「新しい革袋には新しい酒」の故事通り、新たなメディアの登場で新しい才能が開花する。その最前線にいる一人が、ユーチューバーとして知られる「マックスむらい」こと村井智健氏だ。スマホゲーム「パズル&ドラゴンズ」などのプレイ動画で、10代のゲーマーから絶大な人気を集めている。
その村井氏の自伝『マックスむらい、村井智健を語る』がこのたび上梓された。内容は三部構成で、石川県奥能登の牧場で生まれ育った幼少時代から、下宿生として合唱部の活動などに熱中した中高生時代、上京後にIT業界で全力疾走を続けた20代と、その半生が簡潔にまとめられている。
AppBank株式会社の代表取締役CEOという実業家としての顔と、スマホゲームの伝道師という二つの顔を併せ持つ村井氏。どちらも生半可な体力と情熱では務まらない激務だ(特にゲームはプレイするだけで時間がかかる、経営者にとっては頭痛の種だろう)。しかし本書を読むと、その人生そのものが「思い込んだら全力疾走」だということがわかり、腑に落ちた。
修学旅行先のハウステンボスでは、高校生ながら小説の題材になったフレンチレストランに突撃。ITベンチャーでは睡眠時間が1-2時間という激務をこなしつつ、執行役員として上場に貢献。その合間に退職を繰り返し、20歳でアメリカ一周の貧乏旅行も体験するなど、破天荒なエピソードには事欠かない。その一方で難関として知られる防衛大学校に入学後、3ヶ月で自主退学するなど、人生をスパッと選択する潔さも併せ持っている。
中でも第三章のITバブルに沸くインターネット業界の描写は、自分の仕事とも絡んで興味深かった。筆者は2000年に出版社を退社後、再就職せずにフリーライターとなった。社会がITバブルに沸く一方で、紙からウェブへの移行に苦しむ出版、そして編集業と距離を取りたかったからだ。要するに仕事に疲れたわけだ。
その一方で村井氏は偶然、このITバブルのまっただ中に飛び込むと、PC向けコミュニティサイトからケータイ向け占いコンテンツ、そしてiPhone、Youtubeと、寄せては返す新しい波に乗って成長を続けていく。そこには「次の波を察知すること」「波がもたらす変化を理解すること」「脇目も振らずに働くこと」という共通した姿勢が見られる。働くことがアイデンティティという、ベンチャー起業家に共通して見られるスタイルだ。
昨今では「マックスむらい」に憧れる中高生も少なくないと言う。しかし、動画チャンネルでゲームの実況配信を行うだけでは、マックスむらいにはなれない。幸いなことに技術の波は次から次へと訪れ、新しい革袋を作り出していく。この本を読んで、それでもマックスむらいになりたければ、新しい波を探して、そこに自分を投じることだ。その重要性を本書は示している。
『マックスむらい、村井智健を語る』
著:マックスむらい、構成・文:倉西誠一
出版社:KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
出版社サイト
http://weekly.ascii.jp/maxmurai/