令和4年度メディア芸術連携基盤等整備推進事業 中間報告会が、2022年10月13日(木)にウェブ会議システムZoomにて開催された。メディア芸術連携基盤等整備推進事業では、産・学・館(官)の連携・協力により、メディア芸術の分野・領域を横断して一体的に課題解決に取り組むとともに、所蔵情報等の整備及び各研究機関等におけるメディア芸術作品のアーカイブ化を支援している。また、アーカイブ化した作品・資料等を活用した展示の実施に係る手法等を開発・検討することにより、貴重な作品・資料等の鑑賞機会の創出を図っている。本事業の実施を通じて、アーカイブ及びキュレーションの実践の場の提供や今後のメディア芸術の作品等の収集・保存・活用を担う専門人材の育成に寄与することを企図している。中間報告会では、本事業の一環として実施した5つの分野別強化事業の取り組みの主旨や進捗状況の報告、メディア芸術連携基盤等整備推進事業の事務局調査研究およびメディア芸術データベース等に係る調査研究事業に関する報告がなされ、有識者検討委員からの質疑や助言が加えられた。
事業報告
[マンガ分野]
- マンガ原画アーカイブセンターの実装と所蔵館連携ネットワークの構築に向けた調査研究
- マンガ刊本アーカイブセンターの実装化と所蔵館ネットワークに関する調査研究
- クレジット情報テキスト識別の更なる高精度化とメタデータ処理の汎用化
- ゲームアーカイブ所蔵館の連携強化に関する調査研究2022
- メディアアート作品の調査とメディア芸術データベースのデータ整備他
- メディア芸術連携基盤等整備推進事業
- メディア芸術データベース等に係る調査研究事業
- 有識者検討委員会主査による全体総括
[アニメーション分野]
[ゲーム分野]
[メディアアート分野]
調査事業報告
マンガ原画アーカイブセンターの実装と所蔵館連携ネットワークの構築に向けた調査研究
一般財団法人 横手市増田まんが美術財団
報告者:一般財団法人 横手市増田まんが美術財団 横手市増田まんが美術館 館長 大石卓
大石卓
【概要】
2022年10月、マンガ原画アーカイブセンター(MGAC)の活動拠点を、横手市増田まんが美術館から横手市増田重要伝統的建造物群保存地区内の漆蔵資料館へ移設することにより、MGACの活動の周知、また原画の保存集積能力の強化といったセンター機能の強化を図った。引き続き、MGACの実装の継続、所蔵館ネットワークの構築・専門人材の育成、収益事業および支援体制構築の調査を実施。将来的に、刊本事業と合流した「マンガアーカイブ機構(仮称)」を設立すべく、原画・刊本事業の課題や進捗状況を共有し、議論を重ねていく。
【中間報告】
原画保存の相談と原画プールについて、31件中6件の案件を対処。4〜9月までに7万1,000点の原稿を石ノ森萬画館と横手市増田まんが美術館にてプールした。一方で、整理作業までは手が回っておらず、緊急保護を目的としたプールの増大を見据え、予算や人員を含めた整理作業体制の整備は急務である。本事業は、マンガ家やその遺族、編集者から高い評価と理解を得ており、関係者による情報の拡散により、MGACの活動について認知度が高まった。関連して、出版社の支援も含めた産官学連携のアーカイブ推進事業「MGAC+」の動きも出ている。原画・刊本との相関性を判断するには、本アーカイブがマンガ分野のみならず幅広い分野の研究機関・教育機関に開かれる必要がある。今後は、専門的な知見を持った有識者により保存資料を精査する組織体制を構築したい。
マンガ刊本アーカイブセンターの実装化と所蔵館ネットワークに関する調査研究
国立大学法人 熊本大学
報告者:熊本大学 文学部 准教授 鈴木寛之
鈴木寛之
【概要】
令和4年度は、「マンガ刊本アーカイブセンター」の実装化に向けた調査研究のほか、刊本ネットワーク所蔵リストの構築事業、刊本プール資料の仕分けと移送に関する作業実験、「マンガアーカイブ機構(仮称)」設立に向けての原画・刊本、両事業の合同会議を行う。
【中間報告】
マンガ刊本アーカイブセンターは、施設間連携による全国規模での刊本アーカイブ構築を目的に、刊本寄贈の全国的な相談窓口として2023年の実装を目指す。そして、メディア芸術データベース(MADB)と連携可能な刊本データ収集に関する調査検討を行い、デジタルアーカイブ化の準備を進めていく。刊本プール事業では、雑誌用・単行本用等の利活用BOXを作成。これをもとに資料整理を進め、展示やワークショップを開催する。原画との親和性の高い雑誌資料を優先した刊本寄贈の受付により、時代性を反映する資料性の高いアーカイブを構築するとともに、広く市民に開かれたものとして提供したい。プール機能の外部化を目的とした作業実験では、NPO法人熊本マンガミュージアムプロジェクトが県内に設置したマンガ関連施設等の利用者・管理者へのヒアリングと資料の入れ替え、そして再配分を計画。自治体との連携により、小規模なプール機能を備えたマンガ関連施設の企画協力も行っている。将来構想を明確にし、持続可能な刊本プールを構成するための施設維持・人材確保、ビジネス展開や自立したマネジメント手法を確立していきたい。
