文化庁広報誌「ぶんかる」キャラクター「ぶんちゃん」
令和3年度文化芸術振興費補助金メディア芸術アーカイブ推進支援事業は、我が国の優れたメディア芸術作品や散逸、劣化などの危険性が高いメディア芸術作品の保存及びその活用・公開等を支援することにより、我が国のメディア芸術の振興に資することを目的とするものである。
本支援事業の詳細は、以下文化庁ウェブページに記載のとおり。
https://www.bunka.go.jp/shinsei_boshu/kobo/92797101.html
本年度においては、応募24件に対し、16件を採択(採択率67%)した。
採択事業の概要は以下のとおりである。
団体名:一般財団法人大阪国際児童文学振興財団
事業名:明治、大正、昭和初期の子ども向け雑誌のデジタル化
補助金の額:3,570千円
明治、大正、昭和初期の子ども向け雑誌には多くのマンガや絵物語が掲載されており、同時代や後代のマンガ家・画家等に少なからず影響を与えたことはよく知られている。しかし、資料の所蔵機関が少ないためその全貌は明らかではなく、現代のマンガ文化等との影響関係に関する議論を困難にしている。そのような状況のなか、大阪府立中央図書館国際児童文学館には『月刊子供マンガ』『良友』、幼女向けや画報系の雑誌など、明治期から昭和初期に発行された多くの貴重な児童雑誌が所蔵されており、国際児童文学館にしか所蔵がない巻号も多く含まれる。
資料の劣化が激しいこれらの雑誌をデジタル画像化し、内容目次を含めて公開することは我が国のメディア文化の発展に大きな意義がある。
本事業では『月刊子供マンガ』『良友』、幼女向けの雑誌や画報系等の雑誌の保存のためのデジタル化、内容目次の入力を行った。なお、これらの成果は、大阪府立中央図書館国際児童文学館にて利用・公開するほか、文化庁のメディア芸術データベースへのデータ提供も行った。
団体名:一般社団法人日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム
事業名:アニメ脚本と脚本家のデータベース構築
補助金の額:3,900千円
日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアムでは放送番組の脚本を中心に収集し、公的機関での公開活動を行ってきた。その対象としてアニメーション(放送・映画・VOD)の脚本・企画書・絵コンテ・ポスター等の資料が含まれており、現在9,000点以上に及ぶ。特に昭和期のアニメーション脚本等の資料は、放送局・制作会社での保存が少なく、1970年代以前の放送作品は、ほとんどが失われ、紙の劣化も激しくその「デジタル化保存」は急務である。アニメーションの脚本は、絵コンテがつくられる前段階の設計図であり、作品情報を検索する第一次資料として、非常に有効なメディア芸術のジャンルのひとつと言える。また、放送草創期を支えた脚本家は高齢化しており、オーラルヒストリーの作業も、アニメーション史をひも解くうえで重要な作業であると同時に急務と言える。
本事業では、これら第一次資料・証言を収集、データ化及びデジタル化し「アニメ脚本と脚本家のデータベース」の構築を目的とし、作品紹介のあらすじを作成し英訳とともに発信した。また、全国の図書館・文学館に地域資料として分散保存されているアニメ脚本資料の所在調査を行い、今までにないアニメ資料に特化した「アニメ脚本統合検索サイト」の基礎研究を行った。
団体名:学校法人多摩美術大学
事業名:山口勝弘ビデオ彫刻アーカイブ事業
補助金の額:1,510千円
メディアアートの元祖と呼ばれる山口勝弘は、淡路島の一宮町(現 淡路市)に創作アトリエ「山勝工場」を建設し、同地で行政とともに「環境芸術村」構想を推進しようとした。没後、ここに往年の作品が保管されたままになっており、その劣化が危惧されている。
本事業では、「山勝工場」に保管されている遺作を調査し、修復・復元展示を行い、そのプロセスをマニュアル化することで、再現展示可能な状態で後世に受け継がれるように取り組んだ。
団体名:学校法人明治大学
事業名:明治大学現代マンガ図書館所蔵マンガ本目録データ作成
補助金の額:5,000千円
明治大学現代マンガ図書館は、設立者の故・内記稔夫(ないきとしお)氏が半世紀にわたり収集したマンガの単行本や雑誌、関連資料27万点を保有する、国内でも最大級の蔵書を持つマンガ専門図書館である。
