『スペースインベーダー』(1978年)以降、日本のビデオゲームは広く世界を席巻してきたが、なかには単にヒット作となるに留まらず、ひとつの様式やジャンルにおけるアーキタイプ(原型)を確立し、洋の東西を超えて参照されるようになったものが少なからずある。例えば『スーパーマリオブラザーズ』(1985年)、『ダブルドラゴン』(1987年)、『魂斗羅』(1987年)、『雷電』(1990年)、『ストリートファイターII』(1991年)、『ファイナルファンタジーVII』(1997年)などだ。ビデオゲームの進化の系統樹において重要な位置を占めるこうした日本発祥のアーキタイプは、多くが1980~1990年代に生まれている。なかには本家本元の日本ですでに進化が止まったり顧みられなくなったりしていたものが、インディゲーム市場の拡大とともに海外から新しい血を注ぎ込まれ、オリジネイターたちが想像もしなかったような独自の発展をみせるようになったケースもある。世界各地に散らばるこのような「日本のゲームの子孫たち」の姿を紹介していくことが、本連載の狙いである。

監修:田中 治久(hally)
執筆:洋ナシ、古嶋 誉幸、千葉 芳樹

『Ori and the Blind Forest』より

メトロイドヴァニアの形成過程

海外独自の発展を顕著に示しているジャンルのひとつに、メトロイドヴァニアがある。『メトロイド(Metroid)』(1986年~)と『キャッスルヴァニア(Castlevania)』(「悪魔城ドラキュラ」シリーズの海外名、日本1986年~/米国1987年~)という2つのシリーズ作品が開祖と見なされているためこの名前があるのだが、内容的には「RPG的な成長要素」と「探索重視の広大なフィールド」を持つサイドビュー2Dアクション、という理解が一般的なところだろう(厳密な定義はないため、考え方は人それぞれに異なる)。

サイドビュー2Dアクションは、任天堂『スーパーマリオブラザーズ』のヒットが象徴するように、ファミコン全盛期に大きく花開いたジャンルである。さらなるヒット作を求めて当時さまざまな新要素の模索が行われたなかで、よく見られたアプローチのひとつが「RPGとの接合」、つまり成長や謎解きといった要素の導入だった。これをいち早くやってのけた代表的な例のひとつが、任天堂の『メトロイド』(1986年)である。

迷宮内に散らばるパワーアップアイテムを拾い集めると探索範囲を広げることが可能になり、広げた先でさらなるアイテムを入手すれば、また探索できる範囲が広がる。それまで「ステージクリア型」が主体だったサイドビュー2Dアクションにおいて、ステージの往還が可能な「探索型」スタイルを提示したこのゲームは、国内外で100万本以上のセールスを記録し、多くのファンを獲得した。しかしそうでありながらも、数多くのフォロワー作を生み出すようなアーキタイプにはなれなかった。探索型のサイドビュー2Dアクション自体はその後も少なからず登場したが、そのなかで『メトロイド』の後裔といえそうなものは、本家『メトロイド』の続編たちを除けば、一握りに過ぎなかったのである──少なくともこの当時には。

しかし『メトロイド』から約10年後、注目すべきフォロワー作品が登場する。コナミのプレイステーション作品『悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲(Castlevania: Symphony of the Night)』(1997年)である。『悪魔城ドラキュラ』も息の長いサイドスクロール2Dアクションのシリーズで、第1作は『メトロイド』と同年に生まれていたが、基本的には別軸の進化を遂げていた。それがここに来て大きく方向性を変え、『メトロイド』に似た探索型ゲームへと舵を切ったのである。これは実のところ『メトロイド』の影響以上にスーパーファミコン作品『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』(日本1991年/欧米1992年)の影響が大きいそうなので、厳密には『メトロイド』フォロワーとは言えないかもしれない。しかし内実はともあれ、当時多くのプレイヤーたちが『メトロイド』との類似を感じ取っていたのは事実である。

