令和2年度メディア芸術連携基盤等整備推進事業 連携基盤整備推進事業の報告会が、2020年11月20日(金)に国立新美術館で開催された。メディア芸術連携基盤等整備推進事業は、産・学・館(官)の連携・協力により、メディア芸術の分野・領域を横断して一体的に課題解決に取り組むとともに、所蔵情報等の整備及び各研究機関等におけるメディア芸術作品のアーカイブ化の支援をすることで、文化資源の運用や展開を推進する事業だ。新たな創造の促進と専門人材の育成により、メディア芸術作品のアーカイブ化を継続的・発展的に実行していく協力関係の構築を目指している。中間報告会では、本事業の一環として実施した「連携基盤強化事業」の6事業の取り組みの主旨や進捗状況が報告された。
中間報告会会場の様子
【マンガ】
【アニメ】
【ゲーム】
【メディアアート】
【領域横断(DMA)】
マンガ原画アーカイブセンターの実装と所蔵館連携ネットワークの構築に向けた調査研究
一般財団法人 横手市増田まんが美術財団
報告者:横手市増田まんが美術館 館長 大石卓
大石卓による報告の様子
【概要】
マンガ原画保存の相談窓口となるアーカイブセンターの実装化、原画保存を担うネットワーク協議会の設置、アーカイブに関わる人材育成、刊本と連携した連携基盤強化を図る。アーカイブセンターでは、マンガ家やその遺族、出版社や編集者などからマンガ原画保存に関する相談を受け、全国にある連携館と協議し、現地調査やアドバイスを行う。それに伴い、相談ネットワークに関わる会員資格の設定や、全国のマンガ原画の保存施設を一覧にして可視化する準備も進める。人材育成については、各館から実践研修を受け入れ、アーカイブセンターにてアーカイブ作業研修を実施する。また、刊本資料と連動した展覧会のパッケージングと全国巡回、ほかにも原画保存の技術的支援やアドバイスの有償化などの展開を図る。運営に関しては、運営協議会、ネットワーク会議部会、マニュアル検討部会、収益支援体制構築部会を設け、各事業にあたる。
【中間報告】
2020年7月に横手市増田まんが美術館内にマンガ原画アーカイブセンター(通称「MGAC」)を設置。10月には実際に収蔵庫の整理について相談を受け、現地調査とアドバイスを行った。現状、MGACへの相談=横手での保存と受け取られており、事業内容を改めてアピールする必要性を感じた。MGACでの実施研修は、新型コロナウイルス感染拡大により実施を見合わせた。また、アーカイブの重要性に関する動画を作成し、昨年度までの事業で行ったアンケート調査でマンガ原画保存に前向きな感触を示した館に向けて発信する。収益支援については、2019年度に横手市増田まんが美術館で開催し、原画を鑑賞するうえでのポイントを解説するなどした企画展「ゲンガノミカタ展」を追加執筆を含め再構築し、原画保存の意義を広く啓発しつつ、収益構造の確立に向け、全国の関連施設等での巡回展示を目指す。
マンガ刊本アーカイブセンターの実装化と所蔵館ネットワークに関する調査研究
国立大学法人 熊本大学
報告者:熊本大学 文学部 准教授 鈴木寛之
鈴木寛之(画面左上)
【概要】
マンガ刊本アーカイブセンター(仮称)の実装化に向けた調査研究と情報収集、機関連携による刊本保存・利活用計画の立案、所蔵館ネットワークの構築を行う。アーカイブセンターでは、横手市増田まんが美術館内の原画アーカイブセンターと情報資源・人材を共有し、公開する機会を計画的に創出、統合的かつ体系的なマンガアーカイブの連携基盤整備を推進する。将来的には、全国のマンガ関連施設・機関と連携し、人・モノ・情報の集約とマンガ資料の保存・利活用を構想する拠点として整備する。また、全国の連携館からマンガ雑誌・単行本を収集、複本プールに保管、利活用を図る。複本プールは、刊本資料に関する見識を持ったアーキビスト育成の場としても機能させる。デジタルアーカイブ化や刊本資料を活用したビジネス展開、自立したマネジメント手法の確立も視野に入れている。
【中間報告】
