模したようなコンテンツだが、絵本で登場するのは色の丸だけである。ただ、表立っては語られていないが、作家の親族の話によると、この絵本をつくった頃、作家は万博のパビリオンの仕事で人種差別の問題を扱っていたことから、色の丸は多様な肌の色をした世界の人々を示しているとも考えられるという。コンテンツで色の丸と人の動きと重ねたのは、作家が絵本に込めたかもしれないそういったメッセージを、体感して知るための工夫である。

絵本『あおくんときいろちゃん』を体感する。「みんなのレオ・レオーニ展」は、2019年12月7日(土)から2020年1月19日(土)にかけて長島美術館(鹿児島県)、2020年2月28日(金)から5月10日(日)にかけて沖縄県立博物館・美術館へ巡回

あり得たかもしれない可能性を広げてみる

「おいでよ!絵本ミュージアム 2019」(福岡アジア美術館)において、plaplaxが制作した谷川俊太郎作『もこ もこもこ』(絵:元永定正、文研出版、1977年)を基にしたコンテンツでは、プロジェクション映像の下に設けられたパイプに向かって、鑑賞者が何かしらのオノマトペを発すると、音のイメージが反映された形が、映像上にニョキニョキと現れる。
絵本では、さまざまにあるオノマトペのなかでも「もこもこ」ひとつをとりあげているが、読むうちに子どもたちは「じゃあ、チクチクだったら」「ゴロゴロは?」と、ほかのパターンを考えるのではないか。それを実際に視覚化し、体感できるようにしたのが、このコンテンツである。
絵本で提示されている物語を一例として、複数の可能性を同時に提示することもできる。これもまたメディアテクノロジーのなせる技だろう。

電子メディアはあくまで手段のひとつ

しかしながら、インタビュー全体を通して、前提として語られたのは、メディアテクノロジーを用いることはplaplaxにとってあくまでも使える手段のひとつであり、それが必須ではないということだ。「いわさきちひろ生誕100年『Life展』あそぶ」においても、メディアテクノロジーをほとんど用いないアナログな遊具を制作している。
plaplaxが制作テーマとする「遊び」は、そもそも、主体となる人の能動性を必要とするものだ。遊び心をくすぐられて、自分から動くことに意味がある。plaplaxが用いるテクノロジーは、絵本のページを次々とめくりたくなるような、鑑賞者の能動性を引き出すため、遊び心をくすぐるための手段のひとつなのである。

《絵を見るための遊具》展示風景
撮影:森本菜穂子

※URLは2019年11月25日にリンクを確認済み