日本デジタルゲーム学会ゲーム教育研究部会(DiGRA Japan教育SIG)は「第7回シリアスゲームジャム」を2018年12月9日・16日・17日に国立情報学研究所(東京都千代田区)で開催した。近年におけるeスポーツの盛り上がりを受けて、「障がい者と健常者が同じ土俵で競えるディジタルゲームを制作せよ」をキャッチコピーとし、約30名の学生と社会人が参加。30時間で6本のゲームが制作された。

「第7回シリアスゲームジャム」ポスター

健常者と障がい者が同じ土俵で競えるゲームをつくる

2018年6月11日(現地時間)、アメリカ・マイクロソフトのフィル・スペンサー氏はE3 2018に先立ち開催された「Microsoft E3 2018 Briefing」で「(デジタル)ゲームは民族・宗教・性別などにかかわらず、公平にプレイできる環境をプレイヤーに提供する」とアピールした。筆者にはこれがゲームの可能性を力強く指し示す言葉に聞こえた。

ゲームを競技として捉えるeスポーツの例をあげるまでもなく、ゲームにはさまざまな垣根を越えて、人々を結びつける力がある。健常者と障がい者の垣根も同様で、ゲームならコントローラーさえ操作できれば、同じ土俵でプレイ可能だ。ゲームによっては障害者向けのモードを備えているものもあるし、コントローラーの操作をサポートする器具も販売されている。

もっとも、ゲームが健常者向けに開発されていることは間違いない。そのため、多くの障がい者が取り残されていることも事実だ。それでは、当初から健常者も障がい者も同じ土俵で競えるゲームを開発できないか……。こうした問題意識から実施されたイベントが「第7回シリアスゲームジャム」だ。約30名の社会人と学生が参加し、6本のゲームが制作された。

開会式の模様
実行委員長の岸本好弘氏(遊びと学び研究所)

12月9日に開催された開会式では国立病院機構八雲病院で作業療法士として働く田中栄一氏とギフトテンインダストリの濱田隆史氏が基調講演に登壇し、医療従事者とゲームクリエイターの立場からアドバイスを送った。田中氏は「障がい者向けの配慮を気にするあまり、ゲームがつまらなくなっては意味がない。自由にゲームを企画し、そのうえで障がい者とともに遊べる最低限度のサポートを考えると良い」と指摘した。

一方、視覚障がい者向けに音と振動で遊ぶボードゲームを企画・販売した経験を持つ濱田氏も「健常者と障がい者がともに競えるゲームづくりとは、ターゲット層に制約を加えるということ。一般的に制約を加えれば加えるほど、ゲームはおもしろくなる」とコメントし、自身もPowerPointを使わずに口頭のみで講演を行った。また、実際に開発チームの一員として、ゲームづくりにも挑戦した。

田中栄一氏(国立病院機構八雲病院)
濱田隆史氏(ギフトインダストリ)

シリアスゲームジャムは2014年に初開催され、毎回テーマを変えつつ、年に1~2回のペースで開催されてきた。もっとも、これまでは事前にウェブ上で企画コンテストが行われ、上位入賞者の企画をベースに実開発を行う形式を採用していた。しかし、今回は開会式を別日程で設けて、その場でチーム編成と企画立案を行う形式に変更された。これにより、参加者のモチベーションが向上したようにも感じられた。

発話で相手を褒めあう『WordCross』が最優秀作品に選出

12月16日からは企画に沿ってゲーム開発がスタートした。通常のゲームジャムと異なり、シリアスゲームジャムでは「遊んでおもしろい」だけでなく、「シリアスであるか(テーマで設定された社会問題を解決するデザインになっているか)」が求められる。そのためリーサーチャーの参加者が実行委員会にアイディアの有効性について質問するなどの、本ゲームジャムならではの光景も見られた。


開発風景

ゲームジャムのルールは会場によって異なるが、本イベントでは参加者が望むなら、徹夜作業も可能とされた。実際に会場では眠い目をこすりながら、深夜まで作業を続けるメンバーの姿もみられた。そうして迎えた2日目の午後、約30時間の開発時間が終了し、発表式となった。チームごとにデモを見せながら発表が行われると、参加者からはさまざまな歓声や拍手などが飛び交っていた。

①『とべっ!トビウオくん』(チーム:海の幸)

2人対戦アクションで、内外2つのリング上を自機(トビウオ)が周回しており、ボタンで周回するリングが変更できる。リング上にランダムに出現するエサを、制限時間内でたくさん補食した方が勝利。運動障害のプレイヤーでも楽しめるように、タップのみのシンプルな操作になっている。

②『キーボード海戦バトル』(チーム:Mission HY)

対戦ストラテジーゲームで、モチーフはアナログゲームの「潜水艦ゲーム」から。相手のマップの箇所を交互に指定しながら、先に宝を3つ探し出した方が勝利する。キーボードの「F」「J」キーに設置されたホームポジションの突起を活用することで、視覚障がい者でもプレイ可能なデザインにしている。

