2019年度メディア芸術連携促進事業 研究成果マッピング シンポジウムが、2020年2月16日(日)に国立新美術館で開催された。メディア芸術連携促進事業は、メディア芸術分野における、各分野・領域を横断した産・学・館(官)の連携・協力により新領域の創出や調査研究等を実施する事業だ。本事業の目的は、恒常的にメディア芸術分野の文化資源の運用と展開を図ることにある。なかでも「研究マッピング」は2015年度から2019年度の5年間にわたって実施された。本シンポジウムでは、5年間の総括として各分野からの成果報告とパネリストによる討論・提言が行われた。本稿ではメディアアート分野の発表「メディアアートの研究対象とは?」をレポートする。

メディアアート分野のコーディネーターを務める明貫氏

[報告者]
明貫紘子(映像ワークショップ 代表)
阪本裕文(稚内北星学園大学 情報メディア学部 教授)

メディアアートの定義と2019年度の成果

メディアアートは定義が曖昧で、時代によって作品形態が変化し、その時代のテクノロジーに依存する部分があるため、その形態自体が変化する。つまり、研究対象の範囲の特定が非常に難しいことが、メディアアート分野の特徴である。そのためマッピングには苦心したが、2019年度はひとつの試みとして、メディアアーティストが向き合ってきたメディアテクノロジーの10年区切りの年表を制作したうえで、時代ごとの技術的要件からメディアアート史を俯瞰して、研究領域の全体像を捉えることを試みた。
それらの成果として、『メディアアート研究の手引き』の第3部に年表を掲載し、第2部「テクノロジーとメディアアート研究のサンプル集」では、1990年代というひとつの時代を取り上げた。このように、今後は1950年代ごろから時代別に、研究対象あるいは傾向をまとめていきたい。
今回は、1950年代から2010年代までのメディアアートの振り返りを行う。

1950年代~1970年代のメディアアート

1950年代から1970年代は、メディアアートという概念がまだ存在しなかった。現在からさかのぼるならば、美術、映画、音楽が重なり合う中間領域が調査の対象であり、当時はこういったものをインターメディアという言葉で指し示していた。
中間的なものとは、美術であればテクノロジーを導入した造形やビデオアート、映画であれば実験映画、音楽では、テープ音楽、電子音楽など。こういったさまざまな領域で始まっていった脱領域的な動きが、テクノロジーのその時々の関係というものを含めながら進行していき、1970年の万博でひとつに集約にされていく。
具体的には、実験工房というグループが美術にテクノロジーを導入したり、個人の映像作家たちが短編の実験映画をつくって上映するフィルム・アンデパンダンというグループが活動していたり、1954年にNHKで電子音楽スタジオが開設され、現代音楽の作家たちが電子音楽をつくるようになった。
メディアアートの先駆として位置付けることができるこれらのものは、多様な組織や研究者によって、テーマごとにアーカイブが進められており、研究者に向けて公開されている。

阪本氏は映像を専門とする立場より、1950年代から1970年代のメディアアートを脱領域性という観点で紹介

1980年代~2010年代のメディアアート

1980年代は衛星を通して情報通信ができるようになってきた時代。通信衛星を使った代表的な事例として、ナム・ジュン・パイクが衛星放送を使ったテレビ中継した作品がある。
1990年代になると、インターネットが台頭し、PhotoshopやDirectorといったソフトウェアが一般化して、インタラクティブな作品が比較的簡単につくられるようになった。1994年にダグラス・デービスが初めてネットアートを発表したほか、CGを用いた作品が多く発表された。
2000年代になるとスマートフォンが普及。ニコニコ動画やYouTube、Facebook、TwitterといったSNSのプラットフォームを転々とするようになったことに対する批判を表現した作品も生まれた。
2010年代については、久保田晃弘氏の論考『「メディアアート」を再発明するための五つの方法』を参考にしてまとめると、成長する(あるいは死滅する)メディアアートとして、バイオアートが認知されたり、宇宙開発という専門家しかアクセスできなかったような領域に、アーティストが加わってコラボレーションしたり、作品を制作するようなことができるようになってきた。

これからのメディアアート

これからのメディアアートを考えるキーワードのひとつとして、問題解決ではなく未来について問題提起しようとする「スペキュラティブ・デザイン」が挙げられる。また、以前よりある、よりよい社会変革をもたらすことを目的にした芸術活動であるソーシャリー・エンゲイジド・アートは、近年は一層その機能が求められてきている。今後、メディアアートはそのような分野で応用されていくと考えられる。
総じて、メディアアートは範囲が広く、どのように文脈をつくっていくかが今後の課題となる。実験映画やパフォーミング・アーツ、現代音楽といった領域を含めて、俯瞰してみることが重要になってくる。


2019年度メディア芸術連携促進事業 研究成果マッピング シンポジウム
日程:2020年2月16日(日) 13時〜16時
会場:国立新美術館 3F 講堂
参加費:無料
主催:文化庁