映画やテレビからビデオゲームへと活躍の場を移した怪獣たち。しかし、所変われば品変わるという言葉もある。ゲームのキャラクターとなった彼らは、はたしてどんな変容を遂げたのか。また、何が変わらずに残っているのだろうか?

左から『モンスターハンターワールド:アイスボーン』(2019)、『地球防衛軍5』(2017)のパッケージ。いずれもシリーズ最新作だが、後者にはアメリカで開発された『EARTH DEFENSE FORCE: INSECT ARMAGEDDON』(2011)という外伝的な作品もある

怪獣とクリーチャーのハイブリッド

「ポケットモンスター」シリーズと同様に、幅広い層から支持されているビデオゲームに、「モンハン」こと「モンスターハンター」シリーズがある。こちらに登場するモンスターは、ポケモンのようなゲームプレイヤーの相棒ではなく、むしろ人間に危害を加えてくる恐ろしい獣として描かれている(註1)。また、ある種の現代劇である「ポケモン」に対して、「モンハン」は和製ファンタジーの王道ともいえる中世ヨーロッパ風の世界観を踏襲しており、数多くのドラゴンやデミ・ヒューマン(註2)が登場する。そのため、「世界に息づく怪獣王(ゴジラ)の遺伝子」で提唱した怪獣の定義には当てはまらないのだが、今回はまた異なるアプローチで怪獣らしさというものを探っていく。
ゲームの舞台となるのは、王国から遠く離れた辺境に位置する小さな村や街が多く、それらを拠点とするモンスターハンターの一人がゲームの主人公である。モンスターハンターとは、主に人里近くに姿を見せたモンスターを狩ることを生業とする者たちで、彼らの存在によりモンスターの骨、牙、卵といった特産品が生まれ、王国と辺境とで商業取り引きも行われているという設定だ。なお、王国近辺ではモンスターが徘徊するようなことはなく、本土の住人たちはモンスターを見ることなく一生を終えることも多いとされており、要するに現代日本におけるクマやイノシシのようなものなのだろう。モンスターハンターは、その名の通りモンスター専門の猟師ということになる。かつてのマタギが、動物の毛皮をなめしたキガワなどを身に着けていたように、モンスターハンターも討伐したモンスターを素材とした装備で戦う。ちなみにゲーム内容としては、某からの依頼を請けてモンスターを狩る。自らが倒したモンスターで新しい武器や防具をつくる。某からの依頼を請けてモンスターを狩る……基本的には、この繰り返しである。

左から「モンハン」シリーズより化け鮫ザボアザギル亜種、「ウルトラマン」シリーズより海獣サメクジラ。どちらも四足歩行するサメのキャラクターで、その他の動物を掛け合わせるというデザインアプローチも同様だが、まったく異なる仕上がりを見せている

※写真はすべて筆者の私物のフィギュア

一般的にファンタジーと聞くと、「ドラゴンクエスト」シリーズのような“剣と魔法の世界”を想像する日本人が多いことだと思う。しかし「モンハン」の世界には魔法が存在せず(註3)、ドラゴンが人語を解したり、その生き血を浴びて人間が不死身になったりすることもない。もちろん、口から火炎を吐いたり、自由に空を飛び回ったりはするものの、伝説に謳われるドラゴンのような人知を超えた生命体としては描かれていないのだ。あくまでもこの世界に生きる多種多様な動物の一種であり、現実の生物学・分類学よろしく階級さえ設定されている。例えば、シリーズの顔ともいえるリオレウスであれば、竜盤目・竜脚亜目・甲殻竜下目・飛竜上科・リオス科といった具合だ。野生動物のドキュメンタリー番組のように、各種モンスターの生活を切り取った「生態ムービー」が流れることもあり、「モンハン」が生物的なリアリズムを重んじていることは明白だろう。身体のサイズも、日本の怪獣映画や巨大ヒーロー番組に出てくる怪獣と比べると常識的な範囲に収まっており、全高10mに満たないものがほとんどだ。人間が剣や斧で戦うわけだから、ゴジラのように50mも100mもあったらゲームにならないという事情もあるかもしれないが、どちらかというと海外のモンスターに近いサイズ感といえよう。生物感を強く意識している点も同様だ。
では、デザインに関してはどうだろうか。「モンハン」の場合、肉食恐竜や熊、ライオン、あるいはカエルなどといったさまざまな生き物の骨格をベースに、さらに異なる生き物のパーツを合体させていくという方法論が採られているのだが、このこと自体は決して珍しいものではない。洋画に登場するモンスターやゴジラをはじめとする多くの怪獣のみならず、古来より伝わる鵺やグリフォン、キマイラといった怪物たちもそうだ。ただ、さまざまな生き物の骨格という部分が重要で、着ぐるみありきの怪獣は、なかなか人間の骨格から大きく離れたものがつくりにくい。一方、アメリカ映画のモンスター表現は、コマ撮り(ストップモーション・アニメーション)から始まっているため、1950年代の昔からトカゲのモンスターはトカゲらしく、鳥のモンスターは鳥らしく、魚のモンスターは魚らしいシルエットを持つことができた……というのは、前述の「世界に息づく怪獣王(ゴジラ)の遺伝子」でも述べたとおりだ。そういった意味でも「モンハン」のモンスターのつくり方は、日本の怪獣よりも海外のモンスターに近い。実際、「モンハン」に登場するドラゴンの多くは、向こうのファンタジー映画に出てきたとしても違和感がなかろう(註4)。しかし、例外も決して少なくない。例えば、ヒルやワラスボなどをモチーフにしたと思われるフルフル、ギギネブラ、あるいはウサギとホッキョクグマを足して2で割ったようなウルクスス、キツネやヘビの雰囲気を持つドラゴンのタマミツネなどがそうだ。ただ巨大化させただけでは、人間と戦わせにくいモチーフのモンスターほど、奇妙な形……すなわち“怪獣っぽい”デザインになるという傾向があるように思う。

