『アニメとプロパガンダ』(法政大学出版局、2011年)は、フランスのアニメーション研究者セバスチャン・ロファの博士論文を基にした本であり、第2次世界大戦前後の時期におけるプロパガンダ・アニメーションについて、様々な国の事象を網羅しようと試みた労作だ。

アニメーションの歴史研究については、イタリアのアニメーション史家ジャンアルベルト・ベンダッツィの『カートゥーン——アニメーション映画100年』(Cartoons: One Hundred Years of Cinema Animation, Indiana University Press, 1995)が世界各国の歴史を概観したものとして最も基礎的な文献とされている。その他にも、特定のスタジオの歴史や作家のモノグラフ研究についてはいくつかの成果が挙がっているが、それらと比較した本書の特徴は、戦時中における国家と産業の関係性という特定の視点から、アニメーションを超域的に概観している点にある。

記述の内容は、国によって質、量ともにばらつきが見られるが、フランス、アメリカ、ドイツについてはかなり充実している。特にフランスについては、戦争がアニメーションを産業として成立させるにあたって大きな役割を果たしたことが明瞭に論証されている。

アニメーションと国家の関係でいえば、第2次世界大戦後、冷戦期の東側諸国における国営スタジオや、カナダの国立映画制作庁(NFB)、近年の日本における「クール・ジャパン」等のコンテンツに関する政策など、本書が中心的に取り上げた時期以降の歴史においても扱われるべき重要なトピックがある。今後、本書を土台に、新たな議論をおこなうことが可能となるだろう。

セバスチャン・ロファ『アニメとプロパガンダ』(出版社サイト)

http://www.h-up.com/books/isbn978-4-588-42011-5.html