このサイトで何度か紹介してきた「メディアアートと科学技術史に関する国際会議(MEDIA ART HISTORIES: International Conference on the Histories of Media Art, Science and Technology)」は、隔年で「re」という接頭語を持つキーワードを掲げた国際会議を世界各地で開き、その成果をThe MIT PressのLeonardo Booksシリーズとして出版することを活動目標としてきた。いままで実際に出版がかなったのは、2005年の初回の国際会議「REFRESH! 2005」をもとにしたmediaarthistories(オリヴァー・グラウ編著, The MIT Press, 2007)だけだったが、ようやく2013年に、2冊目の書籍Relive|Media Art Histories(ション・キュビット &ポール・トーマス編著, The MIT Press)が刊行された。その元になったのは、オーストラリア、メルボルンで開催された第3回目の「Re:live 2009」である。
開催地であるオセアニア地域でのメディアアートの実践に関するエッセイも大変興味深いが、とりわけ注目に値するのは、メディアアート史研究の現状を徹底して分析している編著者たちの論考である。この論考によると、メディアアート史が挑んでいる批評的問題は大きく3つある。第1に、現代アートとメディアアートはまったく異なるのか。第2に、メディアアート史とはフィルムやビデオなどの他のメディアを排除した、デジタルメディアの歴史であるのか。第3に、「メディア」という言葉の使用は、伝統的なモダニズムに見られるメディウム・スペシフィシティ(素材や媒体に固有の性質)の美学への回帰を意味するのか。
これらの問題を検討しつつ本書は、たえず変化するメディアという要素が内在しているメディアアートのなかで唯一普遍的なのは、全てのアートがメディアで制作されること、全てのモノも、全てのプロセスも、媒介される(mediate)こと、そして媒介化(mediation)こそが、歴史のメディウムであることだと主張している。
本国際会議で課題となっているのは、主流美術との関係性のなかでどのようにメディアアートという新しい領域を定義するのかということである。たとえば、以前、書評で紹介したArt and Electronic Media(Phaidon, 2009)の著者、エドワード・A・シャンケン氏は、現代美術史のなかにメディアアート史を接続させる具体的な実践と美学を模索してきた代表的な研究者である。シャンケン氏の企画した、2010年のトークイベントで、ドイツのZKM館長のペター・ヴァイベル氏と、フランスの国立美術学校のディレクターを務めているニコラ・ブリオー氏、それぞれメディアアートと現代アートを象徴する二人は、この日初めて顔を合わせたという。メディアアートは現代アート一般とは、本当にまったくかけ離れた分野なのだろうか?
1990年代から2000年代の現代アートを席巻したとも評価されるブリオー氏の著書『関係性の美学(L'esthétique relationnelle)』(Presses du réel, 1998)は、スペクタクルの社会のなかで、新しい関係性の発明という芸術の可能性を見いだし、人間相互作用の領域と社会的な脈絡をその理論的地平にする芸術、リレーショナル・アートを提案した。ところが、『関係性の美学』における「参加」と「相互作用」という概念は、メディアアートが開拓してきた「インタラクティビティ」概念や表現とはいままで接続することがなかった。その理由のひとつは、後者が人間同士の関係性ではなく、人間と機械/システム/ネットワークとの関係性を対象にしたからだろう。人間に限らず、機械、ネットワークまでをその対象としているメディアアートにおける「主体性」が、「関係性の美学」を拡張させ、現代アートとメディアアートの垣根を超える端緒になるかどうかは大きく注目すべき論点だろう。
さて、2015年11月5日から8日までカナダ、モントリオールで、10周年を迎えるメディアアートと科学技術史に関する国際会議(RE-CREATE: The 10th Anniversary and the 6th International Conference on the Histories of Media Art, Science and Technology)が開催される。作品と論文の投稿 の締め切りが、2015年1月12日までに延長されたので、今回こそ日本からもたくさんの参加を期待したい。
Relive|Media Art Histories
編著:Sean Cubitt, Paul Thomas
出版社:The MIT Press
出版社サイト
http://mitpress.mit.edu/books/relive
RE-CREATE 2015(Re-Create: Theories, Methods, and Practices of Research-Creation in the Histories of Media Art, Science and Technology)
http://www.mediaarthistory.org/recreate-2015
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書評『mediaarthistories』
http://mediag.bunka.go.jp/article/mediaarthistories-224/