東京都現代美術館にて開催中の展覧会「ダムタイプ|アクション+リフレクション」は、2019年で結成35周年を迎えたアーティストグループ、ダムタイプによる個展である。2018年にポンピドゥー・センター・メッス分館(フランス)にて開催された個展に新作やアーカイブ展示を加え、バージョンアップした本展。1月19日を境に行われた展示替えで登場した新作を中心に、3点の作品を取り上げ、展覧会を見ていきたい。
新作《TRACE/REACT II》(2020)
Photo: 中川周
ダムタイプを体現する作品《Playback》
展覧会の導入部を経て、最初の大きな空間に設置された《Playback》(2018)は、ダムタイプの活動・制作スタンスをわかりやすく伝える作品である。足を踏み入れる前から断続的にさまざまな音が漏れ聞こえてくるその空間には、16台のアナログレコードプレーヤーが整然と並んでいる。あちらこちらから聞こえる音を探って、音を発しているうちの一台に近付いてみると、プレーヤーの針が不意に浮き、回転が止まる。それに反応するかのように、別のプレーヤーが回り出し音を出す。無機質なフレームで鑑賞者の胸の高さ程度まで持ち上げられたプレーヤーは、その一つひとつが人のようでもあり、プレーヤー同士がコミュニケーションを取るかのようでもある。しかし、あるやりとりが特出したり、続いたりすることはなく、音の発信者たちはあくまで点であり続ける。その姿は、「メンバーが独自の表現活動を展開しつつコラボレーションを行う、ヒエラルキーのない集団」(註1)としてのダムタイプそのもののようでもある。
また、過去に制作された同名のリモデル作品である本作のレコード盤には、初演当時の音源に加え、新たにフィールド・レコーディングした音素材がミックスされており、「過去の作品コンセプトを抽出し新たに作品を制作する」(註2)彼らの制作スタンスが表れている。
Dumb Type《Playback》2018
「ダムタイプ|アクション+リフレクション」展示風景 2019年 東京都現代美術館
Photo: Nobutada Omote
《LOVERS》の空間を引き継いだ新作
《Playback》の奥、幅10mの壁面に囲われた展示空間で展開されるのは、展示替えで登場した新作《TRACE/REACT II》(2020)だ。古橋悌二による作品《LOVERS》(1994/2001 second edition)の展示空間に入れ替わる形で設置された本作において、4方の壁面に投影されているのは、暗闇の中、無数の言葉が浮遊する世界である。流動し続け、二度と同じ配置にはならないという言葉たちは、空間の中央、つまりは鑑賞者が立つ位置に、ダムタイプのキーワードである「LOVE / SEX / DEATH / MONEY / LIFE」のいずれかを基点として置いたと仮定し、言葉の意味の関係性により配置され動いていくという。ひとつながりの4面プロジェクションと、床に敷かれたアルポリックミラーによってベクション効果(註3)が生まれ、鑑賞者は空間の中央で言葉の渦にのまれながら、不思議な浮遊感を体感する。言葉の関係性や距離感といった要素からは、《Playback》に引き続き、コミュニケーションやネットワークなどのテーマが浮かぶ。さらに、《LOVERS》の中央、作品の構造としても心臓部であった場所に鑑賞者を誘い、かつキーワードの起点を同位置に置くという試みからは、不在となった古橋悌二が俯瞰していたダムタイプ像を鑑賞者に追体験させるような意図も読み取れる気がしてならない。パフォーマンスグループでありながら、メディアインスタレーションとしても成立する舞台装置を作り続けてきたダムタイプ。インスタレーション作品に軸を置いた本展においても、その作品群は鑑賞者の身体の存在を常に意識している。
展示替え後、後期に登場した新作《TRACE/REACT II》(2020)
Photo: 中川周
本来のかたちで展示がかなった《MEMORANDUM OR VOYAGE》
そして、今回の展覧会で最も大きな空間に展示された《MEMORANDUM OR VOYAGE》(2014)は、その展示の成立に、あるエピソードを持つ。過去3作品《OR》(1997)、《memorandum》(1999)、《Voyage》(2002)からシーンをピックアップし、新たな映像素材を組み合わせ再編集したビデオインスタレーション作品だが、ポンピドゥー・センター・メッス分館の展示ではプロジェクションによる映像投影作品であったのに対し、今回は1.9mmピッチのLED で構成された「4K VIEWING」(特別協力:ソニーPCL株式会社)による幅16mに及ぶ巨大LEDパネルでの展示となった。LEDパネルの映像では、映像内の黒色や暗部は本当に光が消え、暗く沈む。真っ暗な背景を、左から右へと光線が貫くシーンがあるが、その光は本当に暗闇の中を走ることになるのだ。
