日本におけるテレビゲームとボードゲームの関係はいささか複雑だ。しかし、共に海外発祥の遊びが日本に輸入され、独自に進化した経緯がある。1970年代にはボードSLG、1980年代にはテーブルトークRPG、1990年代にはトレーディングカードゲームが輸入され、そこから国産品が登場して市場を広げた。愛好家の中にはテレビゲーム開発者になる者もあり、様々な要素がテレビゲームに取り入れられたが、関係は限定的だった。

 こうした状況に一石を投じたのが2002年のカプコンによる「カタンの開拓者たち」の発売だ。1995年にドイツで発売されたボードゲームの日本語版で、無人島を複数の入植者が開拓していき、もっとも繁栄したプレイヤーが勝利する内容。ゲームの完成度もさることながら、テレビゲームの大手企業が大々的にマーケティングした点で話題を集めた。日本では「カタン」でボードゲームを遊び始めた層も少なくないだろう。

カプコン版「カタン」はテレビゲーム開発者にも二つの知見を与えた。ドイツゲームの存在と、ボードゲームがゲームデザインの勉強になるという点である。「カタン」以後、ボードゲームのコミュニティがゲーム業界でも数多く誕生し、中には勉強会の題材に利用する例も見られるようになった。しかし両者は似て非なる物でもあり、多くの開発者が「ただ遊ぶだけでなく、業務に活かせる知見」を模索しているのが現状だ。

こうした中、ドイツゲーム30周年を記念して出版された『BOARD GAME GUIDE 500』(スモール出版)は、両者を繋ぐユニークな存在になりそうだ。本書では1983年に発売された「スコットランドヤード」を記念碑的なタイトルと位置づけ、そこから今日に至るまでの名作500タイトルをジャンル別に紹介。中でも1980年代から2010年代に至るドイツゲームの系譜は興味深く、様々な発見があるだろう。

著者は東京・三鷹でボードゲーム専門店「テンデイズゲーム」を営む田中誠氏。趣味が高じてネットショップを開業し、実店舗を持つに至った。本書掲載のゲームも、すべて田中氏が実際にプレーし、太鼓判を押したものばかり。なにより、これだけ大量のボードゲームが存在することに、読者はまず驚かされるのではないか。巻末のインタビューでは、クリエイターではなく流通主体で市場が形成されていった点も窺える。

ちなみに1983年は任天堂からファミリーコンピュータが発売された年で、偶然とはいえ興味深い。また「スコットランドヤード」は一人の怪盗対複数人の探偵という「非対称の関係性」をベースにデザインされており、Wii Uにも同じアイディアが見られる。これ以外にも「テーマが多彩」「家族で遊べる」「シンプルで奥が深い」というドイツゲームの特徴は、多くのテレビゲーム開発者にとって格好のテキストとなるはずだ。

なお、本書では海外(主にアメリカ)で製作されたタイトルも、ドイツで発売された場合は紹介されている。そのため、うっかりすると「マジック:ザ・ギャザリング」も「ドミニオン」もドイツゲームと誤解しがちなので、注意が必要だ。むしろポイントは、これらがドイツのボードゲームに影響を与えてきたこと。その一方でドイツゲームの国際化が進み、新たに「ユーロゲーム」という概念が育ちつつあるという指摘にある。

テレビゲームと異なり、ボードゲームは古びることがなく、商品寿命も長い。国内でも「スコットランドヤード」をはじめ、数々の名作ゲームが容易に入手できる環境が、次第に整ってきた。一方で近年ではスマートフォンやタブレットにボードゲームが移植され、さらなる進化も期待されている。ドイツゲームの手軽な入門書として、またテレビゲームとボードゲームの関係性を探究する資料として、様々な読み方ができる1冊だ。

『BOARD GAME GUIDE 500』

著者:田中誠(テンデイズゲームズ)

出版社:スモール出版

出版社サイト

http://www.small-light.com/books/lineup.html