株式会社ディー・エヌ・エーが主催するゲームクリエイター向けセミナー「Game Developer's Meeting」の第6回が渋谷ヒカリエの同社セミナールームで11月29日に開催され、『クロックタワー』『鉄騎』『Night Cry』などを手がけた河野一二三氏が登壇。「『理想のディレクションの探し方』〜ゲームを監督するということ〜」と題して、ディレクター職の成立過程と必要なスキルについて解説した。
1969年生まれで、スーパーファミコン後期にヒューマン入社後、『ヒューマングランプリ』で事実上のディレクターデビューをはたした河野氏。もっとも、当時は社内でディレクター職が確立されておらず、開発はチームの合議制で進んでいた。新人だった河野氏は開発中のゲームを自分のビジョンに近づけるため、「ひたすら頭を下げ続けた」という。
その後PlayStation時代に入ると、業界内でディレクター職が確立し始めた。河野氏も代表作の『クロックタワー』シリーズをリリース。社内でも『トワイライトシンドローム』『爆走デコトラ伝説』など、ディレクターの個性を活かしたヒット作が産まれた。しかし河野氏は「ディレクターの権限と責任」や、「自分のやり方が本当に正しいのか」について、暗中模索の部分もあったとあかした。
転機となったのは独立後、カプコンで『鉄騎』のディレクションを担当したときだ。業界的にもプロデューサー職とプロジェクトマネージャー職が新設され、大型開発が可能な陣容が整った。新しい環境に身を置いた河野氏は、そこでこれまでのやり方が間違っていなかったことに、自信を深めたという。
河野氏が実践していた手法とは、チーム全員の席を回って声をかけ、一人30分ずつ雑談を交えながら制作状況を確認し、その場で指示を出していくことだ。コンセプトとのずれや、クリエイターが抱える不満を早期に発見できるため、効率が良いとした。また先を見こして早めに対策を講じておくことや、成果物の品質が高かったときは、本気で喜んでみせたほうが良いとも語った。
優れたディレクターの条件として「コンセプトからブレない」点も強調された。実際、『鉄騎』では最後まで最初の仕様書どおりに開発が進み、現場から喜ばれたという。もっとも河野氏は外様のディレクターで、最初は現場から反発もあった。しかし、そこは仕事を通して信頼関係を構築していった。「コンセプトに沿った指示をきちんとすれば、素直にいてもらえるのが優れたクリエイター。現場が優秀で助けられた」(河野氏)
最後に河野氏はディレクターに必要なスキルを次のように整理した。「コンセプトにもとづいて作品を導く力」「全体を俯瞰する力」「未来想定能力」「叩かれる力」だ。ディレクターはプロジェクトが残念な結果に終わったとき時、周囲からの非難を一手に引き受けるだけの覚悟が必要で、だからこそ開発中は現場に指示出しができるという。「非常に孤独な職業」とあかした。
「現在のゲーム開発は多様化が進んでおり、ディレクターのあり方を一つに規定できない」と分析する河野氏。これまでの話の中で、自分の環境にあった部分を抜き出し、参考にして欲しいと語った。その上で「ディレクターになるには、巡り合わせもある。チャンスがあれば、多少無理をしてでも活かした方がいい」と補足。参加者に「ぜひヒット作を産みだして楽しませて欲しい」と呼びかけた。