京都国際マンガミュージアム(京都市中京区)では2020年5月11日(月)から9月27日(日)まで「荒俣宏の大大マンガラクタ館」展が開催された。同館の2代目館長でもある作家・荒俣宏のプロデュースで企画された本展は、荒俣本人の著作名と同じタイトルの6つのコーナーで構成され、収集や創作に捧げてきた彼の人生がうかがえる内容になっている。
会場入口(撮影:浅野豪)
「マンガラクタ」の集大成
「荒俣宏の大大マンガラクタ館」というユニークなタイトルは、京都国際マンガミュージアムの館長就任以来、25万点以上ある同館の資料から荒俣本人が見つけ出したものを集めて紹介する小展示シリーズ「大マンガラクタ館」がベースになっている。これらの展覧会タイトルに繰り返し登場する「マンガラクタ」という言葉も、「マンガ」と「ガラクタ」を組み合わせた荒俣館長による造語だという。展覧会では、この言葉について「だれかに発見されないかぎり、ずっとゴミくず同然に埋もれてしまうガラクタこそ面白いという荒俣館長の価値観を表している」と紹介している。
「マンガラクタ」という言葉の独特な響きにふさわしく、本展も個性あふれるコンセプトでつくられている。展示会場に入ると、まず、白い壁に囲まれた空間の中にずらりと並ぶ数々のダンボールに驚かされる。各ダンボールの中には荒俣の創作物や収集品が丁寧に陳列されており、荷札のキャプションや展示品に関する荒俣の直筆コメントも添えられているのが印象的である。
ダンボールのショーケースが並ぶ展示会場(撮影:浅野豪)
荒俣直筆のコメントと荷札に書かれたキャプション(撮影:浅野豪)
6つのコーナーで垣間見る荒俣宏の人生
荒俣の多分野にわたる知識と活躍に注目すべく、本展は6つのテーマからなるコーナーで構成されており、各コーナーには荒俣本人の著作名と同じタイトルが付けられている。最初のコーナーである「漫画と人生」では、荒俣とマンガのつながりに注目し、マンガ家を夢見ていた頃の荒俣が描いたマンガ原稿や、大学時代に参加していた同人誌などが展示されている。2番目のコーナー「怪奇文学大山脈」では、海外の怪奇文学、幻想文学への関心が紹介され、3番目の「図鑑の博物誌」は、博物学者としての一面に注目するコーナーになっている。「奇っ怪紳士録」というタイトルを持つ4番目のコーナーでは、現在、荒俣が最も注目しているという明治・大正・昭和を生きた趣味人・三田平凡寺(1876~1960年)が取り上げられ、関連資料も公開されている。5番目の「アラマタ美術誌」では、ファッション画やピンナップガールのイラストなど、あまり「アート」と評価されてこなかった作品も収集対象にする荒俣コレクションを通して、「アート」の定義に迫る。最後のコーナー「帝都物語」では、荒俣宏による同名の長編小説を原作にしたマンガやイラスト、映画関連資料が展示されている。
最初のコーナー「漫画と人生」(撮影:浅野豪)
6番目のコーナー「帝都物語」(撮影:浅野豪)
オンラインでも楽しめる展覧会
タイトルから展示方法に至るまで、個性あふれる本展のもうひとつの特徴として挙げられるのは、展示関連のオンラインコンテンツがあるという点である。京都国際マンガミュージアムのホームページにある「荒俣宏の大大マンガラクタ館」紹介ページには、各コーナーの動画がリンクされており、荒俣本人や担当学芸員による展示解説をオンラインで楽しむことができる。
この珍しい試みの背景には、新型コロナウイルス感染症の感染拡大があった。感染拡大を防止するため、4月2日(木)から会場の京都国際マンガミュージアムが臨時休館になったことで、本展も「無観客展覧会」となる可能性を見据えて動画がつくられたのである。実際、展覧会は5月11日(月)から「存在」しているものの、臨時休館が長引いたことで一般観客向けにオープンしたのは6月1日(月)となった。
不要不急の移動の自粛が求められ、ウイルス関連の暗いニュースが続く中、気軽に会場に足を運べない人も展覧会の様子をうかがうことができるのはうれしいことに違いない。
京都国際マンガミュージアムのYouTubeチャンネルでは荒俣による展示解説映像を見ることができる
「ミュージアム」とは何か?
一般的にミュージアムにふさわしいと思われていない「ガラクタ」が展覧会の重要な要素になっていることや、展示品を入れるケースとしてダンボールを使った展示方法、ダンボールに走り書きで残された荒俣によるコメントまで……。「荒俣宏の大大マンガラクタ館」は、終始一貫「展覧会」の常識を覆す内容と形式で来場者に質問を投げ掛ける。展覧会とは何か。そしてミュージアムとは何か。
これは16世紀前後、ヨーロッパの貴族や豪商たちが世界から集めた珍品奇品を所蔵するためにつくった陳列室「ブンダーカマー(驚異の部屋)」が本展のコンセプトになっていることと無関係ではない。そもそも近代的なミュージアムは、それぞれのコンテクストのもと、ブンダーカマーのなかから教育的かつスタンダードなものだけを選び秩序正しく並べたことで始まった場所だと言える。教育・研究機関として長い間機能してきたが、徐々に「ブンダー(驚き)」を経験できる場所ではなくなってきているのも事実である。実際、多くのミュージアムが若者を中心に起こっている「ミュージアム離れ」を懸念している。
近代以降のミュージアムから失われた驚きとワクワク感を観覧者に味わわせてくれるブンダーカマーの魅力を再現すべく、本展では未整理のガラクタによって混沌状況をつくりだした。このような珍しいタイプの展覧会が、ほかでもなく、「教育的かつスタンダードなもの」のために存在する一般的なミュージアムの枠にはまらない「マンガミュージアムで企画されたことは、決して偶然ではないだろう。
(information)
荒俣宏の大大マンガラクタ館
【京都】
会期:2020年5月11日(月)~9月27日(日)
休館日:毎週水曜日、6月16日・18日、9月8日 ※7月16日~8月25日までは無休
会場:京都国際マンガミュージアム 2階 ギャラリー1・2・3
開館時間:10:00~18:00(最終入館は17:30まで)
入場料:無料
※ミュージアムへの入場料(大人900円、中高生400円、小学生200円)は別途必要
主催:京都国際マンガミュージアム/京都精華大学国際マンガ研究センター
https://www.kyotomm.jp/event/exh_daidaimangarakutakan/
【東京巡回展】
会期:2020年10月16日(金)~12月16日(水)
休館日:10月19日(月)、11月16日(月)
会場:千代田区立日比谷図書文化館 1階 特別展示室)
開館時間:10:00~19:00
(金曜は20時まで、日曜・祝日は17時まで、入室は閉室の30分前まで)
入場料:一般300円、大学・高校生200円(千代田区民・中学生以下、障害者手帳などをお持ちの方および付き添いの方1名は無料)
主催:千代田区立日比谷図書文化館
企画協力:京都国際マンガミュージアム/京都精華大学国際マンガ研究センター
https://www.library.chiyoda.tokyo.jp/hibiya/museum/exhibition/daidaimangarakutakan.html
※URLは2020年9月15日にリンクを確認済み
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