類似が気になったのは、日本人だけではなかった。欧米のプレイヤー・コミュニティから、両者の類似を端的に表す「メトロイドヴァニア」なる造語が飛び出したのは、2001年のことである(註1)。それは当初、あくまで「悪魔城ドラキュラ」シリーズのみを指して用いられる言葉だったが、しばらくすると拡大解釈が進み、同様の要素を持った古今東西のあらゆる作品を包括する「ジャンル名」として扱われるようになる。もっとも00年代の「メトロイドヴァニア」はネットスラングの域を出ないものであり、ゲーム系メディアがその語を用いるようなことは、滅多になかった。しかしその背後で、探索型サイドビュー2Dアクションは00年代を通して少しずつ増加し続けており、2010年代になるとインディゲーム市場拡大の波に乗って、その数は急増する。ここに至ってジャンル名としての「メトロイドヴァニア」は完全に定着したのである。

今や「メトロイドヴァニア」の語は日本にも逆輸入され、かつてのオリジネイターたちもその市場に向けて新作を送り出す時代となっているが、このジャンルの主導権はすでに日本にはなく、担い手も遊び手もグローバル化している。今日も世界各地で、本家志向の正統派から、日本ではまず思いつかないような奇抜な作品まで、さまざまな新種メトロイドヴァニアがつくられ続けている。それはオリジネイターの手を離れたからこその自由さだと言っていいだろう。以下では現在もプレイ可能な作品から、「海外ならではの発展」という点で特に注目に値する4作品をピックアップし、レビューしていく。

「メイド・イン・ジャパン」を独自に消化した
国際色豊かなメトロイドヴァニア 注目の4作品

アメリカのファミコン第一世代が育て上げたシリーズ最新作
『シャンティと7人のセイレーン』(2020年)

『シャンティと7人のセイレーン』より

半精霊の少女がファンタジー&スチームパンクな世界で活躍する、コミカル路線のメトロイドヴァニア『シャンティ』は、カリフォルニアを拠点とするウェイフォワード・テクノロジーの看板タイトル。これまでに5作品が発売されている。2002年にゲームボーイカラーで発売されたその第1作は、まだメトロイドヴァニアという言葉が生まれる前の作品でありながら、『メトロイド』や『悪魔城ドラキュラ』のシステムから如実に影響を受けており、その意味で史上初のサードパーティ・メトロイドヴァニアと呼ぶに相応しいものだった(『悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲』と同じく、実際は『メトロイド』以上に『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』の影響が大きいらしいのだが)。

『シャンティ』第1作は、全体として日本製ゲームの文法やテイストをしっかりと踏襲した作品だが、実はその姿勢自体、当時の欧米製ゲームにはきわめて珍しいものだった。日本ライクなゲームを見様見真似でつくろうとするメーカーは多々あったが、そうしたメーカーの作品は、どこかしら無理があったり大味になったりしてしまうのが常だったのだ。『シャンティ』第1作はその点で、(まだ荒削りではあったものの)明らかに一線を画していた。

ほぼ無名に等しかったウェイフォワードがそこまでのものをつくり得たのは、同作を手掛けたマット・ボゾン氏がファミコン直撃世代のゲームデザイナーだったからだ。彼はアメリカ人でありながら日本のファミコンゲームを骨肉として育つという経験をした、最初の世代なのである。またそのいっぽうで、ディズニーの系譜に連なるアニメーション制作訓練を受けてもいた。『シャンティ』のビジュアル面にはその両方のノウハウが生かされている。日本アニメの絵柄を採り入れた米国製ゲームというのもまた当時非常に珍しいものだったことを付け加えておきたい。

いろいろと見どころの多い作品ではあったが、本作が発売されたのはゲームボーイ最末期。すでに新機種ゲームボーイアドバンスが登場した後であり、商業的には奮わずに終わった(米国のみで販売され、売上本数は20,000~25,000本程度)。とはいえ一部に熱心なファンを獲得することには成功し、ウェイフォワードは続編制作に意欲を見せる。2010年にはよりユーザーフレンドリーな進化を遂げた第2作『シャンティ -リスキィ・ブーツの逆襲-(Shantae: Risky's Revenge)』(日本2016年)、そして2014年にはその後日譚となる第3作『シャンティ -海賊の呪い-(Shantae and the Pirate's Curse)』(日本2015年)を発売した。ゲームとしての総合的な完成度は、この第3作でひとつの頂点に達している。ただしシリーズ中でも難度の高い一本であり、しかもシナリオ的に三部作の真ん中というポジションなので、初めての方にはちょっと……という面もある。

