2022年3月18日(金)から8月31日(水)にかけて、国内の展覧会史上、最大規模となるロボットをテーマにした展覧会、特別展「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?」が開催されている。会場となる日本科学未来館(東京・お台場)には、約90種130点のロボットが一堂に会した。技術の進歩によって、日々人間(や生き物)により近い存在へと進化し続けるロボット。本展はそんなロボットの現在を通して、「私たち人間とは?」を考える、哲学的視点で構成されたロボットの大博覧会だ。

世界で初めて「感情」を持った人型ロボットPepper

人間とロボット その想像と創造の歴史

ロボットの定義を一元化することは難しいが、「人間、あるいは生き物に似た人工的な存在」の歴史をたどれば、その起源は紀元前にさかのぼる。文学作品に神の側近として登場する黄金の少女や、実際に造られた木製の義肢など、まずはかたち、つまりは「からだ」を人に似せて想像され(あるいはつくられ)たロボットは、2000年以上の年月をかけてさまざまな進化を遂げている。本展の冒頭、ゾーン1では、そんなロボットの歴史を年表と実物で紐解く。年表には先述したような事例をはじめとして、フィクションで描かれたロボット、あるいは実際に制作されたロボットの歴史がまとめられている。実物は1973年に開発された世界初の人工知能ロボットWABOT-1を筆頭に、ソニーグループのAIBO(1999年)、本田技研工業のASIMO(2000年)など、比較的記憶に新しいロボットたちも並ぶ。その一番奥で鑑賞者を迎え、次へと誘うのが、世界で初めて「感情」を持った人型ロボット、ソフトバンクロボティクスによるPepper(2014年)だ。さまざまなフィクション作品において、ロボットと人間の境界線として描かれてきた「感情」の垣根を超えた彼は、ロボットと人間の境界や関係性を考えるうえで、大きなターニングポイントと言える存在だろう。

Pepperが歴史の先で過去のロボットたちを傍観する

Pepper以降、ロボットの役割や人間との関係性はますます多様化している。そんなロボットの現在を、人間を構成する重要な要素である「からだ」「こころ」「いのち」を観点として紹介するのが、本展のなかで一番広いエリアで展開するゾーン2である。

ロボットで拡張する「からだ」

ゾーン2ではまずはロボットと人の「身体」に着目する。「からだって、なんだ?」という問いのもと、人の外形やその動きの仕組みを模倣するロボットや、装着し人の身体の一部を補うロボット、人の身体をさらに拡張させるロボットなどが集う。本展で初めて一般公開されているソニー・インタラクティブエンタテインメントによるEVAL-03は、目の前の人と瞬時に同じ動きをする、ミラーリング機能を搭載したエンターテインメント性の高い小型の人型ロボットだ。また、本展最大のロボット、人機一体による零式人機は、人の上半身を巨大化したような姿をした、鉄道インフラメンテナンス分野での社会実装を目的として開発されている。操縦者が乗るコックピットは本体とは別にあるものの、VRゴーグルを装着することで、まるでロボットと同化しているかのように、ロボットの目線での操作が可能だ。人間には持てないような大きさ、重量のものを、普段と同様の動きで扱えるため、操縦者は自身の身体が拡張されたかのような感覚を得られるだろう。

筆者の動きに反応し、即座に真似をするEVAL-03
零式人機 ver.1.2のデモンストレーション。初心者でも普段の身体感覚で操作可能なため、その大きな手を狙った一点に持っていくことも容易である

CYBERDYNEによるサイボーグHALは、身体に障害がある人や、身体機能が弱くなった人の自立を支援したり、作業現場での身体の負担を軽減したりする装着型のロボットだ。人の生体電位信号を読み取ることで、装着した人が望む動きを実現・補助する。一方で、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科から出展された複数のロボットは、人にしっぽが生えたら? 腕が増えたら? といったユニークな発想から、人の身体をさらに拡張することを試みるロボットたちだ。

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科による装着型ロボットArque。動物が持つ尻尾の特性を人間に転用し、バランスが崩れた際や重いものを持つとき、細い道を歩くときなどに人のバランス能力をアシストする

さらに、第24回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門にてソーシャル・インパクト賞を受賞し、またPrix Ars Electronica 2022のデジタルコミュニティーズ部門でもゴールデン・ニカ賞を受賞した「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」にて活躍する分身ロボットOriHimeとOriHime-D(オリィ研究所)もここで紹介されている。東京・日本橋にある「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」では、寝たきりなど、さまざまな理由により動きを制限されている人々が、ロボットを介して給仕や接客などのサービス業に遠隔で従事することで、社会参加を実現している。OriHimeたちの存在は、身体にとどまらず、人の生き方を拡張していると言っても過言ではない。

OriHimeを遠隔操作することで、自分の分身として存在させられる
©オリィ研究所

ロボットと満たされる「こころ」

続くエリア、「こころって、なんだ?」に並ぶのは、比較的小型の愛らしいロボットだ。豊橋技術科学大学の岡田美智男教授が「弱いロボット」と名付け研究・開発する、不完全さをその特徴とするロボットたちもこのエリアに含まれる。

2018年に発表されたソニーグループのaiboは、1999年に同社によって生み出されたペットロボットAIBOの次世代に当たる。約20年の時を経て、性能(CPU)は「4万倍くらい」向上しているにもかかわらず、コンセプトとして重要視しているのは、変わらず「役に立たない」ことだという()。

