『テルマエ・ロマエ』(2008~2013年)などのマンガのヒット作のほか、旅、食、家族などを切り口としたエッセイ等の著作、最近では山下達郎の新譜ジャケットに描いた肖像画で、画家としての顔も話題になったヤマザキマリ。その幅広い活動を俯瞰する展覧会が10月25日(火)から東京造形大学付属美術館およびZOKEIギャラリーで開催されている。東京造形大学の在学生、卒業生が企画から制作、運用まで積極的に関わったという展覧会の様子を、プレス内覧会の取材を基に写真で紹介する。


手前は『テルマエ・ロマエ』単行本4巻表紙をモチーフにした学生作品《ルシウス頭部の立体化》。各巻の表紙はルネサンス期を代表する彫刻を翻案して描かれている。奥は4巻表紙の元になったミケランジェロ《ジュリアーノ・デ・メディチ》の市販の石膏像

学生たちの道案内で作品世界を探索する

展覧会の監修は東京造形大学で教鞭をとる池上英洋氏と粟野由美氏。池上氏はイタリアを中心とした美術研究者として知られ、レオナルド・ダ・ヴィンチをテーマにしたテレビ番組でヤマザキと知りあい、ともに14歳でヨーロッパを一人で旅した共通の体験もあり意気投合。ヤマザキは2020年度から同大学で客員教授を務めているが、ヤマザキを同大学に誘ったのも池上氏だ。両教授の監修の下に、展覧会づくりを担ったのは卒業生を含む学生の有志66人だ。彼らはまず膨大なヤマザキのマンガ、エッセイ等の著作のレビューを書くことから始めたという(註1)。

一般的な展覧会は学芸員のキュレーションによってつくられるが、本展の特徴は学生たちが主体となって展覧会を構成し、彼らがどのようにヤマザキマリ作品と対峙したかが展示に色濃く落とし込まれているところだ。会場には学生たちの作品も点在し、ヤマザキ作品のナビゲーションを務める。美術大学としてのポテンシャルが発揮された展覧会といえる。付属美術館の会場に入ってまず目を惹くのは、学生による作品でラファエロの《アテナイの学堂》を模して制作された《ヤマザキマリ・ワールドの学堂》だ(註2)。ラファエロの作にならい画面に配された人物に、ハドリアヌスやルシウス(『テルマエ・ロマエ』)、デメトリオス(『オリンピア・キュクロス』〔2018~2022年〕)、ボッティチェリやベッリーニ(『リ・アルティジャーニ』〔とり・みきと共作、2015年~〕)といった作品ゆかりのキャラクターが集合する壮観な大作。

ヤマザキの作品としては肖像画に注目したい。マンガ家になる以前、イタリア・フィレンツェで15世紀の北方ルネサンス様式の肖像画を学んでいたヤマザキが、山下達郎の11年ぶりのアルバム『SOFTLY』のジャケットとして22年ぶりに絵筆を手に取って仕上げた肖像画のほか、展覧会の搬入日まで手を入れていたという落語家の立川志の輔、人形浄瑠璃文楽の人形遣い桐竹勘十郎の3点が並んだ。

マンガ家としての仕事をある期間続けた後は、油画の仕事を中心にすることも考えているというヤマザキ。これまでの歩みをたどるだけでなく、その旺盛な好奇心がこれからどこに進むのかまで、鑑賞者の興味をかき立てる展覧会となっている。


東京造形大学附属美術館、会場の様子。手前上から吊られたバナーが《ヤマザキマリ・ワールドの学堂》

『テルマエ・ロマエ』原画 ©ヤマザキマリ/KADOKAWA
各国で出版された『テルマエ・ロマエ』の単行本

デザイン学科・室内建築専攻領域学生有志による《復元立体模型カラカラ帝浴場》(1/250)。3世紀にローマ皇帝カラカラが市街に造営した大浴場で、会議室や食堂、図書館などが併設されていた
カラー原稿の製作工程をまとめた展示

左から桐竹勘十郎、山下達郎、立川志の輔の肖像画
《山下達郎の肖像》 ©ヤマザキマリ

初公開の子供時代の絵日記、スケッチなど

奥壁面は学生作品のモザイクアート《ヤマザキマリの肖像》。マンガの誌面を素材にしている
《モザイクアート》制作風景 ©東京造形大学
ZOKEIギャラリー、会場の様子。著述作品から抽出したヤマザキの言葉が垂れ幕のインスタレーションになっている
学生作品、プロジェクションマッピング《ヤマザキマリの原風景》

さまざまな文明圏で暮らしたヤマザキの足跡を世界地図にまとめた資料展示
肖像画の前でのヤマザキマリ。学生のときにヤン・ファン・エイク《赤いターバンの男》(1433年)の模写をして以来、壮齢期の表情に深さのある男性を描くことに惹かれるようになったという

(脚注)
*1
学生の作品レビューは書籍展示の解説になっている

*2
《アテナイの学堂》はプラトンとアリストテレスの師弟を中心に60人が描かれる群像画。『ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論』(集英社、2015年)でもラファエロらしい一作として取り上げられている


(information)
ヤマザキマリの世界
会場/会期:[東京造形大学附属美術館]
      2022年10月25日(火)~11月26日(土)
      [ZOKEIギャラリー(東京造形大学12号館1階)]
      2022年10月25日(火)~11月18日(金)
開館時間:10:00~16:30(入館は16:00まで)
※11月25日(金)は19:00まで開館(入館は18:30まで)
休館:日曜・祝日
入館料:無料
https://yamazakimari.world

※URLは2022年11月10日にリンクを確認済み