2013年10月19日、東京国際映画祭(10月17日より25日まで開催)内の特別上映プログラム「日本アニメーションの先駆者(パイオニア)たち〜デジタル復元された名作」にて、政岡憲三氏(1898-1988)の『くもとちゅうりっぷ』(1943年)と大藤信郎氏(1900-61)の『くじら』(1953年)、『幽霊船』(1956年)の3作品のデジタル修復版が初上映される。
東京国立近代美術館フィルムセンターでは、近年、松本俊夫氏の『銀輪』(1956年)をはじめとして、日本映画史において価値ある貴重な作品について、現存するフィルムを用いたデジタル復元作業(傷やホコリ、フォーカスのボケなどをデジタル技術で修復するもの)を経たうえでの新たなフィルムプリントの作成を行っている。今回の3作品は、その一環として復元されたものである。
大藤氏の作品については、2013年7月、第1作の『のろまな爺』(1924年)と未完の作品『竹取物語』(1961年)の2作のプリントが新たに発見されたことで話題になったが、今回の上映プログラムでは、発見および収蔵先の神戸映画資料館の協力のもと、この2作品も上映される。
また、当日のトークゲストとして、アニメーション作家の山村浩二氏が招かれる。2010年に東京国立近代美術館フィルムセンターにて開催された「アニメーションの先駆者 大藤信郎」展では、当時まだフィルムが発見されていなかった『竹取物語』をセル画に基づいて動画化したものが展示上映されたが、山村氏は、その映像を監修したという縁がある。
大藤信郎氏は日本のアニメーション史における個人作家の先駆的存在で、今回上映される『くじら』『幽霊船』など1950年代に制作された作品は、カンヌやベネチアといった海外の大きな映画祭で上映され、高い評価を得ていた。また、死後の1962年には、遺族の意向のもと、毎日映画コンクール内に氏の名前を冠した賞(先鋭的なアニメーション表現へと与えられる大藤信郎賞)が創設され、現在まで続いている。
ただし、生前の大藤氏の作品は、当時の日本国内のメインストリームのアニメーションと比べると手法およびテーマ、アプローチといった点で大きく異なっていたこと、また、1960年に久里洋二氏、柳原良平氏、故・真鍋博氏の三人が「アニメーション三人の会」を結成したことをきっかけとする個人作家によるアニメーション制作のブームとも時期が合わなかったことなどから、国内ではあまり高く評価されてこなかったという歴史がある。2010年の「アニメーションの先駆者 大藤信郎」展はそんな大藤の再評価に大きな役割を果たしたが、今回の上映プログラムは、フィルムの発見など新たなアップデートを経たうえで、再度、大藤作品を評価するためのきっかけを与えてくれるようなものとなるだろう。
東京国際映画祭内の「日本アニメーションの先駆者(パイオニア)たち〜デジタル復元された名作」公式ホームページ