愛らしい瞳でこちらを見上げるGROOVE XのLOVOTは、生後3カ月ほどの赤ん坊のような大きさ(身長43cm)をしている。その脇の下に手を差し入れ抱き上げると、重さもちょうどそのくらい(4.3kg)で、本体はしっかりと温かい。意味を持たない声で甘えるその姿に、人は手を差し伸べずにはいられないだろう。そのほか、少ない言葉で内緒話をし合うロボットや、物忘れが激しいロボットなど、どれもが機能は限定的で、どこか拙い。また、ペットのように毛が生えていたり、柔らかかったりと、人の触覚にやさしい刺激を与えることもまた、ここに集うロボットの特徴である。人の可能性をさまざまに拡張する、社会的役割を担う先述のロボットたちが活躍する一方で、それらとはある意味正反対の、不完全さが人の心を動かす「弱いロボット」たちもまた多様に生み出され受け入れられている。人を内的に満たすのは、不完全さや弱さ、そこから生まれる支え合いやコミュニケーションであるようだ。 

ゾーン2「こころって、なんだ?」展示風景。手前右にaibo、左にLOVOTが
近づくと、声を発しながら寄ってくるLOVOT。抱き上げずにはいられない
ロボット同士がヒソヒソと内緒話をする、豊橋技術科学大学によるポケボー・ジュニア
なでるとしっぽの動きで反応してくれる、ユカイ工学のQoobo

また、同エリア内のセクション「こころを感じるこころ」では、その外見から振る舞いまで、すべてを人間そっくりにすることを目指したロボットも展示されている。大阪大学の石黒浩教授(第20回文化庁メディア芸術祭アート部門にて、池上高志氏との共同作品「Alter」で優秀賞を受賞)そっくりのロボット・ジェミノイドシリーズは知られた存在だが、本展では「アンドロイドの討論」と題し、異なるバージョン(大阪大学大学院基礎工学研究科石黒研究室、国際電気通信基礎技術研究所石黒浩特別研究所によるジェミノイドHI-2、ジェミノイドHI-4)の石黒教授ロボットが対峙。ほぼ同じ外見をしたロボット同士がさまざまなテーマについて討論するさまは滑稽でもありながら、見ているうちに疎外感を覚え、もはや人間の介在を必要としないその様子に、末恐ろしさを感じるのであった。

ロボットがつなぐ未来 その不安と期待

3つ目のエリア「いのちって、なんだ?」では、生命に関わるロボティクスを紹介。なかでも興味深いのは、2019年のNHK紅白歌合戦で話題になったAI美空ひばりなど、実在する(した)人を模したデジタルクローンだ。既存の作品を解析してつくられた手塚治虫の新作『ぱいどん』や、脳科学者・茂木健一郎のクローンなども登場。再現にとどまらない、人工知能による実在の人物の更新とも言えるようなそれらの試みは、非常におもしろくもあり、同時に多くの問題を孕む。新曲を歌い上げたAI美空ひばりに賛否両論が巻き起こったのは記憶に新しいが、対象となる人の権利や尊厳について議論がなされるほどに、その再現性は日々高まっている。

オルツによるオルツ・デジタルクローン。今を生きる脳科学者・茂木健一郎と19世紀の哲学者であるフリードリヒ・ニーチェのクローンが対話する。科学技術を用いれば、こんな時空を超えた議論も可能だ

エピローグとなるゾーン3は、「きみとロボットの未来って、なんだ?」と題したインタラクティブなインスタレーション展示だ。企画・演出・制作を担当したのは、オリジナルのアート作品の制作やさまざまな空間におけるインスタレーション映像演出等を手掛けるWOW.inc。鑑賞者の行く先に現れたゲートには、「デジタルクローンとして生まれ変わった」「幼なじみに、実はロボットなんだと告白された」といった、ロボットとの未来を想像するきっかけとなるような言葉がランダムに表示される。ロボットの現在形を知ったうえで、彼らとの未来をどう築いていくかは、鑑賞者次第ということだろうか。

本展では鑑賞や体験を通して、多様なロボットの今を知ることができる。人間が自ら生み出し、進化の歩みを止めないロボットたち。彼らを、よりよい未来をともに歩むパートナーとできるかどうか、実際に触れ合い、自分ごととして考えてみたい。

展覧会を締めくくるWOW.incによるインタラクティブなコンテンツ。ロボットとの未来を示唆する言葉がランダムに表示される

脚注)
「復活アイボ、死守した「役に立たない」というコンセプト」朝日新聞デジタル、2018年1月11日、有料会員記事
https://digital.asahi.com/articles/ASL154FQBL15ULFA00H.html?iref=pc_rellink_04


(information)
特別展「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?」
会期:2022年3月18日(金)~8月31日(水)10:00~17:00
   ※8月の土曜日およびお盆期間(8月11日~16日)は19:00まで
休館日:火曜 ※ただし7月26日~8月30日の火曜日は開館
会場:日本科学未来館(東京都江東区青海2-3-6) 1階 企画展示ゾーン
入場料:大人(19歳以上)2,100円、中人(小学生~18歳)1,400円、小人(3歳~小学生未満)900円
主催:日本科学未来館、朝日新聞社、テレビ朝日
https://kimirobo.exhibit.jp/

※URLは2022年8月16日にリンクを確認済み