テレビゲームはアメリカで誕生し、日本で独自に進化を遂げ、海外に輸出されて世界を席巻した、きわめて珍しい歴史を持つエンターテインメントだ。そんなテレビゲームを、いわば「逆輸入」を受けたアメリカ人ゲーマーの立場から読み解いた書籍が、本書『ニンテンドー・イン・アメリカ 世界を制した驚異の創造力』(早川書房、2011)である。
著者のジェフ・ライアン氏はウェブニュースなどで活躍するゲームジャーナリストで、小学生の頃にNES(アメリカ版ファミコン)の洗礼を受けた「ニンテンドー・キッズ」(ファミコン世代)だ。それだけに日本人にはなじみの薄い、海の向こうでのファミコン文化が、さまざまな事例と共に生き生きと綴られている。
本書は史上初の業務用ゲーム「ポン」から、2011年に発売されたニンテンドー3DSまでのテレビゲーム史について、「スーパーマリオ」シリーズで有名なゲームキャラクター、マリオが登場するゲームの変遷を中心に整理している。とくに任天堂のアメリカ法人に関する事柄は新鮮な内容が多く、楽しめた。
中でも▽『ドンキーコング』が米ゲーム市場に与えた影響と、ユニバーサル社との訴訟▽任天堂・ソニー・フィリップスによるプレイステーション開発を巡る駆け引き▽ゲームキューブ時代、PS2とXboxの後塵を拝した任天堂に対する米国ゲーマーの思い−−の3点は読み応えがある。特に3点目は著者が業務を通してリアルタイムで体験した内容だけに、印象深かった。
著者は「任天堂にとって『マリオ』は品質保証シールで、『マリオ』ゲームで同社は急成長したが、それゆえにエンターテインメント企業の枠を越えられなかった。一方でゲーム人口が急拡大した結果、『マリオ』自体の存在意義も低下している」と分析。その上でコアゲーマーとカジュアルゲーマーの溝を埋めるのは、やはりマリオであると説く。その正否は読者にゆだねるとして、日本語で読める良質な資料であることは間違いないだろう。
『ニンテンドー・イン・アメリカ 世界を制した驚異の創造力』
著:ジェフ・ライアン、訳:林田陽子、出版:早川書房
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