本事業では、これまでデジタルデータ化されていなかった現代マンガ図書館所蔵マンガ本の目録データを作成するとともに、目録データベースの構築を進め、インターネットでの蔵書検索システムを公開した。
明治大学学術成果リポジトリ「2021年度明治大学現代マンガ図書館書誌所蔵一覧(コミックス)」
https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/dspace/handle/10291/22093
現代マンガ図書館OPAC
http://160.16.200.60/manga_library/index.php
団体名:学校法人立命館
事業名:ビデオゲーム資料アクセス向上のための調査事業
補助金の額:4,840千円
これまでに、立命館大学ゲーム研究センター(RCGS)では、所蔵するビデオゲーム(約9,500件)とゲーム関連資料(約6,800件)の書誌作成が完了した。書誌はオンライン閲覧目録である「RCGSコレクション」において公開されており、基礎的な書誌構築と公開が完了したと言える。
今年度は、研究者に加え一般の利用者も使いやすく、資料の内容に、より深くアクセス可能なデータの公開を行った。また、コロナ禍の影響によりオンラインのプレゼンスが高まり、ICT教育の分野でさらなる活用が期待されるシリアスゲームの基礎的な調査を行った。
団体名:株式会社ドーガ
事業名:CGアニメコンテストの入選作品及びその関連情報を収集し、データベース化等の整理を行った上で、web等で公開する作業
補助金の額:3,170千円
自主制作CGアニメ界は、現在国内外で活躍する商業アニメ監督などを多数輩出しており、人材や技術を育てる土壌となってきた。中でも、CGアニメコンテストは、CGアニメの黎明期である1988年から現在まで継続して行われている唯一のコンテストであり、その入選作群は、CGアニメの発展を語るうえで重要な作品のほとんどを網羅している。
しかし、それらの作品や関連情報などが、HDDなどの記録媒体の破損などによって、現在刻々と失われつつあった。そこで本事業では、自主制作CGアニメ作品とそれに関する情報を収集し、データベース化のうえ、公開を行った。
団体名:慶應義塾大学アート・センター
事業名:中嶋興/VICを基軸としたビデオアート関連資料のデジタル化・レコード化 Ⅱ
補助金の額:2,740千円
本事業は令和2年度メディア芸術アーカイブ推進事業「中嶋興/VICを基軸としたビデオアート関連資料のデジタル化・レコード化」*を引き継ぐものである。戦後から現代に至る日本のメディア芸術の諸活動を、「インターメディア」という枠組みにおいてとらえ直し、中嶋興(1941年~)とVIC(Video Information Center、1972年~)の関連資料群を通して、ビデオアートが包含し得る縦軸である芸術史・映像史と横軸である同時代の多様な芸術活動との連関から、日本のメディア芸術史をよりよく精査可能にするための基盤構築を目指した。そのため、中嶋とVICのビデオテープのデジタル化、レコード化及びリスト整備、中嶋のアトリエにあったビデオテープのリスト化、写真資料のリスト整備を行った。また、ビデオとアーカイブの問題について考えるためのインタビュー/ディスカッションを行った。
*詳細は次の報告書を参照。『ビデオとアーカイヴ』慶應義塾大学アート・センター、2021年
http://www.art-c.keio.ac.jp/research/research-projects/vic02/
慶應義塾大学アート・センター 事業公開用サイト
http://www.art-c.keio.ac.jp/research/research-projects/vic02/
団体名:公益財団法人東京都歴史文化財団東京都現代美術館
事業名:特撮美術監督 井上泰幸関連作品を中心とする特撮アーカイブ
補助金の額:2,630千円
日本の映像史上、重要な「特撮」領域において、大きな足跡を遺[のこ]した特撮美術監督、井上泰幸(1922年~2012年)の個展(主催:東京都現代美術館、朝日新聞社)を成果公開のひとつとして、井上の携わった特撮作品多数を中心に調査・デジタルデータ化を実施し、貴重なアーカイブとして、展示や図録への利活用を行った。2022年に生誕百年を迎える井上は、円谷英二監督のもと、1954年の「ゴジラ」から本格的に特撮美術の実装に従事し、大きく貢献した。上記展(2022年3月19日~6月19日)に向け、遺族宅に保管中の未整理資料の散逸や劣化を避けるため、スケッチ、デザイン画、絵コンテ、記録写真、ミニチュアやプロップを調査・整理分析・スキャン・リスト化した。
