平成24年度に完全実施となった新学習指導要綱で必修となったプログラミング教育。中学校の技術家庭科で授業が行われているが、教師も教育現場も手探り状態なのが現状だ。こうした中、本書『MOONBlockでつくるゲームプログラミング』(誠文堂新光社)は、小学生向けに書かれたプログラミング入門書として異彩を放っている。

MOONBlock」はユビキタスエンターテインメントが開発したプログラミング・トイで、同社が開発したHTML5 + JavaScriptフレームワーク「enchant.js」をベースとしている。小学生でもわかるように基本的な命令がユニット化されており、画面上でブロックを組むようにしてプログラムしていく点が特徴だ。マスコットキャラクターで白熊のエンちゃんをはじめ、すぐに使用できるビジュアル素材などもふんだんに用意されている。インターネット環境があればブラウザだけでプログラムでき、余計なソフトをインストールしなくて済む点も、教育環境で使用しやすい。

著者の布留川英一氏はドワンゴで携帯アプリの研究開発に携わった後、2005年より同社に移籍し、タブレット端末「enchantMOON」の開発に参加。業務のかたわら本書を執筆した。本書の姉妹書で、小学生向けの「enchant.js」解説書、『勇者と冒険するゲームプログラミングの世界』(誠文堂新光社、2008年)をはじめ、様々なプログラム入門書も上梓している。

この手の書籍の定石としてソースコードが満載だが、すべてブロックなので目に優しい。文字が大きく、難しい漢字にはルビがふられており、カラー写真やイラストもふんだんに用いられている。プログラム初心者が解説書を開いたときに感じる威圧感が、ほとんど感じられないのだ。サンプルもバラエティ豊かで、リンゴを集めるタイムを競ったり、落下する爆弾をよけ続けたり、レースゲームにジャンプアクションと、タイプが異なるゲームが10種類用意されている。変数や条件分岐といった概念もコラムに盛り込んだ。

本書のわかりやすさは、ギネスブックにも掲載された世界最大のゲーム開発イベント、グローバルゲームジャム2014でも証明済みだ。小学3年生の参加者が本書を片手にゲーム作りに挑戦し、一人でシューティングゲームを作り上げたのだ。ゲームは公式サイトにアップロードされており、誰でもプレイできる。

1980年代のホビーパソコン全盛期、筆者を含むパソコン少年たちは雑誌を片手にゲームプログラムを打ち込み、自然とプログラミング言語を習得していった。いまゲーム開発の最前線を支えているのが、こうした世代だ。しかしIT技術の進化で逆に、こうした子供向けプログラミング環境が失われつつあるのは皮肉な話だ。本書を通してプログラミングの楽しさを一人でも多くの子供たちに知ってもらいたい。

『MOONBlockでつくるゲームプログラミング』

著:布留川英一、出版社:誠文堂新光社

出版社特設サイト

http://www.seibundo-shinkosha.net/pickup/moonblock/