左から「モンハン」シリーズより白兎獣ウルクスス、「ウルトラマン」シリーズより猛毒怪獣ガブラ。ガブラは、ライオンとイモムシを合体させたものだろう

日本は、モンスター界のガラパゴス諸島である。では、日本のモンスターたちは、いかにしてKAIJUなる特異なアイデンティティを獲得するに至ったのか? その最大の原因をつくった人物が、初期ウルトラ怪獣のデザインを手掛けた彫刻家の成田亨であることは論を俟たない。彼は新たな怪獣を創造する際、シュルレアリスムのデペイズマンとコラージュという手法を好んで使っていた(註5)。先ほども書いたように、さまざまな生き物の特徴を掛け合わせること自体は、モンスターを生み出す際の常套手段だ。ゴジラであれば、ティラノサウルスをベースに、ステゴサウルスのような背びれをつけ、ゴツゴツしたワニ皮で覆った。正面から見たシルエットには、原子爆弾のキノコ雲のイメージが盛り込まれているとの説もあるが、基本的には爬虫類の集合体といっていい。アメリカのモンスターも、やはり同種の生き物を組み合わせたもの、あるいはシンプルに巨大化させたうえで細やかな装飾を加えたものが主流だ(註6)。日本もアメリカも、かつては似たり寄ったりのアプローチでモンスターをつくっていたのである。しかし成田亨は、ヒトデとコウモリ、ガマガエルとクジラといったように、突拍子もないもの同士を掛け合わせてみせた。有名なガラモン(ピグモン)の顔は、人間の目、犬の鼻、魚の口をコラージュしたものだという。当初は亜流でしかなかった成田怪獣だが、『ウルトラQ』(1966)および『ウルトラマン』(1966~1967)の大ヒットによって、日本人のモンスター観そのものを変えてしまった。「モンハン」のモンスターは、一見するとハリウッドライクなスタイルを採っているように思えるが、実際のところは怪獣に囲まれて育った日本人らしいセンスも盛り込まれている。いわば両者のいいとこ取りであり、「モンハン」のモンスターにしか存在しない唯一無二の魅力を勝ち得ているとさえいえるだろう。

怪しく光る巨獣の目

「モンハン」シリーズには、ボス格の存在として古龍種、あるいは古龍級とされるモンスター群が登場する。古龍とは、どの種族にも分類できず、生態はおろか詳細な姿かたちですら不確かという設定が与えられている大型モンスターのこと。『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』(1967)に、「(動物学的な見地から見て)ギャオスは鳥類ですか? 爬虫類です?」「あんな怪獣は、有史以来現れたことがありません。強いて分類すれば……怪獣類でしょう」という極めてざっくりしたやり取りが登場するが、それを彷彿させるような存在だ。実際、山のように巨大な体躯を保有していたり、天候を操ってみせたりと、プレイ画面に映っている状況も怪獣映画さながらのものになる。おそらく厳密に定めているであろう、「モンハン」のリアリティの基準のようなものを、敢えて踏み外すことで比類なき強敵という印象を生み出しているわけだ。
さて、巨大モンスターが登場する人気タイトルといえば、「地球防衛軍」シリーズもある。PlayStation®2の低価格帯ソフトレーベルである「SIMPLE2000」シリーズのひとつとして登場したが、大きな支持を得て続編が発売されるようになり、『地球防衛軍3』(2006)からはフルプライスの独立シリーズとして展開するようになった。いずれも地球防衛軍の隊員の一人となって、侵略者が送り込む巨大生物や戦闘メカに立ち向かうというストーリーだ。メインとなる敵キャラクターは、アリやクモ、ダンゴムシなどがそのまま巨大化したようなモンスターであり、その部分だけ抜き出すとアメリカンなテイストを感じるのだが、より強力な敵として、第1作『THE 地球防衛軍』(2003)および第2作『THE 地球防衛軍2』(2005)にはソラス、『地球防衛軍3』にはヴァラクなる着ぐるみ怪獣然としたモンスターが登場する。どちらも体長40mを超える巨大モンスターで、明らかに日本の特撮映画を意識したキャラクターだ(註7)。そして、特に注目すべきは『地球防衛軍4.1 THE SHADOW OF NEW DESPAIR』(2015)にて初登場を果たしたエルギヌスと呼称される怪生物である。立派な鼻ヅノを備えたゴジラタイプというシンプルなソラスに対して、エルギヌスは全身のトゲなどが怪しく光っている凝ったデザイン。この光るという部分がポイントだ。

