ゲーム業界の解説書は数多く出版されているが、ソーシャルゲーム業界に特化した書籍は、これまであるようでなかった(または扇情的なだけで内容が伴っていなかった)。そんな中で本書『あなたはなぜパズドラにハマったのか? ソーシャルゲームの作り手が明かす舞台裏』は、数少ない例外だ。

著者の鈴屋二代目氏は、大手ゲーム会社でアーケードゲーム開発を経てモバイルゲーム開発にたずさわり、現在はフリーのゲームデザイナーとして活躍している、バリバリの現役ソーシャルゲーム開発者。他に業界アナリストやスマホ向けゲームのディレクターが監修につくなど、「外部の事情通」による内容とは一線を画している。

中でも1999年のiモード登場から現在までのモバイルゲームの歴史は、ゲーム業界をめざす学生や若手のゲームデザイナーなら、必ず抑えてほしい内容だ。モバイルソーシャルゲームは過去15年で大きく「公式サイト時代」「モバ・グリ時代(フィーチャーフォン時代)」「スマホのネイティブアプリ時代」という進化を遂げ、それぞれの時代でヒットタイトルを生み出してきた。未来のゲームを企画する上で、こうした歴史を振り返ることは、決して無駄ではないだろう。

後半のソーシャルゲームの開発や運用についての記述も興味深い。学生や業界人に向けたゲーム開発技術の解説書はこれまで数多く存在したが、ソーシャルゲームに焦点をあてた書籍はあるようでなかった。スタンドアローンのゲームと異なりサーバインフラが必要になるため、アマチュアが作って運営することが困難だからだ。そのため技術解説書の需要が乏しく、「ソーシャルゲームは運営が重要」と頭では理解していても、どこかもやっとした説明で満足するしかなかった。こうした中で本書は、とりあえず押さえたいポイントがうまく整理されている。

もっとも、本書がフォローしていない部分もある。それが未来のソーシャルゲーム像だ。ウェブアプリからネイティブアプリへの移行に伴い、ゲーム会社はこぞって「ゲームらしいゲーム」に「パズドラ」的な薄いソーシャル要素を加えようとしている。しかし肝心の企画力が乏しく、パズルやクイズなど昔、流行ったジャンルを引っ張り出しているのが現状だ。答えは一つではなく、まだまだ鉱脈は眠っている。F2P(基本プレイ無料のアイテム課金モデル)が主流になっていくと言われる中、ぜひこれからの若手ゲームデザイナーに答えを期待したい。

業界人以外の読者をターゲットにしているだけあって、内容も非常に平易だ。ソーシャルゲームをキャバクラにたとえるなど、あえて一般人の興味を惹くような下世話な記述も端々に見られるが、これは表層的な部分にすぎない。そもそも日本においてはモバイルソーシャルゲーム市場が家庭用ゲーム市場を上回ったにもかかわらず、業界の仕組みを知る上での文献や資料が少なすぎるのだ。数時間あれば読了できるため、就職&転職活動中の人はぜひチェックされることをオススメする。

『あなたはなぜパズドラにハマったのか?――ソーシャルゲームの作り手が明かす舞台裏』
著:鈴屋二代目、監修:井原渉、斉藤大樹、出版社:双葉社
出版社サイト
http://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-30723-8.html