日本のメディア芸術を海外のそれと区別するキーワードがあるとすれば「かわいい」だろう。世界の若者が「カワイイ」という言葉を使うとき、そこには自ずと「日本的な」「東京的な」という意味合いが含まれている。中でも視覚的な「かわいらしさ」は、アニメやゲームといった媒体を通して、世界中に拡散されている。
では、この「視覚的なかわいらしさ」、すなわち「かわいい絵」という表現様式は、我が国において、いつごろ成立したのだろうか。府中美術館で2013年3月9日から5月6日まで開催中の企画展「かわいい江戸絵画」は、この日本人の「心の表現」に鋭く切り込んでいる。
人が何かを見て「かわいい」と思う。しかし、それを絵として表現し、観覧者に感情を想起させることは、また別の話である。本展覧会では日本画の展覧を通して、初めに感情面から、続いて形状面から、絵を見て「かわいいと感じる理由」を分析する。そして円山応挙の子犬、歌川国芳の猫などをはじめ、日常的に「かわいい絵」が描かれるようになった江戸期の代表作を紹介する。現代人の私たちからすると、本展覧会は「かわいい絵」と「かわいくない絵」の境界を問いかけているようにも感じられる。
本展覧会のもう一つの魅力は、日本画の持つ自由さ、のびやかさを実感できる点だ。一般的に日本画は屏風図、美人絵など、紋切り型で捉えられがちだ。しかし、会場の作品はマンガ的な表現や、デザイン的なおもしろさ、動物の擬人化など、バリエーションに富んでいる。七福神などの神様も、キャラクター的な扱いに感じられるほどだ。こうした「技法の成熟」と「自由な精神」が我が国特有のメディア芸術の礎となっているのではないだろうか。
メディア芸術の創作者・研究者であれば、私たちが慣れ親しんでいる表現様式の源流が辿れる本展覧会は必見だろう。前期・後期で作品の展示替えが行われ、2回目の来館が半額になるサービスもある。図録の解説も充実しており、一読をお勧めしたい。
かわいい江戸絵画
http://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/kikakuten/kikakuitiran/kawaiiedo/index.html