令和3年度メディア芸術連携基盤等整備推進事業 報告会が2022年2月22日(火)に開催、ウェブ会議システムZoom・YouTube Liveでライブ配信された。メディア芸術連携基盤等整備推進事業は、産・学・館(官)の連携・協力により、メディア芸術の分野・領域を横断して一体的に課題解決に取り組むとともに、所蔵情報等の整備及び各研究機関等におけるメディア芸術作品のアーカイブ化の支援をすることで、文化資源の運用や展開を推進する事業。新たな創造の促進と専門人材の育成により、メディア芸術作品のアーカイブ化を継続的・発展的に実行していく協力関係の構築を目指している。本報告会では、本事業の一環として実施した「分野別強化事業」の5事業の報告、有識者検討委員と報告者による質疑応答がなされた。本稿ではそのうちの「マンガ刊本アーカイブセンターの実装化と所蔵館ネットワークに関する調査研究」を取り上げる。

報告者:熊本大学大学院 人文社会科学研究部(文学系) 准教授 鈴木寛之

令和3年度の事業目的と成果

令和3年度は「マンガ刊本アーカイブセンターの実装化に向けた調査研究」「所蔵館ネットワークの構築」「刊本プールの有意性に関する検討」「デジタルアーカイブ化の準備」「マンガアーカイブ協議会の開催」の5つを掲げて事業を進めた。

「マンガ刊本アーカイブセンターの実装化に向けた調査研究」に関しては、設置準備委員会の会議を8月と1月に実施し、刊本センター、刊本プールの事業内容を検討し、刊本の収書方針、センターの運営体制および収入など、具体的な懸案事項にも踏み込んだ。また、昨年度から引き続き刊本プールとしている熊本市中央区の森野倉庫にて、単行本や雑誌の収蔵、整理・分類を行った。

「所蔵館ネットワークの構築」としては、6月、10月に開催した会議にて全国的なネットワークによる情報共有および意見交換、刊本プールの運用の仕方と今後の検討を実施。連携候補先のリスト化、前年度に実施した大学図書館・マンガ関連施設などを対象とした刊本収蔵に関するアンケート結果のさらなる分析作業なども進めている。また、要望のあるほかの連携機関に対して、移送可能な刊本資料の選別、「刊本利活用BOX」を用いた分類・整理を継続中。大学や特定非営利活動法人、マンガ関連施設、図書館などと連携した刊本のアーカイブ活動について、全国のモデルケースとなるような方法を熊本、九州で探っている。

「刊本プールの有意性に関する検討」については、9月、1月に行った会議において、刊本プールから永年保存用の刊本資料である「正本」を抽出するときに生じる問題および国内外への刊本資料の再配分に関して生じる問題などについて議論した。この正本を全国的にどう整備して、どう活用するかが、マンガ刊本アーカイブセンターの中心課題である。

「デジタルアーカイブ化の準備」としては、メディア芸術データベースとの連携を見据えたマンガ刊本アーカイブにおけるメタデータの検討、実装化のうえで必要となる業務内容などについて協議を重ねた。加えて、特定非営利活動法人熊本マンガミュージアムプロジェクト(クママン)が行ってきたアーカイブ事業の知見の生かし方についても探っている。

「マンガアーカイブ協議会の開催」では、「マンガ原画アーカイブセンターの実装と所蔵館連携ネットワークの構築に向けた調査研究」と本事業の将来的な連携を見据えて会議を行った。最終的には、それぞれの窓口機能を接続した総合窓口の必要性も考えられる。両事業の取り組みを掛け合わせることで行える、体系的なアーカイブのあり方について検討を進めている。

今後の課題

本事業における今後の課題としては、4点挙げられる。まずひとつ目は、刊本プールの位置づけの再考。刊本プールは、国内外におけるマンガ本の再配分のハブ、寄贈を受け入れて別の施設に再寄贈するための一時置き場として構想されたものだが、圧倒的な物量の資料が寄贈され、整理して再寄贈する作業が到底追い付かないということが判明した。そのため今後は、モノとしてのマンガ本のプール機能の外部化を目指し、来年度は、資料を受け入れ、整理して再寄贈する機能が正常に働いた場合のコスト計算を行うための作業実験を行う計画を立てた。

2つ目は、刊本事業に参加する施設のネットワーク間の所蔵データの共有。マンガ原画の所蔵データとの連動も見据えて、メディア芸術データベースをはじめとした複数の既存のサービスの調査を来年度以降、本格的に行っていき、マンガに関するデータの利活用を図る。

3つ目は、アーカイブ資料の損壊について。全国の連携施設のネットワークのなかで刊本をアーカイブできたとしても、施設によっては、その資料を消耗品として扱うところが出てくる可能性があるため、施設間における差異について、今後より細かい調査が必要であることが確認された。

4つ目は、マンガ刊本アーカイブセンターを維持していくための収益の問題。展覧会のパッケージ化とその販売を試みた「マンガ原画アーカイブセンターの実装と所蔵館連携ネットワークの構築に向けた調査研究」の協力を得て、来年度以降、マンガ刊本アーカイブを活用した展覧会制作の可能性を探っていく。

鈴木寛之

実施報告書(PDF)

※URLは2022年4月13日にリンクを確認済み