NPO法人国際ゲーム開発社協会日本(IGDA日本)は2015年9月30日、モバイルゲーム会社の開発・運営を手がけるDonuts(東京都渋谷区)で連続セミナー「人工知能のための哲学塾 第一夜」を開催した。

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会場風景

セミナーはSIG-AI(人工知能専門部会)正世話人の三宅陽一郎氏(スクウェア・エニックス)による「フッサールの現象学」の解説をベースに行われた。セミナーにはゲーム開発者、学術関係者、ITエンジニアなど約40名が参加し、多角的な議論が行われた。

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三宅陽一郎氏(スクウェア・エニックス)

【機械論的世界観から現象学へ】

将棋界におけるプロ棋士と人工知能の対戦イベントをはじめ、人工知能(AI)に関する社会的注目が集まっている。ゲーム業界でもゲーム機の性能向上と共に、より高度なゲームAIが実装可能になってきた。一方でこれらの議論は工学的アプローチが中心で、ゲームキャラクターがもつべき「主観的世界」については、おざなりにされてきた。そこで本セミナーは、ゲームAIを哲学的な視点から捉え直すことで、より高度なAIを開発する基礎にすると共に、広くAIに関する問題提起と議論の活性化をめざして実施されている。

セミナーは全6回で構成され、今回は5月に開催された第零夜に続く第2回。テーマにあげられたのが19世紀の哲学者フッサールが唱え、後の哲学甲斐に大きな影響を与えた「フッサールの現象学」だ。16世紀に活躍し、近代哲学の祖とされるデカルト哲学との違いや、現象学が登場してきた社会背景、ゲームAIにおける応用の可能性などが論じられた。

三宅氏は現象学が「我思う、ゆえに我あり」に代表されるデカルト的な世界観(機械的世界観)では、無意識をはじめとする人間のさまざまな精神活動を包含するには、不十分であるという考えから誕生してきたと解説した。これはゲームAIにおいても同様で、将棋や囲碁といった限られた局面では機械的世界観がマッチするが、RPGのNPCに代表されるように、ゲームキャラクターに対してゲーム内世界における自律的な振る舞いを求めようとすると、さまざまな問題に突き当たるという。

【Facebookをベースに成長】

セミナー後半では参加者がグループに分かれ、テーマごとにディスカッションが行われた。議論は白熱し、中には制限時間を越えて継続するグループもみられた。議論の内容はFacebookのグループページ上で投稿されている。また本セミナー自体もグループページ上の議論がベースとなっており、いわゆる「オフ会」の側面もある。グループページでは本テーマに興味のある人に広く参加を呼びかけており、2015年10月11日現在で約850名以上が登録している。

セミナーは「第0夜(概論)」「第1夜(フッサールの現象学)」を経て、以後「第2夜(ユクスキュルを環世界)」「第3夜(デカルトと機械論)」「第4夜(デリダ・差延・感覚)」「第5夜(メルロポンティと知覚論)」が順次、議論されていく予定。ネット上には第0夜第1夜の講演資料と、第0夜の講演レポートが掲載されている。