ロシアの映画専門学術誌「映画学紀要Киноведческие записки」の最新号に、アニメーション作家ユーリー・ノルシュテイン氏に関連する記事が掲載されている。

「映画学紀要」は映画作家のセルゲイ・エイゼンシュテインの研究を行うエイゼンシュテイン・センターが母体となって、年1〜6回の不定期で発行されている。エイゼンシュテインに関する最新の研究や映画に関する特定のトピックを中心とした特集がその主な内容となっており、特集記事としてアニメーションを取り上げることも多い。これまでにも、ソ連の国営スタジオであるソユズムリトフィルム(連邦動画スタジオ)において1960年代から活躍しソヴィエト・アニメーションのニューウェーブの主導者となったフョードル・ヒトルーク氏(73号)や、ソユズムリトフィルム(80号)などが巻頭特集となっている。
ノルシュテイン氏が熱烈なエイゼンシュテインの理論書の読者であるというのは有名な話だが、同誌では、アニメーションに関連する記事はなくとも、ノルシュテイン氏関連のビジュアルが表紙となることもある(たとえば、日本映画特集の際にオムニバス長編アニメーション『冬の日』(2003)のノルシュテイン氏担当のパートが用いられるなどしている)。

1988年に創刊した「映画学紀要」誌は、2012年10月発行の最新号で100号を迎えた(ナンバリングでは100/101号)。その記念として、ノルシュテイン氏がエイゼンシュテインの『イワン雷帝』について行った講演を収録したDVDが付録として付いている。ノルシュテイン氏によるこの講演は、2004年のラピュタ・アニメーション・フェスティバルで来日した際に行ったものであり、日本では、記録映像がこれまで同フェスティバルなどで何度か上映されている。また、2012年11月21日から12月9日にかけて、「ユーリー・ノルシュテイン、エイゼンシュテインの『イワン雷帝』を語る」というタイトルで、アート・アニメーションのちいさな学校劇場で公開される予定となっている。

ノルシュテイン氏関連の情報としては、2012年10月29日から11月6日までモスクワで開催されたアニメーション大フェスティバルについても触れておきたい。ノルシュテイン氏はそこで「アニメーションにおける音」という題目で講演を行った。故エマニュエーレ・ジャニーニ氏と故ジュリオ・ルザッティ氏が共同で監督した『泥棒かささぎ』(1964)やエドゥアルド・ナザーロフ氏の『アリの冒険』(1983)といった著名な作品や、『ケルジェネツの戦い』(1971)、『狐と兎』(1973)、『霧のなかのハリネズミ』(1975)といったノルシュテイン氏自身の作品(『ケルジェネツの戦い』のみ故イワン・イワノフ=ワノ氏との共同監督)を具体的な例として取り上げながら、エイゼンシュテインの有名な論文「垂直のモンタージュ」――映画における映像と音の組み合わせについての理論――をノルシュテイン氏独自のやり方で適用していく内容となっており、会場はアニメーション制作を志す若い学生たちで溢れかえった。

「映画学紀要」ホームページ(ロシア語)
http://www.kinozapiski.ru/

「アニメーション大フェスティバル」ホームページ(ロシア語)
http://www.multfest.ru/