「第25回文化庁メディア芸術祭受賞作品展」が2022年9月16日(金)から9月26日(月)にかけて、日本科学未来館を中心に開催された。本稿では、開幕前日の15日(木)に行われた日本科学未来館での報道関係者向けの内覧会をもとに、展示の様子をレポートする。
展覧会キービジュアルが映し出されたコミュニケーションロビー。デザインを手掛けたのはRhizomatiks
以下の会場写真すべて、撮影:小野博史
アート部門、エンターテインメント部門、アニメーション部門、マンガ部門、フェスティバル・プラットフォーム賞の受賞作品全39点が一堂に会した本展。日本科学未来館1階企画展示ゾーンを中心に、同館7階にも展開したほか、館の設備を活かすことを前提としたフェスティバル・プラットフォーム賞受賞作は、カテゴリーごとに、吹き抜け空間に設置されたジオ・コスモスと6階ドームシアターガイアにて上映。また7階では、功労賞受賞者4名の紹介展示や関連事業紹介なども行われた。1階企画展示ゾーンから、順を追ってレポートする。
人がつくる自然、メディアを介して重なる自己と他者
1階企画展示ゾーン入り口
まずはアート部門受賞作が来場者を迎える。冒頭は大賞作品、anno lab(代表:藤岡定)/西岡美紀/小島佳子/的場寛/堀尾寛太/新美太基/中村優一による『太陽と月の部屋』だ。代表の藤岡が「ひとつの自然をつくり出したような感覚」と振り返る本作は、建築と太陽光によるインタラクティブアート作品で、大分県豊後高田市の「不均質な自然と人の美術館」に常設されている。そのため、本展には現地の記録を交えた作家のインタビュー映像や、建築模型、可動部のマケットをはじめとする多種多様な制作資料・記録を展示し、つくり手の試行錯誤を感じられる展示となった。
関連資料と記録映像を展示した『太陽と月の部屋』
新人賞の平瀬ミキによる『三千年後への投写術』は、誰もがカメラ付きデバイスを持ち電子的に記録を残す今に疑問を投げかける。石の表層にレーザー加工によって微細な凹凸をつくり、そこにわずかな光を照射することで壁面に像を浮かび上がらせる本作は、その体験に完全な暗室を要するため、1階には紹介映像を展示、本展示は7階の一室(コンファレンスルーム水星)を暗室化して行われた。
7階の一室を完全暗室化し展示した『三千年後への投写術』
見えないルールをテーマにしたメディアインスタレーション作品『四角が行く』(石川将也/杉原寛/中路景暁/キャンベル・アルジェンジオ/武井祥平)は優秀賞を受賞。鑑賞者はまず、直方体が動く抽象的な映像を見ることになるが、順路に沿って進むと、一見CGアニメーションのようにも見えた映像は、実はすぐ裏で動いている、とあるルールに則って動く物体を撮影した中継映像であることがわかる。その導線のなかで、さまざまな物事の背後にあるルールについて思考を巡らせる作品である。
『四角が行く』展示風景。CGのような映像は、実はすぐ後ろで撮影されている実写映像だ
その奥の展示室では、海外作家の作品2点が向かい合う。優秀賞受賞のバイオアート作品『mEat me』(Theresa SCHUBERT)は、自身の血液と筋肉細胞から生成した培養肉を食すという研究プロジェクトとそれに基づくパフォーマンス作品。人体を食品として再解釈することで、資本主義的な食肉生産と、それに脅かされない人間の立ち位置に疑問を投げかける挑戦的な本作は、ドキュメンタリーやパフォーマンスの記録映像、作家自身の細胞から生成した培養肉の拡大写真などを展示。
『mEat me』。記録映像では科学実験のような光景が続く
その向かいでは、物理的に乱数を生成する装置『The Transparency of Randomness』(Mathias GARTNER / Vera TOLAZZI)が作動し続ける。展示空間に浮かぶ複数の透明なキューブの中には、さまざまな自然物を用いてつくられた傾斜があり、サイコロがその傾斜を転がることで、乱数を生成する。サイコロの目は随時モニターに表示され、真の無作為性について鑑賞者に思考を促す。鑑賞者はスマートフォンを介して作品内のサイコロが振られるプロセスに介入することで、乱数生成の過程に自ら参加することもできた。
新人賞を受賞した『The Transparency of Randomness』。空間に浮かぶキューブの中でサイコロが振られ、出た目の総和が記録されていく
アート部門エリアの中央、ひらけた空間に位置するのは、山内祥太による優秀賞『あつまるな!やまひょうと森』だ。オンラインゲームでプレイヤーが自在に操るキャラクターが、実は実在する作家(他者)の動きに基づくアバターであるという状況をつくり出した本作。プレイ時間になると、会場に設置されたタブレットをはじめ、オンラインで多方から指示が届く。ゲーム内に登場するキャラクターを模した装いの作家はそれを受け、「バナナを食べる」「叫ぶ」など、指示通りにアクションを展開。時には指示を拒否することもあり、ゲーム画面の向こうに存在する作家(他者)の存在をより一層感じさせた。
『あつまるな!やまひょうと森』。QRコードからアクセスすれば、スマートフォン等のブラウザ上でプレイできる
新人賞の花形槙によるメディアパフォーマンス『Uber Existence』は、L字の壁面を目一杯使い、その独自のサービスをプレゼンテーション。山内の作品がゲームという架空世界を間に挟んでいる一方、花形の作品はより直接的に、他者を自身のアクターとして設定し行動させる「存在代行サービス」だ。本展ではそのサービスの内容やアクターのウエア、実際にアクターを経験した人々の記録映像、コメントなどが展示された。
『Uber Existence』展示風景。会期中には、参加者がユーザーとしてアクターに行動指示を出すワークショップも行われた
10×10m、1階展示ゾーンのなかで一番大きな作品は、優秀賞に選出されたインタラクティブアート作品『Augmented Shadow- Inside』(MOON Joon Yong)。空間に照明が装着されたデバイスをかざすと、空間を囲う高さ6mの壁面に、幾人もの人影が織りなす風景が浮かび上がる。影と鑑賞者、つまりは仮想と現実が互いに見つめ合い、対峙する作品である。
『Augmented Shadow- Inside』。シンプルな構造物だけが並ぶ空間にライトを向けると、そこに人がいるかのような影が
鮮やかなグリーンの展示エリアが目を引くのは、ソーシャル・インパクト賞を受賞した田中浩也研究室+METACITY(代表:青木竜太)による『Bio Sculpture』だ。中央に鎮座するのは、土や籾殻などの自然素材を用いて3Dプリンティングされた彫刻。実際のプロジェクトでは、30m級の3Dプリンタを用いてより大きな彫刻がつくられるが、素材と構造によって、そこには実際のプロジェクトでは、30m級の3Dプリンタを用いてより大きな彫刻を制作し、素材と構造によって、本来はありえないような新たな生態系が自律的に整えられていくことを模索した。
『Bio Sculpture』展示風景。実際に3Dプリンタで出力され、設置された彫刻作品の一部
(information)
第25回文化庁メディア芸術祭受賞作品展
会期:2022年9月16日(金)~26日(月)10:00~17:00
※9月20日(火)は休館
会場:日本科学未来館
サテライト会場:CINEMA Chupki TABATA、池袋HUMAXシネマズ、クロス新宿ビジョン、不均質な自然と人の美術館
入場料:無料
主催:第25回文化庁メディア芸術祭実行委員会
https://j-mediaarts.jp/
※URLは2022年11月30日にリンクを確認済み