とっつきやすさでいえば、最新作『シャンティと7人のセイレーン(Shantae and the Seven Sirens)』がベストだろう。ウェイフォワード得意の生き生きした精緻なキャラクターアニメーションを現代的なビジュアルで堪能させてくれるし、なにより難度が抜群に低く、初心者に優しい。高難度になりがちなメトロイドヴァニアにあっては、ジャンルそのものの入門作としてもオススメできるくらいだ。ゲームシステム的にもいたずらに新しいことはしておらず、初期作のおもしろさを的確に継承している。逆にいえば、今どきのメトロイドヴァニアとしてはかなりクラシカルな設計なのだが、それも20年にわたってこのジャンルを支えてきた同社の貫禄と安定感に裏打ちされたものだと思えば、納得がいくだろう。

ひとつ残念なのは、ストーリーや設定に関する説明不足が目立つ点だ。これは最新作に限った話ではないのだが、旧作のお約束やキャラがあちこちに登場するのに、それらについての説明を一切してくれないのだ。とはいえ今回は、一応独立した一本のシナリオになっているので、分からなくても大きく困ることはない……はず。(田中 治久(hally))

もうひとつの日本発祥ジャンル「死にゲー」を華麗に融合
シビアに魅せる『Salt and Sanctuary』(2016年)

『Salt and Sanctuary』より

メトロイドヴァニアは日本から世界へと飛び立ったゲームジャンルであるが、そこに「死にゲー」の要素をさらに追加したのがアメリカ・シアトルのSka Studiosが開発した『Salt and Sanctuary』だ。「死にゲー」とは非常に難易度が高く、何度もゲームオーバーをくりかえしてゲームクリアを目指す1人用ゲームのこと。当然長いゲームの歴史のなかでこうしたゲームが生まれることは多々あった。だが、「死にゲー」がひとつのジャンルとして世界的に存在を意識されるようになったのは日本人クリエイターであるキング氏の作品である『人生オワタの大冒険』(2007年)、そして日本大手ゲーム開発のフロム・ソフトウェアが手掛ける『Demon’s Souls』(2009年)と「ダークソウル(DARK SOULS)」シリーズ(以下ソウルシリーズ)が大きなきっかけとなっている。ソウルシリーズにいたってはその大流行に伴いフォロワー作品が続出し、「ソウルライク」というゲームジャンルが生み出されつつあるところまできている。『Salt and Sanctuary』もまた「ソウルライク」と呼ばれる「死にゲー」メトロイドヴァニアであり、日本作品の影響を多分に感じられる作品だ。

船が難破し海へと投げ出された主人公は、気がつけば霧が立ち込める浜辺に漂着していた。呪われたこの島には不気味な化け物たちがはびこっている。頼れるのは己と、己が信仰する神だけだ。『Salt and Sanctuary』はそんな危険な世界を冒険するメトロイドヴァニアである。広大なマップは城や沼地、古代遺跡といったエリアが存在し、各エリアには危険な敵とさらに強大なボスが待ち受けている。最初に選択する職業(クラス)ごとに異なるスキルをレベルアップで強化し、戦術にあわせた装備を選んで難敵に立ち向かう。

ダークファンタジーな世界観、道中のチェックポイントで所持数が戻る回復アイテム、死ぬと経験値となるアイテムがロストするが一度だけ回収のチャンスがあるシステム、ほかのプレイヤーにメッセージを残せる機能など、多くの部分でソウルシリーズの影響を感じられる。本作は比較的新しい「死にゲー」と「ソウルライク」の文脈を、レトロな時代より愛されたメトロイドヴァニアに組み合わせた作品だ。メトロイドヴァニアは従来より硬派さ、プレイヤーにチャレンジを強いる難易度が求められたゲームジャンルである。そうしたゲームジャンルを愛するプレイヤーにさらなる挑戦を投げかけたというわけだ。

さらなる挑戦を掲げた本作は当然、非常に高い難易度を誇る。プレイテクニックも必要となるが、各ボスの弱点となる属性、強力なアイテムの隠された場所、それらアイテムを駆使するキャラクター育成といった知識も重要だ。自らのセンスを頼るもよし、くまなく探索をするもよし、情報を集めるのもよし、こうした攻略の幅がこのゲームをチャレンジしがいのあるゲームにしている。またこの攻略の幅こそ原点となるメトロイドヴァニアの大きな魅力であり、これをうまく抽出し自作へと組み込んだことが本作のヒットへつながったと言えるだろう。

