「第25回文化庁メディア芸術祭受賞作品展」が2022年9月16日(金)から9月26日(月)にかけて、日本科学未来館を中心に開催された。本稿では、開幕前日の15日(木)に行われた日本科学未来館での報道関係者向けの内覧会をもとに、展示の様子をレポートする。

アニメーション部門の大賞受賞作品『The Fourth Wall』展示風景
以下の会場写真すべて、撮影:小野博史

多様な手法をかき混ぜ躍動するデビュー作が大賞に

アニメーション部門は1階の企画展示ゾーンで紹介された。大賞は、本作がデビュー作となるMahboobeh KALAEEによる短編アニメーション『The Fourth Wall』。家や家族の関係性の創造的な再構築を試みた、実験的でユーモラスな作品。家の台所で撮影したという映像は、現実と仮想のモチーフが、実写とさまざまなアニメーション技法、そして独特のカメラワークによって、ひとつの画面で融合する。本編とメイキング映像を上映。展示ケースには作中に登場するミニチュアサイズの台所の展開図(複製)なども展示され、また、作中さながら床を市松模様にした展示室奥には、チェスの駒も置かれた。

作中と同様、床を市松模様にした『The Fourth Wall』展示風景。ケース内に並ぶ関連資料は、制作過程への興味をそそる

以後4作品は壁沿いにブース展示が続く。優秀賞を受賞した『漁港の肉子ちゃん』制作チーム(代表:明石家さんま/渡辺歩)による『漁港の肉子ちゃん』は、作家西加奈子の同名小説を原作とした、母娘の漁港での暮らしと絆を描いた劇場アニメーション作品。予告編、メイキング映像のほか、絵コンテや設定資料、原作小説などの関連書籍を展示した。

『漁港の肉子ちゃん』展示風景。作品の持つ温かみは絵コンテにも

新人賞の矢野ほなみによる『骨噛み』は、火葬後の骨を噛むという独特の風習と自身の体験を基にした短編アニメーション。複製原画の後ろに光を仕込んだ展示手法は撮影手法に基づいている。幼少期のおぼろげな記憶を視覚的に表現するため、ペンで描いた点描に、後ろから光を当て撮影したという。ケース内には点描のテストピースなど、本作ならではの関連資料が並んだ。

複製原画に後ろから光を当てた、『骨噛み』展示風景

同じく新人賞の『Yallah!』(Nayla NASSAR / Edouard PITULA / Renaud DE SAINT ALBIN / Cécile ADANT / Anais SASSATELLI)は、1982年、内戦下のベイルートを舞台にした短編CGアニメーションだ。荒廃した街を、若くまっすぐな主人公と、その心情を表すかのような瑞々しい色彩が彩る。背景画やその下描きとともに、2編のメイキング映像が展示された。

『Yallah!』展示風景

夏目真悟による優秀賞『Sonny Boy』は、ある日突然学校ごと謎の漂流状態に陥りながらも、その状況に対峙する中学生たちを描いたテレビアニメーション作品。その独特な世界観のキーとなった背景美術や、江口寿史によるキャラクター原案のほか、予告編やメイキング映像、ケース内には原画がところせましと山積みに展示された。

『Sonny Boy』展示風景。左に背景美術、右にキャラクター資料が並び、ケース内には原画が

ブース展示の向かいにも、優秀賞受賞作2作品を展示。『幾多の北』は、山村浩二による、複数の光景が紡がれていく長編劇場アニメーション作品。壁面に展示されたのは、各場面の基となった、月刊誌「文學界」表紙を飾った作者自身のイラスト原画。縦構図の原画は、アニメーション部門の展示としては新鮮に映る。ケース内にも原画が複数展示され、予告編とメイキング映像を上映した。

『幾多の北』展示風景。壁面に並ぶのは月刊誌「文學界」表紙を飾ったイラスト原画

ホロコーストを生き抜いた老人が語る記憶と、それを受け止め思いを巡らせる少女の内面を描く短編アニメーションドキュメンタリー『Letter to a Pig』(Tal KANTOR)も優秀賞を受賞。実写とドローイングが同一画面上で融合するような独特の技法を用いて、それぞれの境界が揺れ動く様を表現した。予告編、メイキング映像、手作業の跡が残る原画などを展示。

アナログ作業の痕跡が作品にも効果的に表れる『Letter to a Pig』

アニメーション部門の最後には、動物をモチーフにしたキャラクターが魅力的な2作品が並ぶ。無口で偏屈なタクシー運転手を主人公にミステリードラマが展開するテレビアニメーション『オッドタクシー』(此元和津也/木下麦)は新人賞を受賞。視聴者は、擬人化された個性豊かな動物たちを本作の登場人物として追うことになる。予告編とPV映像、各キャラクターの全身イラストや相関図のほか、台本やコミカライズ版、Blu-rayなど多様な関連資料が展示された。

『オッドタクシー』展示風景。キャラクターイラストや台本などが並ぶ

羊毛フェルト製の愛らしいキャラクターの実際の制作で使用したパペットが展示されたのは、ソーシャル・インパクト賞を受賞したストップモーションによるテレビアニメーション『PUI PUI モルカー』(見里朝希)だ。モルモットが車になった「モルカー」たちが人間とともに街で暮らす不思議な世界観が、幅広い層に支持されている。本編のほか、テレビ版・新シリーズ先行上映版の予告編も上映された。

実際に撮影に使われたモルカーのパペットたちも並んだ、『PUI PUI モルカー』展示風景

なお、展示ゾーンでは予告編やメイキング映像の上映となったエンターテインメント部門、アニメーション部門の映像作品の多くは、本編は同館7階イノベーションホール、池袋HUMAXシネマズ、CINEMA Chupki TABATAを会場とした上映会で視聴できるかたちとなり、上映会のラインナップには審査委員会推薦作品も含まれた。


(information)
第25回文化庁メディア芸術祭受賞作品展
会期:2022年9月16日(金)~26日(月)10:00~17:00
   ※9月20日(火)は休館
会場:日本科学未来館
サテライト会場:CINEMA Chupki TABATA、池袋HUMAXシネマズ、クロス新宿ビジョン、不均質な自然と人の美術館
入場料:無料
主催:第25回文化庁メディア芸術祭実行委員会
https://j-mediaarts.jp/

※URLは2022年11月30日にリンクを確認済み