メーカーとのコラボ商品から期間限定のカフェまで、マンガ・アニメ・ゲームの世界を、食を通じて堪能できるコラボメニュー。二次元から現実世界へ、日本から世界へと波及する、その一過性にとどまらない人気の理由と可能性を考察する。

スクウェア・エニックスが上海にオープンした公式カフェ「SQUARE ENIX CAFE Shanghai」の外観

マンガ・アニメの世界をおいしく味わう

近年、マンガやアニメ、ゲーム作品とコラボレーションした食品を期間限定で提供するカフェやレストランが増えている。
たとえばライトノベルを原作としたマンガ・アニメの『異世界食堂』はタイトル通りファンタジー世界の住人が洋食屋で食事をするという作品だが、彼らが食べているメニューをそのまま出すコラボカフェは頻繁に企画されている。また池袋のアミューズメント施設「ナンジャタウン」でも、常にさまざまな作品とのコラボが行われて人気だ。女性向け作品を揃えた書店などが集まる「乙女ロード」が近いせいか、『弱虫ペダル』『刀剣乱舞』など女性に人気の作品とのコラボが多い。

さまざまな作品とのコラボが行われている池袋の「ナンジャタウン」

また秋葉原のメイドカフェ「シャッツキステ」は店内で行う期間限定イベントの一環としてコラボメニューも提供しており、過去には『けものフレンズ』などとのコラボ例もあった。
期間限定コラボカフェをまとめた、その名も「コラボカフェ」というサイトもあり、絶えず情報が更新されているところからも、こうしたカフェの人気ぶりがうかがえる。
最近のコラボメニューには、大きく分けて2種類ある。ひとつは、作品のキャラクターや世界観に見立てた食べ物を提供するもの。そしてもうひとつは作中に登場する食品を実際に「つくってみた」ものとなる。高橋留美子のマンガ『らんま1/2』 の30周年を記念したコラボカフェのメニューでいえば、呪泉郷で木杭の上に器用に乗って戦う乱馬と玄馬をイメージした火鍋は前者。シャンプーが運んでくる猫飯店のラーメンなどは後者の例ということになるだろう。
特に後者の「つくってみた」例では、マンガやアニメなどに登場するメニューが、現実離れしているからこその楽しさを生む場合もある。たとえばアニメ『ガールズ&パンツァー』第10話にはジャンボサイズのとんかつとコロッケでつくられた戦車型のとんかつが登場するが、水戸市には実際にこのメニューが「ガルパンかつ」の名で供されているレストラン「クックファン」がある。実はこのとんかつ、原作通りのサイズだとあまりのボリュームで食べきれないほどなのだが、「ガルパンかつ リアルバージョン」を注文するとこれを忠実に再現してくれる。水戸市はガルパンの舞台として「聖地巡礼」も盛んに行われており、アニメとコラボすることで地方が盛り上がりを見せた例としても注目されている。