このヒットを受けてか、2021年7月現在、続編となる『Salt and Sacrifice』が開発中である。気になった方はこの危険な島での死闘に旅立ち、さらなる死闘に備えてみてはいかがだろうか?(洋ナシ)

メキシカンな肉体派メトロイドヴァニア「覆面闘士 マスクド・ウォリアーズ」シリーズ(2013年~)

『Guacamelee! 2』(2018年)より

SFであれ、ゴシックであれ、ジャンルの開祖にあたるタイトルがダークで真面目な雰囲気に満ちている一方、明るい色使いとコミカルなテイストを特徴とするのが「覆面闘士 マスクド・ウォリアーズ(Guacamelee!)」シリーズだ。ルチャリブリレの覆面レスラーを主人公に据え、敵はメキシコの文化「死者の日」を思わせるガイコツが中心、楽曲もメキシコの民族音楽を思わせるものが揃っており、地域色が非常に濃い。タイトルもメキシコ料理「ワカモレ(guacamole)」をもじったものである。開発は意外にもカナダのトロントにあるDrinkbox Studiosだが、リードアーティストのアウグスト・キハノ(Augusto Quijano)氏がメキシコ出身で彼のアイデアがシリーズの原型となっている。

メトロイドヴァニアとしては戦闘の比重が大きいのが本作ならではのアプローチとなっており、ジャンプを中心にアクションを組み合わせて先へと進むプラットフォームパートに加え、部屋に閉じ込められてすべての敵を倒す戦闘パートが巧みにミックスされている。成長要素と、新能力を得ることによって到達可能な範囲が徐々に拡張していくジャンル共通の楽しさがありつつも、モダンなメトロイドヴァニアらしく、ある程度行き先が示されることで探索以上にテンポのよさが強調されている。万が一ライフがなくなったとしても、即座に同じ場所のチャレンジを再開できるほどだ。

主人公がレスラーなのでパンチやキック、投げを用いて戦っていくのはもちろんだが、ゲーム進行で得る能力もジャンピングアッパーやフライングボディプレスといった技が中心。これらは強力な必殺技であるだけでなく、マップ踏破のための道具でもあり、ジャンピングアッパーで高いところに上ったり、フライングボディプレスで地面のブロックを破壊したりといった使いどころが用意されている。断崖絶壁を駆け上がるような超人アクションも当然のようにある。多くの技は上下左右とボタンの組み合わせで簡単に出せ、戦闘アクションとプラットフォームアクションをうまく融合させるためのインスピレーション元として、Wiiでリリースされた『大乱闘スマッシュブラザーズX』(2008年)のなかのモード「亜空の使者」の存在があるとのこと(註2)。

『Guacamelee! 2』より

多数の敵と同時に戦っていく場面が多いのもメトロイドヴァニアのなかでは異質で、文字どおり、「ちぎっては投げ」を繰り返していく戦闘は、『ファイナルファイト』(1989年)や『熱血硬派くにおくん』(1986年)などのベルトスクロールアクションゲームを彷彿とさせる。特に光るのは「投げ」の存在で、打撃で弱らせた敵を掴み、敵集団へと投げつけて一網打尽にする気持ちよさはベルトスクロールそのものと言ってよいだろう。また、空中へ吹き飛ばした敵をジャンプで追いかけて追撃したり、連続でつないだ攻撃がコンボ数として表示されたりとスタイリッシュアクションゲームのような部分もあり、シンプルな操作ながら戦闘の楽しさに満ちている。ジャンルとしては異色なことに最大4人での協力プレイにまで対応するというのだから驚きだ。

惜しむらくは続編を含む2作がリリースされていながら、日本語版のリリースは1作目『覆面闘士 マスクド・ウォリアーズ』だけに留まることだ。(千葉 芳樹)

アート面ではスタジオジブリの影響も
オーストリア生まれのファンタジー作品「オリ」シリーズ(2015年~)