左から「ウルトラマン」シリーズより一角超獣バキシム、「ゴジラ」シリーズより未来怪獣ガイガン。日本の怪獣にとって、生体発光は極めて重要なアイデンティティーのひとつであり、このように電飾ギミックを備えたフィギュアも少なくない

“爛々と目を光らせる”という表現もあるが、怪獣の眼球は本当に光る。怪獣の目とは光るもの……といっても過言ではないくらいだ。さらに放射熱線を吐くとき、ゴジラが背びれを輝かせるように、とにかく身体のあちこちが光り輝く。そこにはカッコいいから、不気味だからといった演出上の理由以外のものは存在しない。例えば、「モンハン」にもジンオウガなる全身のトゲが青白く光るモンスターが登場するが、こちらは共生関係にある雷光虫という昆虫をまとわせることで、自らの発電能力を高めて雷光を放っているという理屈づけがなされている。いかにも「モンハン」らしいアプローチだ。ひょっとすると発光バクテリアとの共生によって、視認可能の発光現象を獲得するチョウチンアンコウなどを参考にしているのかもしれない。しかしエルギヌスに関しては、深海からやってきたという出自が関係している可能性もあるが、それよりも何よりも単純に怪獣らしいから光らせているのだと思われる。実際、平成の「ウルトラマン」シリーズに出てきても遜色がないどころか、なかなかの人気怪獣になるのではなかろうか。ただし、エルギヌスのように電飾ギミックが満載で、しかもあちこちが飛び出しているデザインの怪獣を着ぐるみで表現しようと思ったら、かなり大掛かりなことになりそうだ。少なくともテレビ特撮では不可能だろう。「モンハン」シリーズとは違い、独自の路線を切り拓くというよりも、むしろユーザーが共通して抱いている怪獣のイメージを踏襲することに重きを置いている「地球防衛軍」シリーズだが、奇しくも表現メディアの違いから新時代の怪獣を生み出すに至った。現状、フルCGの怪獣が暴れまわる日本の映画・ドラマというと、『シン・ゴジラ』(2016)と『大怪獣ラッシュ ウルトラフロンティア』(2013~2014)くらいしかつくられていないが、こうしたビデオゲーム群が、本家本元に変わってCG怪獣の可能性を広げ続けているのだ。


(脚注)
*1
やや低年齢層向けにリリースされた『モンスターハンター ストーリーズ』(2016)では、自分の育てたモンスターとともに戦うモンスターライダーなる人々を主役にしている。こちらはアニメ化もされた。

*2
人間とは似て非なる知的生命体のことで、ゴブリンやエルフなどがそれに当たる。「モンハン」には、アイルー族と呼ばれる猫のような獣人が、非常に重要な立ち位置のキャラクターとして登場する。

*3
『モンスターハンター:ワールド』(2018)では、『ファイナルファンタジーXIV』(2010)や『ウィッチャー3 ワイルドハント』(2015)とのコラボイベントを開催しており、例外的に魔法が解禁されている。また、錬金術は存在する。

*4
シリーズを重ねるに従って、ステンドグラスのような身体のライゼクスや爆発する拳や頭突きを放つブラキディオス、生ける空爆機ともいえるバゼルギウスなど、怪獣的な派手さを有するモンスターも増えてきてはいる。

*5
デペイズマンとは、本来とは異なる環境に対象を移すことで異和を生じさせる手法。巨大な岩塊が空に浮かぶ、ルネ・マグリットの『ピレネーの城』などが有名だ。コラージュは、異なる素材をシームレスに接合させる手法のこと。

*6
ただし、アメリカ人にとってキングコングだけは特別なのか、さまざまな生き物とゴリラを掛け合わせるということだけは頻繁に行っている。例えば、『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』(1983)などに登場するランコアは恐竜+ゴリラだし、『GODZILLA ゴジラ』(2014)のムートーは昆虫+ゴリラだろう。また、「エイリアン」シリーズのゼノモーフは、男性器と人骨とメカニックの融合であり、コラージュの方向性としてはウルトラ怪獣と重なるところがある。日本人のあいだで高い人気を誇るのも納得だ。

*7
前述の『EARTH DEFENSE FORCE: INSECT ARMAGEDDON』には、巨大昆虫と戦闘メカのみで怪獣が登場しない。“地球防衛といえば怪獣!”という発想が、アメリカ人にはないのだろう。なお、日本で開発された次作『EARTH DEFENSE FORCE: IRON RAIN』(2019)には、全高60mを超えるベイザルという怪獣が出てくるが、ただ巨大になった恐竜といった感じのルックスで、あまり怪獣らしくない。

※URLは2020年11月22日にリンクを確認済み

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