アーカイブセンターの実装に向け、前年度に実施した公共図書館へのアンケート結果の分析作業を進めている。熊本の森野倉庫にて、刊本資料を集約、分類・整理し、高知まんがBASEに雑誌資料2,500冊を9月に移送、2021年1月に再度移送する予定である。熊本県内の連携施設にも継続的に刊本資料を寄贈し、利活用を続けている。熊本県内の利活用施設として、健軍まんが図書室に5,000冊程度の刊本資料、くまもと松尾西小マンガ館に約2万5,000冊程度の資料を提供した。人材育成では、大学院生を中心として、複本の利活用に関するマニュアルを制作中である。
リストDBからメディア芸術データベース(ベータ版)への登録、
及び、全録サーバーのテキスト抽出の検証
一般社団法人 日本アニメーター・演出協会
報告者:一般社団法人 日本アニメーター・演出協会 事務局長 大坪英之
大坪英之
【概要】
過年度のアニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)によるアニメスタッフデータベースの持続的な構築・整備に向けての調査検証を踏まえ、2つの事業を展開する。ひとつは、録画したアニメーションからのスタッフクレジット抽出の自動化である。アニメーションを全録画し、EPGファイルを統合すると同時に、1秒毎に画面を切り出すプログラムを作成。OCR(光学的文字認識)によりスタッフクレジットを抽出、テキスト化までの自動化を試行する。もうひとつは、原口正宏氏(リスト制作委員会)による、作品と各話の情報、クレジット、役名、役職、キャストなどをまとめたリストデータベースを、メディア芸術データベースへ投入する仕組みの構築である。クレジットやキャスト情報をまとめることで、日本のアニメーションに関わる人数が可視化できる。その手順書を成果物として提示する。
【中間報告】
1秒毎の切り出し画面に対して、どのようにクレジット欠落を確認し、抽出・除外するかは検証中である。現在、OCRにはGoogleのCloud VisionというAPIを使用しているが、AI技術やマシンパワーが日進月歩のため、今後も状況に合わせて検討する可能性もある。クレジット抽出の方法に関しては、切り出した画面から目視で文字を起こす方法と、OCR処理されたテキストを修正する方法のどちらが手間が少ないかヒアリングを行う。OCRの処理やリストデータベースの解析については、11月中に終わる見通しだ。
ゲームアーカイブ所蔵館の連携強化に関する調査研究
学校法人 立命館 立命館大学ゲーム研究センター
報告者:立命館大学 ゲーム研究センター 客員研究員 尾鼻崇/立命館大学 映像学部 講師 井上明人
尾鼻崇による報告の様子
【概要】
本事業ではゲームのアーカイブを、長期的に保存していくための枠組みを構築することを目的としている。この目的を達するため、現状のゲームのアーカイブ状況を調査し、その成果をもとに所蔵館相互のネットワーキングを行っていくとともに、アーカイブの利活用のための施策(展示イベント等)を実施している。より具体的には、ゲーム・アーカイブ推進連絡協議会のセミナーイベント開催を通じた知見の交換と連携強化、産業界との連携強化のための各質問紙調査およびヒアリング調査、各所蔵館の所蔵目録の整備とメディア芸術データベースとのひも付け、ゲーム関連展示の調査、オンラインのゲーム音楽展を通じたアーカイブ利活用についてのアクション・リサーチを実施する。
【中間報告】
産業界との連携強化では、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)の会員企業133社宛てに、各社の所蔵品に関するアンケートを送付した。さらに9月にはゲーム開発者向け技術交流会のCEDECで本事業に関する報告を行った。また、連携体制の強化のため、年度内に国内所蔵館を対象としたゲームのアーカイブについてのセミナーのオンライン開催を2回予定している。利活用に関しては、地域、規模、運営基盤などが異なるゲーム展示をこれまで20件以上調査してきたが、今年度はそれらに加えオンライン展示開催を通じた調査に注力した。また実践的な利活用調査の一環としてゲーム音楽をテーマとしたパイロット展をオンライン上で実施し、課題発見と解決を図る。本事業は対面による実施を前提に設計を行っていたが、コロナ禍の現状においては、オンラインの特徴を活かしつつ連携基盤の強化に取り組んでいきたい。