『Ori and the Blind Forest』より

オーストリアのMoon Studiosが開発した『オリとくらやみの森(Ori and the Blind Forest)』は、オリと呼ばれる小さな精霊が相棒となるセインとともにニブルの森を守るために戦う英雄譚だ。美しく綿密に描かれた広大なフィールドを探索し、「二段ジャンプ」や「壁ジャンプ」など新しい能力を学び、探索範囲を広げていく。道中ではHPやエナジーを増やすアイテムが隠されており、敵を倒して経験値を集めればさまざまな能力をアンロックできる。

グラフィックは美しいだけでなく、ストレスなくすべてが楽しめるようになっている。ロード時間が短いことは、PlayStation® 5/Xbox Series X|S世代に入りさらに重視されるようになったが、本作も広大なフィールドをほぼロードなしで描ききっているのが特徴だ。

それ以上に大きな特徴は、ゲームプレイのおもしろさとして移動に重点を置いている点だ。本作の攻撃は基本的に自動ロック。射程内にいれば攻撃ボタンを連打すれば攻撃が当たるようになっている。そのため、敵を狙って攻撃する必要があまりなく、敵の攻撃の回避に専念できる。

『Ori and the Blind Forest』より

とはいえ、「だから簡単だ」とはいえない。むしろ、このゲームはかなり難しい部類に入る。しかし、二段ジャンプや壁ジャンプ、敵や一部の物体をはじき飛ばしてオリ自身が逆方向に飛ぶ「打撃(バッシュ)」などを駆使した高速移動の難度とおもしろさは、本作が名作である理由の一端を担っている。これらを利用したチェイスシーンは展開の壮大さと息をつかせぬアクションの連続で、本作のハイライトとなっている。

発売前からの注目度も高く、発売後の評価も高いだけにインタビューだけでも無数のメディアが公開している。なかでもアートスタイルや物語面での影響としてあげられるのが、スタジオジブリ作品だ。国内メディアであればファミ通(註3)、海外であればVentureBeat(註4)やGameinformer(註5)などのインタビューで、プロデューサーのダニエル・スミス氏らが「スタジオジブリのような魅力的なキャラクターの造形」や「スタジオジブリのような手描きアートスタイルを目指した」と答えている。

開発者はゲームプレイの面で前述の『メトロイド』や『悪魔城ドラキュラ』はもちろんのこと、ステージデザインの一部に『光神話 パルテナの鏡』(1986年)の影響も挙げている。また、アートスタイルでも日本の作品の影響が挙げられているのは少し珍しいように思う。

『Ori and the Blind Forest』より

2020年には待望の続編『Ori and the Will of the Wisps』がリリースされた。本作は主人公オリは続投するが、基本的な攻撃方法が「精霊の刃」として近接攻撃に置き換えられた。また、遠距離攻撃は「精霊の矢」となった。多くの攻撃が自分で能動的に攻撃の方向を指示し、うまく狙う必要が生まれたのが大きな変化点だ。ストーリー面では登場するNPCが大きく増え、サイドクエストも豊富になった。よりRPGライクな要素が追加された変化について、スミス氏は「前作は『メトロイド』のようなものでしたが、本作は『ゼルダの伝説』です」とScreen Rantでのインタビュー(註6)で答えている。

ここまで来れば、『メトロイド』や『悪魔城ドラキュラ』の影響については語るまでもないが、本作はそこに「ゼルダの伝説」シリーズの影響も大きく表れている。その影響についても記しておきたい。

続編を制作するにあたって、「次回作はゲームをどのように拡張するか」という続編全体のデザインの指向性についても日本のゲームの影響があることを、スタジオの共同設立者であるトーマス・マーラー氏がFreegame Tipsのインタビュー(註7)で以下のとおりに答えている。

氏が参考にしたのは『ゼルダの伝説』(1986年)の続編『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』をつくるに当たって任天堂がとったアプローチだ。同作はオリジナルの『ゼルダの伝説』を尊重しつつ、すべての面で要素を深化させた。主人公リンクと話ができるより多くのNPCが登場し、より深い歴史がゲームの根底を流れる。あらゆる面が磨き上げられ、より丸みを帯びた。氏が目指したのは、このような方向性だった。

『Ori and the Blind Forest』より

そのため、『Ori and the Will of the Wisps』の世界には無数のNPCが生活しており、彼らはクエストなどをオリに与える。にぎやかになった世界に驚いた方も多いと思うが、その根底には『ゼルダの伝説』の影響もあったのだ。

