2019年度メディア芸術連携促進事業 研究成果マッピング シンポジウムが、2020年2月16日(日)に国立新美術館で開催された。メディア芸術連携促進事業は、メディア芸術分野における、各分野・領域を横断した産・学・館(官)の連携・協力により新領域の創出や調査研究等を実施する事業だ。本事業の目的は、恒常的にメディア芸術分野の文化資源の運用と展開を図ることにある。なかでも「研究マッピング」は2015年度から2019年度の5年間にわたって実施された。本シンポジウムでは、5年間の総括として各分野からの成果報告とパネリストによる討論・提言が行われた。本稿ではゲーム分野の発表「学際研究としてのゲーム研究」をレポートする。

ゲーム分野のコーディネーターを務める松永氏

[報告者]
松永伸司(立命館大学 ゲーム研究センター 客員研究員)
井上明人(立命館大学 映像学部 講師)

『ゲーム研究の手引きⅡ』の概要

『ゲーム研究の手引き』は3年前の2016年に作成しており、今回は『ゲーム研究の手引きⅡ』として作成した。第1部「ゲーム研究の全体マップⅡ」では前回の内容を引き継いでゲーム研究の全体像について論じ、加えて5年間の研究概要とその成果も盛り込んでいる。第2部「ゲーム研究のキーワード」では、ゲーム研究でよく取り上げられるキーワードを、それぞれの専門家が説明している。

国内と海外のゲーム研究の違い

ゲーム研究においてこの5年間でわかったことを大まかにまとめると「ゲーム研究は、一枚岩ではない」という一言になる。どのような意味で一枚岩はではないかを3つの点から説明する。
1つ目は、ゲーム研究といっても、つくるための研究と理解するための研究が存在すること。前者は、ゲーム研究における特徴といってよく、おそらく技術的な面があることから、つくり手側からの関心や方法による研究が盛んに行われている。
2つ目は、専門分野ごとに、注目するところや研究方法などが違ってくること。例えば、心理学ではプレイ中の生理的な反応を調べている一方で、経営学では、ゲーム産業の構造について論じられ、文化研究の分野では、マンガでいう表現論のようなことを扱っている。このように幅広い研究がされており、それぞれが独立していて相互にあまり関係していない。
3つ目に、日本と海外(英語圏)とでゲーム研究のあり方が違っていること。分野ごとに異なる研究がされている状況は、どちらも変わらないが、海外の場合、2000年ごろに北欧の文化研究の研究者のなかで、ゲームを専門に研究しようとする動きが出てきた。結果、ゲームスタディーズが中心となり、ほかの分野でやっているゲームについての研究をつないでいった。相互関係が円滑に進んでいるかどうかという点はさておき、コアのようなものができているというのが、今のゲームスタディーズの現状である。それに対して国内の方は、ゲームスタディーズに相当するものは、現時点で存在していない。
また、国内にはゲームスタディーズを勉強する人も今のところかなり少ない。今後そういったものを勉強、研究する人が増えていけば、国内と海外のゲーム研究の違いは解消されていくとみる。そうすれば結果として、各分野でばらばらと行われている国内でのゲーム研究が、もう少しまとまってくるのではないだろうか。

ゲームとは何か

ゲームという概念自体が非常に広がりのある概念で、それ自体がゲーム研究の学際性をつくってしまう構造的なポイントである。「ゲームとは何か」については、多様な論点で議論されており、ゲームは人工物であるということが重要なのではという人もいれば、日常の現実と何かしらのかたちで切り離されていることがキーだという議論もある。特にビデオゲーム、コンピュータゲームに関わる議論で、ここ10年間でよく参照されているのが、イェスパー・ユールの「古典的ゲームモデル」だが、この定義で議論が終わるかといえばそうではない。また、ゲームとは何かという話と、遊びとは何かという話は、なだらかにつながっており、遊びとゲームは違うことを強調して議論する人もいる。
このように、欧米圏を中心的として、アプローチの方法によって豊かに議論されているゲームスタディーズだが、この勢力バランスが、あと20年、30年ぐらいたったら変わる可能性もある。
さらに、欧米と中国のゲーム研究の状況は大きく異なっている。また以前、2016年に発行した『ゲーム研究の手引き』を見た中国の研究者から、日本のゲーム研究を中国に紹介するために論考を書いてほしいとの依頼があった。このように、本事業が欧米のゲーム研究とはまた別の方向に広がっていく契機となることも実感している。

ゲーム研究だけではなく、ゲームそのものが一枚岩ではないことを説明した井上氏

(information)
2019年度メディア芸術連携促進事業 研究成果マッピング シンポジウム
日程:2020年2月16日(日) 13時〜16時
会場:国立新美術館 3F 講堂
参加費:無料
主催:文化庁