NHKクローズアップ現代2012年1月25日の放送でも取り上げられるなど、急速に注目を集めている「ゲーミフィケーション」。本来は「コンピュータ・ゲームのなかで特徴的に培われてきたノウハウを現実の社会活動に応用する行為のこと」(本書より)の意味だが、流行語として消費されているきらいもある。

こうした中で現状を整理し、学術的な立場から解釈を投げかけているのが、本書だ。著者は日本デジタルゲーム学会で第一回学会賞(若手奨励賞)も受賞した井上明人氏。自身も東日本大震災の直後に家庭の電気メーターの計測値をTwitter上でツイートして遊ぶ節電ゲーム「#denkimeter」を発表している。

内容は二部構成で、第一部はゲーミフィケーションの誕生と歴史的経緯、そして可能性が考察されている。第二部はゲーミフィケーションを実際のビジネスに応用するための方法論だ。豊富な事例が紹介されており、研究者の立場から丁寧に解説されている。ビジネス的な解答のみを期待する読者には物足りなさを感じるかもしれないが、学術的な枠組みの中で、いささか混乱しがちな現象を整理しようとする試みには共感を覚える。

本書の中で著者はゲーミフィケーション進展の背景に▽計測技術の進歩▽インターネットやスマートフォンの普及によるフィードバックの高速化▽ゲーム世代の成熟——があると分析し、センサーの数だけゲーミフィケーションがあるとする。その一方でゲーミフィケーションで覆われた世界は、究極の管理社会でもあると警鐘を鳴らしており、複数のゲーミフィケーションをプレイヤーが選択でき、自分でカスタマイズしたり、創造できる社会が望ましいと指摘している。

ゲーミフィケーションが一過性のブームで終了しても、ゲームのノウハウを実社会に応用する動きは今後も斬新的に進むと考えられる。スマートグリッドや空間情報科学の進展など、ゲーミフィケーションを可能にする環境が急速に整備されつつある今、人とゲームの関係もさらに多様性を増していくことが期待される。そのための議論の礎として広く読まれたい一冊だ。

 

ゲーミフィケーション <ゲーム>がビジネスを変える

著者:井上明人 出版:NHK出版

出版社サイト

https://www.nhk-book.co.jp/shop/main.jsp?trxID=C5010101&webCode=00815162012