このように、無数の日本のゲームが「オリ」シリーズに影響を与えていることがクリエイターのインタビューからわかるはずだ。(古嶋 誉幸)

以上で紹介したのはメトロイドヴァニアという豊饒なジャンルのごく一部にすぎず、名作はほかにも無数にあることを最後に改めて強調しておきたい。有名なところでは、ジャンル勃興期に新しいスタンダードを打ち立てた日本発の『洞窟物語』(2004年)を忘れてはいけないし、近年ではソウルライク路線をより親しみやすいものにしたオーストラリア発『Hollow Knight』(2017年)や、日本発『ENDER LILIES: Quietus of the Knights』(2021年)などが存在感を際立たせている。特に後者はこのジャンルにおける最新の注目作であると同時に、「悪魔城ドラキュラ」シリーズのプロデューサーが2019年に送り出した精神的後継作『Bloodstained: Ritual of the Night』と並び、日本の再躍進を象徴するものになっているといえる。今後もメトロイドヴァニアというジャンルは新旧さまざまな作品の影響を自覚的に吸収し、「最前線」と「温故知新」を並立させながら発展していくことだろう。


(脚注)
*1
2001年6月15日、ニュースグループUseet (rec.games.video.nintendo)に「Metroidvania」と書き込みが見られる。Googleのアーカイブより。
https://groups.google.com/g/rec.games.video.nintendo/c/Iq7Q2fqdkIE/m/hOLAJKzHR8QJ?pli=1

*2
Aaron R. Brown, Aaron Kaluszka, and Daan Koopman, “Guacamelee: Super Turbo Champion Edition Interview with DrinkBox Studios,” NintendoWorldReport, March 28, 2014.
https://www.nintendoworldreport.com/interview/36977/guacamelee-super-turbo-champion-edition-interview-with-drinkbox-studios

*3
編集部/F「『Ori and the Blind Forest』開発陣に聞く 日本の影響を受けて開発された、どこか心が癒やされる1作【E3 2014】」、ファミ通.com、2014年6月14日。
https://www.famitsu.com/news/201406/14055221.html

*4
Mike Minotti, “Ori and the Blind Forest’s producer wants his beautiful Xbox One exclusive to play as good as it looks (interview),” VentureBeat, June 18, 2014.
https://venturebeat.com/2014/06/18/ori-and-the-blind-forest-captures-the-style-of-studio-ghibli-in-a-seamless-xbox-one-exclusive/

*5
Ben Reeves, “Ori and the Blind Forest: A Multinational Team Bands Together To Create Their Dream Project,” Gameinformer, December 22, 2014.
https://www.gameinformer.com/games/ori_and_the_blind_forest/b/xboxone/archive/2014/12/22/a-multinational-team-bands-together-to-create-ori-and-the-blind-forest.aspx

*6
Christopher J. Teuton, “Ori and the Will of the Wisps Developer Interview: Making Bambi A Metroidvania,” Screen Rant, February 26, 2020.
https://screenrant.com/ori-and-the-will-of-the-wisps-developer-interview/

*7
Chris Watson, “Thomas Mahler: "We tried an approach similar to that of Nintendo with A Link to the Past",” Freegame Tips, March 5, 2020.
https://freegametips.com/thomas-mahler-we-tried-an-approach-similar-to-that-of-nintendo-with-a-link-to-the-past/


【ライタープロフィール】
洋ナシ
フリーランスライター。IGN JapanやGame*Sparkなどウェブメディアを中心に執筆。同人活動をきっかけに商業ライターにスカウトされ現在に至る。

古嶋 誉幸
ビデオゲームファン兼フリーランスライター。現場監督、無職、無職のバックパッカーを経てビデオゲーム系ライターへ転向。主に電ファミニコゲーマーでニュースを中心に、さまざまな媒体でレビューや企画記事などを執筆。

千葉 芳樹
編集者、ライター。IGN Japan所属。ゲームレビューやコラムを執筆。『インディ・ゲーム名作選』(Pヴァイン、2021年)、「S-Fマガジン」2018年6月号などに寄稿。

※URLは2021年7月16日にリンクを確認済み