テレビゲームは誕生以来、人間の「遊び相手」として発達してきた。今でも大半のテレビゲームが、まず一人で遊べることを念頭に開発されている。すなわちテレビゲームの進化は「人工知能(ゲームAI)」の進化とも言えるだろう。しかし、ゲーム開発者はそれまで(少なくとも国内では)、「自分たちはゲーム(遊具)を作っているのであり、人工知能を作っているのではない。すなわち知性について考える必要はない」と考えてきたのではないだろうか。

この風潮に対して、「その考え方はわかるが、それではこれ以上、先に進めない」と警鐘を鳴らしているのが本書『人工知能の作り方-「おもしろい」ゲームAIはいかにして動くのか』(技術評論社)[http://gihyo.jp/book/2017/978-4-7741-8627-6]だ。著者の三宅陽一郎氏はゲーム開発者として数々の大作RPG開発にたずさわるかたわら、日本デジタルゲーム学会理事や国際ゲーム開発者協会日本の専門部会長などで活動し、人工知能に関する知見の収集と共有に長年つとめてきた。

本書は自然知能と人工知能の問いかけからはじまり、AIとゲームAIの歴史や、ゲームAIの現状、そしてゲームAIの中核ともいえる、意思決定をつかさどる7種類のアルゴリズムの解説へと進んでいく。このほか知能・身体・外界という3つのレイヤーの関係性や、AIによる学習といった、人工知能にまつわるさまざまな最新トピックの紹介も行われている。ゲームにおける応用事例が数多く掲載されている点も特徴だ。

もっとも、本書で一貫して主張されているのは「人間は知能の片鱗を掴んだ程度にすぎない」という姿勢だ。大前提として人間は、まだ知能を定義できない。つまり人工知能の開発は「定義できないものを作る」ことにつながる。にもかかわらず、エンジニアは商品開発を通して人工知能を開発する。そして、開発を通して知能の探索を進めていく。つまりゲームを作ることは、知能について知ることに繋がるというわけだ。

とはいえ、ゲームAIの開発と知能の探究が、直感的に結びつかないゲーム開発者も多いだろう。なぜゲーム作りで、そこまで大上段に構えなければならないのか。それは冒頭にも記したとおり、ゲーム作りは「究極の遊び相手作り」だからだ。しかもゲームには仮想とはいえ、現実世界と同じく「世界」と「生物(キャラクター)」が存在する。知能のシミュレーションには最適な環境が揃っているのだ。

つまり本書はゲームAIを実装するプログラマーだけでなく、ゲームデザインを行うゲームデザイナー向けの書籍でもある。数式やコードは一切登場せず、できるだけ平易な説明が心がけられており、ゲームAIの入門書には最適だろう。優れたゲームデザインには人間探求が必要だ。であるなら、ゲームAIの開発にも知識の探索が必要なはずだ。その意味について、本書を通して考察して欲しい。

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