メディアアート作品活動の集約的調査とデータ連携事業
特定非営利活動法人 Community Design Council
報告者:特定非営利活動法人 Community Design Council 代表理事 野間穣
野間穣(画面ワイプ内)による報告の様子
【概要】
文化庁メディア芸術祭受賞作品のアーカイブや再展示を前提とした保全活動のため、作品情報に関するリサーチを行う。受賞作家を対象としたヒアリング調査・アンケート調査の内容は、メディア芸術データベースでの活用も視野に入れて設定する。メディア芸術データベースに関しては、登録情報をクリーニングやメンテナンスによって最適化し、さらなるデータの充実化を図る。また、メディア芸術事業サーベイとして、2019年度作成したメディアアート史について、新たな有識者も加えて検討を行い、教育分野や電子音楽など不足している情報を追加する。さらに、メディアアート関連重要資料保存テストとして、キヤノン・アートラボの資料を基に、保存方法の確立、資料のリスト化、実際の作業を行う。
【中間報告】
メディア芸術祭の調査では、オンラインミーティングを経て、作品情報の入力フォームを作成した。リサーチ項目は、メディア芸術データベースの項目を踏襲しつつ、作家や技術者へのヒアリング調査の結果も反映して、定義や統制語彙が曖昧な項目を精査する。ヒアリング調査10件程度、アンケート調査100件程度を想定しており、2020年度内にヒアリング調査を終える。作家ご自身で作品データ入力ができる目処がたてば、並行してアンケート調査の実施に移行したい。データの充実化に関しては、これまでに制作されたNTT インターコミュニケーション・センター[ICC]の全データのメンテナンス、編集を行っている。
令和2年度メディア芸術連携基盤等整備推進事業におけるデータ連携設計・データ登録業務及びガイドライン策定に向けた調査研究
株式会社DNPメディア・アート
報告者:株式会社DNPメディア・アート クロスメディア制作推進本部デジタルアーカイブ生産統括センター楢崎羽菜
楢崎羽菜による報告の様子
【概要】
本事業は、新たなテーマとしてマンガ・アニメ・ゲーム・メディアアートの各領域を横断し、連携基盤整備推進事業、メディア芸術アーカイブ推進支援事業でのデータ連携設計、データ登録業務およびガイドライン作成に向けた調査研究を目的とする。連携基盤整備推進事業では、同事業パートナー団体より収集されたメタデータ登録、更新に関する業務フロー検討および調査研究を行う。メディア芸術アーカイブ推進支援事業では、収集されたメタデータの分析と確認、スキーマへのマッピング施行、重点対象団体へのヒアリング調査を経て、メディア芸術データベースへの登録を検討する。これらを踏まえ、各分野のデータをシステマチックに登録できるよう、データ分析、マッピング調査、データ登録修正の3プロセスを調査・検討する。
【中間報告】
ヒアリング調査、登録検討に関しては、対象団体と対面で行う予定としていたため、新型コロナウイルス感染拡大の影響で少し進捗が遅れている。データ分析、ヒアリング調査は、連携基盤整備推進事業で4団体、メディア芸術アーカイブ推進支援事業で6団体を対象としている。また、NDL(国立国会図書館)の定常登録を開始した。データ登録業務の効率化に関しては、NDLの単行本データを機械的に登録できるよう検討中である。今後の課題として、対面を想定していたヒアリング調査のオンラインでの実施を検討したい。
※すべて敬称略
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- 令和2年度 メディア芸術連携基盤等整備推進事業・実施報告書2021年10月4日 更新