オマケ付きのスナックから特別な体験のできる空間演出へ

アニメやマンガ、ゲームなどと食品のコラボレーションの歴史は、カルビーの「仮面ライダースナック」のように、菓子パッケージにキャラクターが印刷されており、ちょっとしたオマケが手に入るという製品までさかのぼることができるだろう。さらに時代が進むと、ゲーム『ファイナルファンタジー』に登場する回復薬「ポーション」がサントリーから発売されたり、井村屋がコンビニで「スライム肉まん」「はちゅねミク肉まん」 などの商品を売り出されたりした例があり、これは今のコラボカフェの商品にかなり近い。
ただ、最近のカフェを中心としたコラボ食品のほうには、微妙なニーズの違いを感じる。鍵になっているのは、コラボメニューの「限定商品」ぶりだ。前述の「はちゅねミクまん」などコンビニ商品も期間限定のものがほとんどだが、コラボカフェの場合は実際にその店舗へ行かないと食べられないことで、さらに希少価値を感じさせる。しかもコラボカフェの多くは、グラスを載せる際に使ったコースターやランチョンマット、場合によっては食器などまでも持ち帰りできることがある。前述の『らんま1/2』カフェでも、ラーメンのレンゲが付いたセットが存在した。ここでしか手に入らないレアなグッズを手に入れる場所としても、コラボカフェは人気を集めているのだ。
しかも今の時代は、SNSでファン同士がコミュニケーションするのも作品を通した楽しみのひとつになっている。コラボメニューを食べ、その写真をTwitterやInstagramにアップロードしあうことは、「限定」という希少価値を通して多くの人と作品世界を「共有」し、ファン同士が「繋がる」ことを求める、一見矛盾するかのようなファン心理のあらわれだ。こうしたネット時代のファン心理が、コラボカフェをますます活発化させている。
コラボ事例が増えるのは、ファンにとっていいことづくめだ。各社、各作品の競争が加速して、より洗練されたメニューが提供されるようになっていくためだ。店の内装を作品の世界観に合わせる凝ったカフェも増えており、キャラクターの等身大パネルに囲まれて、まるで作中に入り込んだような気分で食べることもできる。いわば「2.5次元」的な形で作品と関わることを今のファンたちは好むため、こうしたカフェは人気を集めやすい。
だが、どこがその作品と関連しているのかわからないようなメニューや内装のコラボは、タイアップとは名ばかりのものとしてネットですぐに話題となり、批判の対象にされる。支持されるカフェは、単に作品の絵があるのではなく、店側が楽しんで企画し、作品へ愛情を注いでいることを感じさせる。たとえばマンガ原作のアニメ『ポプテピピック』はたびたびコラボカフェが登場しているが、座席が豪華な「信者様席」と質素な「アンチ様席」に分けられるなどユニークな仕掛けがあり、クセのある作風で知られる同作のファンを喜ばせた。

日本のメディア芸術と食文化を世界に発信

かつてパッケージにキャラクターの絵が描いてある程度のコラボ商品から始まり、「はちゅねミク肉まん」のようなコンビニの限定商品を経て、より高度な限定商品と体験が味わえるカフェやレストランへと進化してきたコラボ食品。今後さらに活発になりそうな新たな動きとして注目できるのは、海外での展開だ。
そもそも海外の日本アニメやマンガのファンは、日本のファン以上に作中で登場する食べ物や日本文化に関心を抱く。われわれ日本人が何気なく見ている食事シーンでも、あれはどんな味がするのかと想像をふくらませているのだ。それらを体験できる場所としてコラボカフェはうってつけと言えるだろう。日本を訪れるファンたちも、目当ての作品のコラボカフェを観光コースに入れていることが珍しくなく、作品の世界観と日本の文化を同時に楽しんでいる。
こうしたファンの需要を見越して、例えば香港では『幽☆遊☆白書』や『文豪ストレイドッグス』のカフェが期間限定で出店したし、上海でも『銀魂』や「初音ミク」のカフェがつくられている。またスクウェア・エニックス は東京と大阪に続く3店舗目の公式カフェをやはり上海にオープンし、初日は行列ができるなど現地のファンを喜ばせた。ゲーム『ポケットモンスター』のコラボカフェがシンガポールに期間限定で出店し、終日満席状態になるなど現地のファンを楽しませたこともある。日本のファンたちが「限定」商品を通して交流しているように、コラボカフェの存在によって日本と世界が交流することが、今後ますます増えていくに違いない。

「SQUARE ENIX CAFE Shanghai」の様子。外壁には『ファイナルファンタジー』のキャラクターがあしらわれ、店内にはグッズが並ぶ

今後、海外進出する上で懸念材料になりうるのは、メニューや内装、接客などのクオリティをどこまで日本で運営するものに近付けるかということだろう。特にコラボカフェは食べ物を扱うだけに、必ずしも日本の「本家」にこだわれば正解というものでもないし、忠実に再現しきれない部分もあるはずだ。これは、日本文化を世界へ輸出する際には常につきまとう問題だ。トライ&エラーを繰り返して、アニメやマンガ、ゲーム作品を楽しむ最新スタイルとしてのコラボカフェの需要を、世界でも開拓していくべきだろう。
また国内でも、企業タイアップであるコラボカフェはその性質上メニューなどが高額になりやすく、また店内の滞在時間も制限されるなど客に不便を強いるところが少なくない。安易で粗雑なコラボカフェの乱立は抑制して、作品に対するファンの愛情を裏切らず、質の高いカルチャーとして成長させていくことが、今後も引き続いて期待されるところだ。