実は、本作は2014 年に東京都現代美術館で行われた展覧会への出展を機に制作されたものであり、その際にも、同様のLEDパネルでの展示を行っている。いわば今回の展示が、本来の本作の見せ方なのである。
Dumb Type《MEMORANDUM OR VOYAGE》2014
「ダムタイプ|アクション+リフレクション」展示風景 2019年 東京都現代美術館
Photo: Nobutada Omote
プロジェクションではなく、オリジナルのプラットフォームであるLEDパネルでの展示が叶うことになり、改めて今回の展示レイアウトが決まったというが、本作のこの配置を中心に展覧会が構成されたのではないかと思うほどの必然を感じる。それは、本作と向かい合って展示された作品《Trace-16》(2019)が感じさせるところも大きいだろう。《Trace-16》は《MEMORANDUM OR VOYAGE》の構成要素のひとつであるパフォーマンス作品《Voyage》(2002)の舞台装置としてツアー公演で実際に舞台の床に使用されていた鏡面パネルを横一列に壁面設置した作品である。パフォーマンスのライブ性をインスタレーションする試みとして展示された本作は、生々しい身体の痕跡が残る鏡面に、《MEMORANDUM OR VOYAGE》において高精細映像で構成・再現されるパフォーマンスがリフレクションする。そもそものアクションの痕跡と、アクションを再構成(これもまたひとつのリフレクションでもある)し、新たなアクションとして映し出す映像、そしてそれをリフレクションするミラー。2つの作品は別の作品でありながらも、対で設置されることで相互に意味を持ち、アクションとリフレクションが行き交うその間に鑑賞者は佇むことになる。
Dumb Type《Trace-16》2019(左)、《MEMORANDUM OR VOYAGE》2014(右)
「ダムタイプ|アクション+リフレクション」展示風景 2019年 東京都現代美術館
Photo: Nobutada Omote
コレクティブとして、複数のメンバーが流動的に関わるダムタイプは、制作過程において多くの時間をミーティングに費やすという。おそらくそこでは、誰かひとりが主導権を握るようなことはなく、大小さまざまなアクションとリフレクションが折り重なることで、過去、現在、未来とを行き交う多重的な作品が構築されていくのだろう。その意味では、ダムタイプというグループが持つスタンスそのものを体現した展覧会とも言えるのではないだろうか。アクションとリフレクションを繰り返し、現在進行形で進化し続けるダムタイプを堪能できる展覧会である。
展覧会の順路後半で展示された活動年表や資料展示、記録映像にも見応えがある
Photo: 中川周
(脚注)
*1
東京都現代美術館 本展告知ページより
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/dumb-type-actions-reflections/
*2
取材における、ダムタイプメンバー、高谷史郎からの返答より
*3
視覚情報により、実際には静止している自身の身体があたかも移動しているような感覚を引き起こす現象。視覚誘導性自己運動感覚ともいわれる。本作の場合は、壁面の映像がアルポリックミラーに映り込むことで、床面よりも更に下に流れていくかのように見え、その分、身体が浮き上がるかのような錯覚を覚える。
(information)
ダムタイプ|アクション+リフレクション
会期:2019年11月16日(土)〜2020年2月16日(日)10:00~18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
会場:東京都現代美術館 企画展示室 1 F
料金:一般1,400 円、大学生・専門学校生・65 歳以上1,000 円、中高生500 円、小学生以下無料
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館、日本経済新聞社
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/dumb-type-actions-reflections/
※URLは2020年2月12日にリンクを確認済み
あわせて読みたい記事
- コロナ禍のなかで札幌国際芸術祭(SIAF)が目指したもの──SIAF2020の中止から特別編開催まで2021年6月21日 更新