2019年に公開した「メディア芸術データベース(ベータ版)」のデータの利活用促進を目的とした会議「令和3年度メディア芸術連携基盤等整備推進事業 事務局調査事業 利活用分科会 第三回データセット利活用ワーキング」が2021年6月30日(水)にウェブ会議システムZoomにて開催された。利活用分科会は、メディア芸術データベースの利活用を目的に、「コミュニティ形成」「利活用の促進」「アーカイブの充実」「パイロットモデルの試行」をミッションに掲げ、本会議のほか、2020年度には「メディア芸術データベースアイディアソン」「メディア芸術データベース活用コンテスト 2021」を行った。今回は、データ活用コンテストを開催する下山紗代子氏、瀬戸寿一氏をゲストに迎え、オープンデータ活用の事例をご紹介いただいた。
Linked Open Data チャレンジ Japan 10年間の軌跡
下山紗代子
一般社団法人リンクデータ 代表理事、総務省 地域情報化アドバイザー、内閣官房 オープンデータ伝道師
Linked Open Dataチャレンジ(以下、LODチャレンジ)は、オープンデータを “つなげる” ことによる新しい価値の創造を目的に、幅広い分野でのオープンなデータづくりとデータを活用した取り組みを表彰するコンテストである。2011年に日本で初めて開催され、運営は実行委員会形式により有志で行われている。アイディア部門、アプリケーション部門、データセット部門、データ分析・可視化部門、基盤技術部門の5部門が設置され、具体的に形になっていないアイデアの状態でも応募できる。賞が多いことも特徴で、全部門から1作品選ばれる最優秀賞、部門ごとの優秀賞のほかに、学生奨励賞、スポンサー賞、パートナー賞、テーマ賞については複数枠が設けられている。2020年は応募作品67作品に対し、20作品が受賞した。
最優秀賞「超臨場SDM方式収録データセット」は、オーケストラコンサートやジャズセッションでの演奏の映像や音声を忠実に再現するための仕組みを備えたデータセットである。三次元映像・音声メディアやセンサーによるデータメディアなどの収録データを対象に、収録環境から編集系、再生系までの詳細なメタデータが構造的に整理されており、アプリケーション開発者やコンテンツ製作者による利用が可能になっている。プログレス賞(テーマ賞)の「みんなで翻刻de小倉百人一首LOD」は、全国各地の図書館等で公開されている小倉百人一首に関する古典籍の画像にリンクを形成し、翻刻データとともに提供するデータセットだ。2016年にアイディア部門で優秀賞、2017年にデータセット部門で最優秀賞を受賞。その後も画像リンクの改良や英訳の追加を行い、2020年にはクラウドソーシングで翻刻データを作成した。個人発のプロジェクトが仲間を得て、回を重ねるごとにレベルアップしていった好例だと下山氏は述べた。
下山氏によると応募者は、LODチャレンジを継続的に活動・開発を続けるマイルストーンとして考えているという。作品の応募・審査の過程でプロジェクトを見直し、多くの人に周知していくと、協力しあえる仲間づくりにもつながる。主催者側も技術的な支援、コミュニティづくりの支援に重点を置き、キックオフイベントや受賞式シンポジウムなどの交流機会も設けている。
下山紗代子氏
LODチャレンジ2020 最優秀賞「超臨場SDM方式収録データセット」
LODチャレンジ2020 プログレス賞(テーマ賞)「みんなで翻刻de小倉百人一首LOD」
2020年の授賞式はオンラインで開催
地理空間情報分野の参加を考える
〜アーバンデータチャレンジを事例に〜
瀬戸寿一
駒澤大学 文学部 地理学科 准教授、東京大学 空間情報科学研究センター 客員研究員
アーバンデータチャレンジ(UDC)は、地域課題の解決を目的として、データ活用型のコミュニティづくりとコンテストの2本柱で構成されている。運営は基本的に有志だが、GIS(地理情報システム、註)の利活用促進を目的とした「G空間情報センター」をバックグラウンドとし、東京大学やG空間情報センターを運営する(一社)社会基盤情報流通推進協議会等の団体も関わっている。瀬戸氏によると、地理空間情報は規模が大きくデータ形式も複雑なため、専門的なツールやソフトウェアで扱われる事が多く、従来はインフラ管理や防災・都市計画等での利用が主流だった。近年の大きなトピックスでは、2020年に国土交通省によるProject PLATEAUで東京23区を始め、3D都市モデルデータのオープンソース化を実現し、メディアやエンターテインメントとの接点を持つことができたという。
UDCのコミュニティづくりでは、地方自治体や企業、大学、市民団体が代表者を務める地域拠点を各都道府県に1カ所設置することを目指し、アイデアソンやハッカソン、マッピングパーティなどの活動を年2~3回行っている。地域拠点には、年間最大10万円の活動支援や年3回のシンポジウムで交流機会を提供し、コミュニティの形成・育成・発展に寄与している。
コンテストは、2020年度より、一般部門とビジネス・プロフェッショナル部門の2部門に分かれ、アプリケーション・データ・アイデア・アクティビティの4つの作品タイプ、データの種類に応じた10の作品テーマが設定されている。新規のデータやアプリケーションだけでなく、既存のデータやツールを活用したアクティビティも審査対象となる点が特徴だ。各地域の活動拠点だけでなく誰でも応募可能で、他のコンテストとの重複応募も可能だ。近年は学生を代表者とした参加が増え、ここ2年は「生活・文化・地域アーカイブ」をテーマにした応募が最も多いという。受賞作品が直接すぐにビジネスに結びつくことはまだ少ないが、コンテストを通してシビックテック活動と民間企業・地方自治体が出会うことで交流が生まれたり、作品を基にベンチャー企業を立ち上げるなど、新たな展開についての報告も受けていると瀬戸氏は述べた。
瀬戸寿一氏
2019年の時点で活動拠点は41カ所設置された
UDC2020に応募された作品の集計結果
UDC2020におけるテーマごとの作品タイプの分布
(脚注)
GIS(地理情報システム)とは、位置に関する情報を有するデータを加工・管理し、地図の作成や高度な分析などを行うシステム技術の総称。扱うデータは、道路・建物等の地図の基盤となるようなデータから、災害の起きた範囲や都市計画のゾーニングなどの範囲を示すデータ、さらに、地域の人口や経済など統計データと組み合わせて使われることも多い。メディア芸術関連の地理情報としては、「聖地巡礼」に見られるような、マンガ・アニメや映画・小説などに登場した実在の場所に関する情報なども共有されている。
※URLは2021年7月8日にリンクを確認済み