成果発表展示「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/yasuyuki-inoue/
出展作品リスト(PDF)
団体名:公益財団法人東京都歴史文化財団東京都写真美術館
事業名:東京都写真美術館所蔵作品・資料の保存修復とデジタル化
補助金の額:3,990千円
東京都写真美術館の収蔵映像作品・資料、及び主催事業に関連する作品・資料のなかで、メディアアート作品と映像作品の調査、保存、修復、デジタル化、アーカイブ化の作業を行った。対象となる藤幡正樹《Beyond Pages》(1995年)は、作品に使用されているハードウェアとソフトウェアの調査及び修復を行った。
経年劣化が問題となるフィルム作品に関しては、昨年度に引き続き、飯村隆彦作品から《AI(LOVE)》(1962年)の4Kスキャン作業を行った。
団体名:公益財団法人山口市文化振興財団
事業名:大友良英+青山泰知《without records》の修復・整理・保存
補助金の額:3,170千円
音楽家の大友良英と美術家の青山泰知が山口情報芸術センター(YCAM)で制作・発表したインスタレーション作品《without records(ウィズアウト・レコーズ)》(2008年)は、改造した中古のポータブルレコードプレイヤーを主要な素材として用いており、会場に合わせて作品の規模が伸縮する特徴を持っている。そのために、長期的な維持や保管に難点を抱えている。
本事業では、本作の制作時の資料調査と、作家へのヒアリングなども実施しながら、作品の保管状況の改善や展示のインストラクションの作成など、作品が後世に受け継がれるような取り組みを進めた。
団体名:国立大学法人熊本大学
事業名:橋本博コレクション貴重資料のメディア芸術データベース登録へ向けての試行
補助金の額:1,780千円
「メディア芸術データベース」にも未登録の貴重資料を持つ個人コレクターは全国各地に存在するが、その高齢化に伴い、コレクションの多くが個人では維持困難な段階を迎えている。本事業では、既存データベースに未登録の貴重なマンガコレクションの代表例として、熊本の橋本博コレクション十数万点のなかから特に貴重な資料(約800点)を精選し、メディア芸術データベースに登録するための準備を進めた。橋本博は1948年生まれで戦後マンガ文化の歩みを体感してきた世代に属し、NPO法人熊本マンガミュージアムプロジェクト(通称「クママン」)代表理事・合志マンガミュージアム館長などの役職を務め、マンガ文化の価値を社会的に発信する活動に従事してきた。コレクションのなかには、1990年代半ばの貴重なマンガ家インタビューの映像資料も含まれる。
団体名:特定非営利活動法人ゲーム保存協会
事業名:国内レトロ PC ゲーム データベース情報入力
補助金の額:4,370千円
ゲーム保存協会は1980年代の国産パソコンゲームをはじめとする、貴重なゲーム資料の保存を行う団体である。
データベースがなければ、1970年代以降国内にどんなゲームが出ていたのか、その歴史の正確な把握は不可能である。数多くの原物資料を所有するゲーム保存協会では、実際に資料を確認し、信ぴょう性の高いデータベースをつくっている。雑誌に掲載されたプログラムなども調査登録、マイナーな機種のソフトなど、特殊な作品も対象に加え作業している。
ゲーム資料の多くは磁気媒体で、経年劣化によるデータ消滅の恐れがある。今年度は所有する資料のデータベースをつくると同時に、資料そのもののマイグレーションというデータ移行による保存作業も進め、日本のゲームの歴史を未来に残す取り組みを行った。
団体名:特定非営利活動法人プラネット映画保存ネットワーク
事業名:神戸映画資料館所蔵アニメーションフィルムのデジタルアーカイブ事業
補助金の額:5,000千円
