「おしい!広島県」。2012年3月27日に池袋サンシャインシティで開催された記者会見の模様は瞬く間に全国に広がり、様々な波及効果をもたらした。現在も観光キャンペーンをはじめとした、様々な「おしい!プロジェクト」が進行中だ。
本書『おしい!広島県の作り方〜広島県庁の戦略的公報とは何か?〜』は、仕掛け人が自ら、「おしい!プロジェクト」の舞台裏を明らかにした貴重な一冊だ。著書は広島県庁チーフ・マーケティング・オフィサーなどを務める樫野孝人氏で、リクルートを皮切りに数々の事業に参画。2011年5月に広島県の湯崎英彦知事の要請で広島県広報総括官に就任した。
ホームページの刷新、ツイッターなどソーシャルメディアの積極的な活用、成果広報の取り組みなど、本書では「戦略的広報」に基づく、数多くの事例が紹介されている。広島県呉市をモデルに制作され、2014年4月に劇場公開されたアニメ映画『ももへの手紙』で観光タイアップも推進した。特にAKB48の総選挙にヒントに実施された、広島県庁15体の「ゆるキャラ」総選挙は、多くの自治体で参考になるだろう。
一方で行政マンは総じて優秀だが、発想力に乏しいと指摘する。そのため「日本全国で地域おこしと称して、B級グルメ、ゆるキャラ、マンガ、アニメなど、どこも似たような分野に力を入れている」と手厳しい。行政の自己目的化に陥っている点に警鐘を発している。
実は「おしい!広島県」の発表前に、「香川県がうどん県に改名」というニュースが全国を震撼させた。Googleでヒット数を比較すると、「うどん県」が5,480万ヒットに対して、「おしい!広島県」は73万8千ヒットと、その差は歴然(2013年2月9日現在)。この点でも「惜しい」のである。前例主義を脱して、いかに新規分野に挑戦するか、その重要性が示されている。
産官学連携による地域活性化が叫ばれて久しい。メディア芸術もその渦中にある。しかし、安易な前例主義に陥っていないか、改めて振り返る必要がある。本書はそのための必読書だろう。
おしい!広島県の作り方〜広島県庁の戦略的公報とは何か?〜
http://www.canaria-book.com/html/book/book_2013.html#240