大学と専門学校の中間に位置する教育機関として、2019年4月に開設された専門職大学。2020年度から日本ではじめて「AI・IoT・ロボット」と「ゲーム・CG」に特化した「東京国際工科専門職大学」が開学する。2019年9月25日(水)には新宿の総合校舎コクーンタワーで開学発表会が行われ、建学の理念などについて説明。産業界からゲストを招いたトークセッションも行われた。

開学発表会の様子

理論と実践を兼ね備えた統合型人材を育成する

東京国際工科専門職大学の経営母体である学校法人日本教育財団は、東京・大阪・愛知・フランスで10校の専門学校と通信制大学・専門職大学を運営する学校法人だ。1966年に学校法人モード学園として設立され、2016年に現名称に変更した。ゲーム・CG教育分野ではHALを運営。2019年には国際ファッション専門職大学も開校するなど、意欲的な人材教育を続けている。

冒頭、元東京大学総長で同大学学長に就任する吉川弘之氏は「これまで大学は学問、専門学校は実学というように、長い学問の歴史のなかで教育機関の役割が分化してしまっていた。現代ではその両方を兼ね備え、融合させた『統合人材』が必要だ」と切り出した。これを可能にする枠組みが専門職大学というわけだ。

吉川弘之氏

専門職大学は1964年の短期大学制度導入以来、55年ぶりに国がつくる新しい大学制度となる。背景にあるのがAIやIoTに代表されるテクノロジーの飛躍的な進歩だ。世界の社会情勢が大きな変化をとげ、職業のあり方や働き方が影響を受けている。こうしたなか、時代の変化に即応し、高度な専門技術で新たな価値を創造できる人材を育成するには、従来の教育制度では不十分だったという。

吉川氏が掲げたのは「Designer in Society」という標語。デザインといっても意匠ではなく、さまざまな社会問題を「デザイン思考」で解決するという意味だ。そのベースにあるのがテクノロジーということになる。「従来の大学は分析思考。これに対して自ら考えて行動する、デザイン思考の意識を持った人が必要です」と説明。同学が育成する人物像について明かした。

続いて統轄責任者の川端晋一氏が学校の特徴について説明した。東京国際工科専門職大学には情報工学科とデジタルエンタテインメント学科が含まれる。前者はAI・IoT・ロボット・ビッグデータなど新たな技術でイノベーションを創出し、社会的な課題を解決できる人材を育成。後者は最新IT技術を応用し、ゲームやデジタル映像を生み出す人材の育成を目指すという。

また、米国スクウェア・エニックスやチームラボなど、国内外のトップ企業との教育連携を実施。専門職大学の設立基準として求められる600時間以上の隣地実務実習(いわゆる日本型インターンシップ)を、これらの教育連携で実現する予定だ。

このほか、専門学校のHALとの違いについて、「HALは実務教育を中心に、各専門分野における高度な技術を身につけることで、よりよい製品やサービスをつくり出す人材を育成する」と説明。これに対して東京国際工科専門職大学では「理論と実践教育をバランス良く展開することで、知識と技術で社会の課題を解決する人材を育成する」と、その違いについて強調した。

学際的な見地から社会問題の解決に邁進

第二部では株式会社セガゲームス代表取締役社長の松原健二氏とユカイ工学株式会社代表の青木俊介氏をゲストに迎え、「テクノロジー時代に求められる教育のありかた」をテーマにトークセッションが行われた。

左からモデレーターを務めた中谷日出氏と、青木氏・吉川氏・松原氏。中谷氏は東京国際工科専門職大学の教授に就任予定

日本のゲームづくりの特徴について質問された松原氏は、「国内で1兆円規模の市場があり、長い歴史に紐付いた成熟した文化があるため、日本独自のゲーム文化が花開いているが、世界に出て行きにくい側面もある」とした。1990年代まではゲーム機の発売を日本企業が独占していたこともあり、国産ゲームが世界を席巻していたが、今や欧米や中国企業に追い越されているのが現状だという。

これに対してクッション型セラピーロボット「Qoobo」を抱えて登壇した青木氏は「工業用ロボットでは高いシェアを誇る企業が日本にも数多くあるが、ベンチャーでは少ない」と説明。自社プロダクトのQooboのように、癒やし専門のペットロボットのような例は海外でも少なく、「ベリージャパニーズと言われる」として、ゲーム業界と近しい側面があるかもしれないと説明した。

続いてゲーム産業の課題について、松原氏は「世界市場に目を向けること」と説明したうえで、そのためには人材育成が必須だとした。実際、小学生の職業アンケートではゲームクリエイターが上位に入るものの、大学生になると金融やメーカーが優位となり、ゲームはランク外になると指摘。家庭や学校教育での意識改革が重要で、学問として取り組める分野にすることが求められるとした。

一方、青木氏は学生時代をふりかえって、「東大の工学部では高専(高等専門学校)からの編入組みに優秀な学生が多かった。理論だけでなく、すぐにプロトタイプをつくってしまう速度感があった」とコメントした。「3Dプリンタに代表されるように、今は設計と実装に切れ目がない時代。しかし大学では、いまだに技術とクリエイションが分かれているのが現状だ」と続けた。

こうした議論を受けて吉川氏は、「従来の大学では対象を理解することを重視してきたが、実際にものをつくることは学問の対象にしてこなかった。これに対して専門学校や高専ではものをつくれるが、学問観がないため、アカデミズムの視点に立った議論ができなかった。本学ではまさに学問とものづくりの双方の視点にたって、学際的な見地から社会問題の解決に邁進したい」と抱負を語った。

最後に松原氏と青木氏からこの新たな専門職大学に対する期待が寄せられた。松原氏は「グローバルとプラクティス」をキーワードに挙げ、グローバルに活躍できる人材育成と、産学連携を促進する仕組みづくりについて、期待したいと述べた。青木氏も海外インターンを通して最新の技術を学ぶ姿勢を奨励して欲しいとした。最後に吉川氏は教育機関や企業の連携を進めて、こうした課題に取り組みたいとまとめた。

今回の発表会では語られなかったが、高等教育機関には社会人を対象としたリカレント教育の役割も期待されている。特にゲーム業界では産業界で求められる実務レベルと、教育機関が提供する教育レベルの乖離が年々拡大している。2020年に発売が予定されているPlayStation®5で、その乖離がさらに開くことは必至だ。そのうえ市場のトレンドや、時にはビジネスモデルまでが短期間で変化していく。その結果、就職後の人材研修が隠れた課題になっているのだ。

それにもかかわらず就職を境にキャリア形成が分断されていることで、問題が見えにくくなっている。そこで重要なのは、教育制度の改革もさることながら、教育機関と企業とのあいだで、人材教育に関する風通しを良くすることだ。そのためには産業界と教育界が共同でゲーム教育に関する知見を出し合い、体系化を進めていく必要があるだろう。そのための枠組みのひとつとして機能することを、専門職大学には期待したい。

登壇した3名

(information)
東京国際工科専門職大学
〒160-0023 東京都新宿区西新宿1-7-3 総合校舎コクーンタワー
TEL:03-3344-5555
https://www.iput.ac.jp/tokyo

※URLは2020年3月12日にリンクを確認済み

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