③『Word Cross』(チーム:グローバルフリー)

制限時間内に画面に表示された3つの文字列からひとつを選んで発声し、対戦相手を互いに「褒めあう」ゲーム。音声が正確に認識されると褒め言葉が飛んでいき、対戦相手の心を温める。5秒ごとに手番を交替し、先に相手の心を温めきったプレイヤーが勝利する。外国語の学習にも活用できそうだという意見も聞かれた。

④『がん2 シューティング』(チーム:モラトリアリスト)

VRHMDを用いたFPSで、照準は四肢が不自由なプレイヤーでも楽しめるように、視線入力で行われる。一定時間標的を見つめ続けると自動的に弾丸が射出され、武器交換とリロードも視線入力で行う仕組みだ。銃はハンドガン・ライフル・サブマシンガンが選択でき、一定時間内のスコアアタックで勝敗を競う。

⑤『Yurayura』(チーム:Yurayura)

スイカ割りがモチーフの協力ゲームで、2台のスマートフォンやタブレットを同時に使用する。1台はコントローラーで、もう1台はゲーム画面のみが表示されているので、画面を見ているプレイヤーが、コントローラーを操作するプレイヤーに助言を与えながら、ステージをクリアしていく。

⑥『B.A.T. Castel of Rhythm』(チーム:シリアスギルダーズ)

対戦型のリズムゲームで、音楽に合わせてタイミング良く画面をタップしていくことで、得点を重ねていく。タブレットでのプレイが想定されており、画面を上下に分割することで対戦プレイを可能にする仕組みだ。音楽にあわせて本体も振動させることで、視覚障がい者と聴覚障がい者が同時に遊べる配慮もなされている。

最優秀賞作『Word Cross』を開発したグローバルフリーのメンバー

その後、表彰式が行われ、最優秀賞に『Word Cross』が選出された。大会委員長を務めた岸本好弘氏(遊びと学び研究所)は「過去最も完成度の高いゲームが並んだシリアスゲームジャムになった」と講評。また『Word Cross』については1月末の台北ゲームショウ出展に向けて、より完成度を高めていって欲しいと期待を寄せた。ほかに東京ゲームショウ2019での試遊展示なども予定されているという。

医療現場からテストプレイとフィードバックが届く

その後、シリアスゲームジャム終了後には、基調講演を務めた田中氏から、筋ジストロフィーの入院患者による『Word Cross』『B.A.T. Castel of Rhythm』の試遊動画レポートが送られ、Facebookのグループページ上で公開された。自分たちが作成したゲームが実際に病院でプレイされている様子を見たことで、Facebookでは「感激した」「励みになった」などの書き込みが見られた。

『Word Cross』プレイ感想
http://youtu.be/YOoVRO6OwNA

『B.A.T. Castel of Rhythm』プレイ感想
http://youtu.be/FyDS4NtljQM

第7回シリアスゲームジャム結果発表

最優秀賞(Grand Prix Award):『Word Cross』(グローバルフリー)
特別賞(Dutch Embassy Award):『がん2 シューティング』(モラトリアリスト)
優秀賞(Excellent Research Award):『Yurayura』(Yurayura)
優秀賞(Excellent Design Award):『キーボード海戦バトル』(Mission HY)
特別参加者賞:三代大氏,Ku Yohan氏,Cho Younghyun氏

本ゲームジャムでは筆者もチーム「シリアスギルダーズ」の一員として、『B.A.T. Castel of Rhythm』の開発に携わった。ゲーム開発では通常、主要ターゲット層を定めるが、学生やゲームジャム作品では疎かになる例が多い。しかしシリアスゲームでは顧客と顧客が抱える諸問題を抜きにしては開発ができないため、ゲーム開発へのより高い教育効果が得られるようにも感じられた。

また医療機関と連携し、開発したゲームが実際の医療現場でテストプレイされ、フィードバックが得られた点も大きな収穫だった。これまでのシリアスゲームジャムではそのようなアクションはなく、一歩前進したと言えよう。一方でイベント会場に顧客の姿が見られなかった点は課題を残した。今後は関連機関とタイアップするなどして、利用者をテストプレイに巻き込むなどの工夫も求められていきそうだ。

第7回シリアスゲームジャム参加者(実行委員会撮影)

(information)
第7回シリアスゲームジャム ゲームの力で世界を救え!
~みんなのバリアフリー(2)~
–ゲームのアクセシビリティに対する理解向上–
会期:2018年12月9日(日)、15日(土)、16日(日)
会場:国立情報学研究所
主催:日本デジタルゲーム学会ゲーム教育研究部会(DiGRA Japan 教育SIG)
http://www.mediadesignlabs.org/SGJ7/

※URLは2018年1月22日にリンクを確認済み