神戸映画資料館は、その母体であるプラネット映画資料図書館が1970年代から収集・保存してきた1万8,000本以上の映画フィルムを収蔵しており、なかでも日本アニメーションの揺籃[ようらん]期に作られたマンガ映画のコレクションは、他のアーカイブが所蔵していない貴重なフィルムを有している。そのなかには複製化やデジタル化ができていないフィルム、さらには題名等が欠落し詳細が不明の作品が多数あるが、令和2年度の本事業によりデジタル化と内容調査が始まり成果を上げている。ネット環境の進化により視聴と情報共有が容易になったために映像研究やロストフィルムの発掘がグローバル化している今、いまだ詳細調査に至っていないコレクションのデジタル化は、資料保存と価値発見促進というアーカイブ業務の両側面から不可欠の手続と言える。
今年度は、引き続きデジタル化と内容調査を行い、その調査結果を公開した。また、本団体代表の安井喜雄がかつて企画編集した書籍『日本アニメーション映画史』(有文社、1977年)の作品目録のデータベース作成を行った。
団体名:日本アニメーション株式会社
事業名:新グリム名作劇場全 23 話のデジタライズ
補助金の額:2,680千円
日本アニメーション株式会社は日本のアニメーション制作黎明期から日本のアニメーション文化発展のため、数々の作品を制作してきた。『フランダースの犬』や『あらいぐまラスカル』に代表される「世界名作劇場」シリーズ、1990年1月7日の放送開始から現在も放送が続く『ちびまる子ちゃん』などの製作のアニメーション作品は、国内外問わず多くの視聴者(ユーザー)の支持を得ている。
一方で過去に人気を博した作品であっても、現代のマネタイズ事情により埋もれている作品が日本アニメーション株式会社のライブラリーに存在し、このような作品をどのように将来にわたって残していくかが課題であった。さらにフィルムはTACベースで作られており、時間がたつにつれ、ビネガーシンドロームというフィルム特有の病気を引き起こす可能性もあった。
昨年度の本支援事業において1987年に放映された『グリム名作劇場』全24話の35mmネガフィルムを2Kにてデジタライズし、それらをYouTubeにて公開した結果、反響を得られた。今回は1988年放映『新グリム名作劇場』全23話のデジタライズを行い、日本アニメーション株式会社の公式YouTubeチャンネルにて2021年11月26日から2022年1月14日まで期間限定にて公開した。
団体名:森ビル株式会社
事業名:日本特撮アーカイブ
補助金の額:3,920千円
日本特撮アーカイブは、特撮に関する中間制作物の保管・保全を第一の目的としている。なかでもミニチュアなど一次資料となる現品は、適切な環境で永続的に保存していかなければならない。また、それらの展示・講演会・ワークショップ・上映会などを通して特撮の魅力を後世に伝えることで、特撮文化の継承につなげていくことを目指している。
本事業では、須賀川特撮アーカイブセンターの所蔵リストの整備を進めるとともに、特撮中間生成物の3Dスキャン、デジタルアーカイブに加え、取得したデータの公開手法の模索を行った。なお、これら成果は同センターでのモニター上映などを通して広く一般に向けて公開している。
団体名:湯前町
事業名:那須良輔作品及び関連資料群アーカイブ化事業
補助金の額:2,730千円
湯前まんが美術館は、那須良輔のデビューから晩年に至るまでの作品及び関連資料およそ7,000点が収蔵されると言われていたが、その正確な総数や内容は把握されていなかった。また紙台帳は作成されていたが目録化されていなかったため、検索性の低さや重複や抜けがあるなど台帳としての機能に課題があった。
令和2年度の本事業により総数と内訳が把握されたが、さらに詳細調査が必要な状況にあった。風刺マンガを中心とする作品の性質上、時代の流れに大きく影響され、解説なしではその意味が理解されなくなる可能性もあり、早期に描かれた背景を調査しておく必要があった。また、当館は那須良輔と親しかったマンガ家や文化人とのつながりもあるが、彼らからの那須の人物像や逸話の聞き取りも時期的制約が懸念された。
今年度は、原画約7,200点、書誌約4,000点、作品関連資料約1,000点のアーカイブ化を進めた。風刺マンガにおいては時代背景調査なども含めた資料のデータベース化、原画等の電子画像化を行い、現物の保存処理や収蔵においては、専門家の助言を得ながら改善を図った。また、アーカイブ化の成果を今後の活用等につなげるための検討を併せて行った。
湯前町 那須良輔作品及び関連資料群アーカイブ化事業について
https://www.town.yunomae.lg.jp/kiji0032305/index.html