欧米に比べて日本ではゲーム開発技術に関する書籍の層が薄く、中でもゲームデザイン分野に関する研究と体系化が遅れている。こうした中で出版された『遠藤雅伸のゲームデザイン講義実況中継』は、ベテランゲーム開発者が知見を惜しみなく提示した、業界待望の一冊となっている。
本書は株式会社モバイル&ゲームスタジオ取締役会長の遠藤雅伸氏による、社内セミナーの講演録をもとに編纂されたものだ。遠藤氏は元ナムコで『ゼビウス』を筆頭に数々の業務用テレビゲーム開発に携わり、1985年に独立した後は『ファミリーサーキット』など家庭用テレビゲームの開発に進出。近年ではモバイルゲームやソーシャルゲームの開発もおこなうなど、数多くのプラットフォームでゲームを開発している、ゲーム業界でも非常に珍しいクリエイターだ。日本デジタルゲーム学会理事をはじめ、学術界でも精力的に活動している。
本書で驚かされるのは、ゲームデザインに関する幅広い網羅ぶりだ。ゲームデザインの解説書は家庭用ゲームに限定されやすいが、本書はアナログゲームからはじまって、業務用から家庭用、さらには近年流行中のソーシャルゲームまで、ゲームデザインのポイントがわかりやすく解説されている。特にアナログゲームの要素をテレビゲーム開発に生かしたいと考えるゲームデザイナーは必読だろう。一部の章では、解説をもとにワークショップの内容も紹介されており、学校や企業などで活用しやすい点もポイントだ。
なお遠藤氏は2010年5月から始まった文化庁メディア芸術デジタルアーカイブ事業および文化庁メディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業でゲーム分野会議にも出席している。巻末にはゲームアーカイブをめぐる現状や、遠藤氏の考えなども簡潔にまとめられている。多くの人に手にとっていただくとともに、さらに多くの類書の出版を期待したい。
『遠藤雅伸のゲームデザイン講義実況中継』
著者:株式会社モバイル&ゲームスタジオ
出版社:ソフトバンク クリエイティブ
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