令和3年度メディア芸術連携基盤等整備推進事業 報告会が2022年2月22日(火)に開催、ウェブ会議システムZoom・YouTube Liveでライブ配信された。メディア芸術連携基盤等整備推進事業は、産・学・館(官)の連携・協力により、メディア芸術の分野・領域を横断して一体的に課題解決に取り組むとともに、所蔵情報等の整備及び各研究機関等におけるメディア芸術作品のアーカイブ化の支援をすることで、文化資源の運用や展開を推進する事業。新たな創造の促進と専門人材の育成により、メディア芸術作品のアーカイブ化を継続的・発展的に実行していく協力関係の構築を目指している。本報告会では、本事業の一環として実施した「分野別強化事業」の5事業の報告、有識者検討委員と報告者による質疑応答がなされた。本稿ではそのうちの「ゲームアーカイブ所蔵館の連携強化に関する調査研究2021」を取り上げる。
報告者:立命館大学 先端総合学術研究科 授業担当講師 尾鼻崇
令和3年度の事業方針
令和3年度は「アーカイブ」「データベース」「利活用」のサイクルを成立させ、持続的な活動基盤をつくるための施策によって方向づけられた。主に3本柱で行っており、一点目は「世界水準の運営基盤構築のための整備」で、利活用を推進できる形式でのアウトリーチの強化のため、主にメタデータのマッピングやそのための課題発見などを行った。二点目は「専門家間における相互の協力体制の構築」であり、所蔵館連携の強化と、収集と物理・デジタル保存環境の構築やセミナー開催による知見の共有、発信を指す。三点目は「次世代を担う人材育成や環境の整備」で、アーカイブ利活用の推進につながる。主にアクション・リサーチによる課題発見と、解決のための知見収集、自治体をはじめとしたゲーム分野外の既存組織との連携可能性の検討を進めた。
実施内容と成果
これらのなかから今回は「利活用を推進できる形式でのアウトリーチの強化」「所蔵館連携強化と知見共有のためのセミナー実施」「アクション・リサーチによる課題発見と解決のための知見収集」の3つを中心に報告する。
まず「利活用を推進できる形式でのアウトリーチの強化」については、ゲームのこれまでの展示履歴に関して調査した結果、近年のゲーム展示の手法は、ゲームを紹介する展示よりもむしろゲームを利活用する展示が増加傾向にあることがわかった。例えば、2019年に東京国立博物館で行われた「特別展「三国志」」、徳川美術館と『刀剣乱舞-ONLINE-』とのコラボレーションした展示は、ゲームそのものを展示するわけではなく、既存の展示にゲームに関連する資料を加えることによって、展示の解像度をより高めている。また、令和3年度はゲームを原作としたコミカライズ作品の展示など、ゲーム分野を越境した事例に関する調査も行った。これらの調査の結果、誰に相談すればゲームの展示を円滑に進められるのか、もしくは、ゲーム資料はどこに何があるのかが、特にゲームを専門としないキュレーターにとって大きな課題となっていることが明らかになった。
これを踏まえ、ゲームに関する情報を、データモデルの検討およびメタデータのマッピングや課題発見などを行うことによって、メディア芸術データベースに登録するための情報基盤をつくっていった。具体的には、まず一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)が実施するゲームデベロッパー向けのカンファレンスの講演記録、日本ゲーム大賞ノミネート・受賞作品を登録。その次に、博物館の展示調査や、所蔵館所蔵目録などを基にしたデータを登録するための準備を進めた。メディア芸術データベースは、メタデータの構造も精緻に設計・構築されているため、展示情報を掲載し利活用を進める環境としては、適していると考えられる。
「所蔵館連携強化と知見共有のためのセミナー実施」では、2021年1月にゲームアーカイブ推進連絡協議会セミナーをオンラインで実施した。本セミナーでは、NPO法人日本PBMアーカイブスの中津宗一郎氏より、1990年代前半に隆盛を極めたゲームで、数千人規模のプレイヤーが郵便を使って同時にプレイするRPG「PBM」を保存するための試みが伝えられた。また、スクウェア・エニックスの三宅陽一郎氏らにより、開発資料を管理するプロジェクト「SAVE PROJECT」について、理念から実際の保存方法までが報告された。また、別途行ったゲーム産業界へのアンケート調査で、昨年度に行った同調査と比べ、新たに3社が資料保存に関心を持ちはじめたことがわかった。
「アクション・リサーチによる課題発見と解決のための知見収集」では昨年度に引き続き、ゲーム音楽のアーカイブを考えるためのオンライン展「Ludo-Musica II」を、2022年1月から2月にかけて開催。ゲームをプレイしないと体験できない音楽をどのように記述・保存するかといったことをテーマとして展示した。本展示に際しては、展示楽曲の権利状態の調査や許諾取得を行ったが、手続きのための時間、条件が必要であることが大半であった。このように、費用対効果を考えると文化事業やアーカイブには比較的消極的になりがちなゲーム産業ではあるが、事例を重ねるにつれて少しずつ変化が見られることを、この調査事業を進めているなかでも実感している。
今後の拡張計画
本事業の今後の拡張計画としては所蔵館連携強化、さらなるメディア芸術データベース登録の拡張、他分野と連携したかたちでのアーカイブ利活用の調査、海外連携の強化を予定している。
尾鼻崇
※URLは2022年4月13日にリンクを確認済み