ゲーム開発初心者向けの技術書と言えば、プログラミングやゲームエンジンの入門書が定番だ。しかし、本書『ゲームを動かす技術と発想』(ソフトバンククリエイティブ、2012年)は、ありそうでなかった「ゲームが動く仕組み」に重点が置かれた、技術的読み物とでもいうべき、ユニークな内容になっている。
本書では近年の据え置き型家庭用ゲームの主流である「3Dアクションゲーム」を題材に、ゲーム機の仕組みや、3Dグラフィックスで必要な数学、ポリゴンからシェーダ-に至るまでの絵作り、物理学の基礎などが、ゲーム開発者の視点で、わかりやすく解説されている。著者の堂前嘉樹氏はバンダイナムコスタジオで『鉄拳』シリーズなどの開発に携わった現役プログラマーだ。
最大の特徴は「ゲーム専用機上で動作する」点に特化している点にある。ゲーム専用機は汎用性が求められるPCと異なり、できるだけ安いコストで、できるだけリッチなゲームが遊べるように、設計上の工夫がこらされている。CPUやGPUは高速だが、メモリは少なく、ハードディスクの活用もあまり考慮されていない。一言でいえば「いびつな」設計なのである。この特性をいかに味方につけるかが、ゲーム作りのキモとなる。
そのため本書では、項目ごとに一般的な説明と、高速化や最適化のための処理がセットで解説されている。例えばキャラクターアニメーションでは、3体のキャラクターが登場する10秒間のアニメーションには420メガバイトのデータ量が必要とされるが(これだけでゲーム専用機のメモリをオーバーしてしまう!)、工夫次第で3メガバイトと、140分の1にまで減らせる、といった具合である。
プログラマー向けの内容だが、文字が大きく、図版がふんだんに使用されており、プログラムコードもない。そのためゲームデザイナーやアーティストなど、様々な職種にお勧めできる。ゲーム開発者やゲーム業界志望者なら読んでおきたい「技術的教養書」だろう。こうした内容の書籍が、より充実することを期待したい。
『ゲームを動かす技術と発想』
著:堂前嘉樹、出版:ソフトバンククリエイティブ
出版社サイト