クレジット情報テキスト識別の更なる高精度化とメタデータ処理の汎用化
一般社団法人 日本アニメーター・演出協会
報告者:一般社団法人 日本アニメーター・演出協会 事務局長 大坪英之
大坪英之
【概要】
現状のアニメに関する調査では、作品本数や総制作分数の記述はあるが、制作に関与した全スタジオ、全スタッフまでは把握できず、正確な調査・研究が難しい。そこで、放映されている全アニメ作品から画像認識サービス(OCR)を用いてクレジット情報を抽出すべく取り組んでいる。令和4年度は、テキストの識別の高精度化、メタデータ処理の汎用化を試行、一定の専門性を要したうえで再頒布可能なシステムとしての公開を目指す。また事前の情報集約を目的としてアニメ業界全体の連絡網の形成を目標とする。
【中間報告】
現段階で、現実的な作業負荷でのデータ集約が可能な運用状況であり、データを串刺し検索できる形になっている。将来の本格的なデータベースの利活用に向けた課題として、有識者による集約データの整形手続きや、技術進展に応じてクラウドOCRサービスの入れ替えが容易なシステム設計、同サービス利用料を軽減する処理の開発などがある。アニメに関わる情報を作品主体ではなく人を主体に記録する本事業は、アニメーターの詳細な業績の証明を可能にするものとして、企画立案時やセカンドキャリア形成、労働環境の安定化に役立てられる。そうした制作側のメリットを周知することで本事業への理解を促し、放送局、製作会社、ビデオ編集スタジオ、ウェブ・雑誌社等のメディア、配信会社等へ連絡調整会の参加を呼びかけたい。
ゲームアーカイブ所蔵館の連携強化に関する調査研究2022
学校法人立命館 立命館大学ゲーム研究センター
報告者:学校法人立命館 立命館大学ゲーム研究センター 尾鼻崇
尾鼻崇
【概要】
ゲームアーカイブの持続的な実現のための体制づくりとして、諸施策の効率化や他機関との連携強化を行う。他大学と共同で、ゲーム機の保守・アーカイブ状況の調査、外部の公開情報のマッピング、もしくは非リスト化資料の整備を実施。産学官連携として、CEDiLの情報を中心とした展示を準備。そして、国内外の所蔵館との連携を図る。令和4年度は、ゲームアーカイブのさらなる連携強化と情報発信、メディア芸術データベース(MADB)の登録データと外部データベースのマッピング推進、さらに、ゲームアーカイブ利活用のための各種調査の3点を中心的に進める。
【中間報告】
カンファレンスでは、ほかのメディア芸術分野との連携として、特に中間制作物のアーカイブに関する状況について意見を交わし、相互の情報交換を図りたい。また、幅広い層に協議会の存在や活動を広く周知するため、オンラインでの開催を予定している。協議会をゲームアーカイブの利活用の窓口として機能すべく準備を整える。マッピングでは、2018年以降のデータの充実、将来的には国立国会図書館(NDL)の所蔵資料、ゲーム開発者向けカンファレンスCEDECの講演資料データベースのマッピングも考えている。さらに、CEDiLの報告資料をもとに、ゲーム音楽に焦点を当てたオンライン展示「Ludo-Musica」の第3弾を予定している。今後は、協議会の持続可能な運営体制、外部アクセスに対するオペレーションの整備などが課題である。加えて、オンラインゲームなどの先進的なゲームシステム、メタバースやNFTが内包するゲーム要素も視野に入れつつ、段階的に保存・利活用していく可能性も考えられる。
メディアアート作品の調査とメディア芸術データベースのデータ整備他
特定非営利活動法人 コミュニティデザイン協議会
報告者:特定非営利活動法人 コミュニティデザイン協議会 理事長 野間穣
野間穣
【概要】
昨年度に引き続き、ウェブ版メディアアート史の運用・改修作業および充実化、メディア芸術データベース(MADB)登録情報の整備、ネットワーク構築のための準備作業を実施する。ウェブ版メディアアート史に関しては、各項目の詳細情報をブラッシュアップして再登録を行う。データベース登録情報の整備では、データを時系列で表示するだけでなく、データの編集・精査システムの開発を目指す。ネットワーク構築のための準備作業では、メディアアート作品の制作研究のための総合的なプラットフォーム「Platform for Media Art Production(PMA)」の実現に向けて、データ項目の設定やシステム開発を行う。
【中間報告】
90年代の典型としてインタラクティブなメディアインスタレーションに関するデータの充実化を図るため、三上晴子《Eye-Tracking Informatics》《欲望のコード》の展示について関係者にヒアリングを行う。2021年よりデータ項目の再設計を実施。その有効性を検証するため、テストデータを実装するアプリケーションのアップデート、テストサイトの公開を目指す。PMAは、メディアアート作品の研究および再制作・再展示に必要な情報を提示するためのデータベースシステムである。令和4年度は、項目の設定と記述、データを入力・閲覧するためのアプリケーションとサイトの開発・実装の2点を実施する。年表で俯瞰してデータベース化するマクロな視点、PMAで研究・制作・展示を支えるミクロな視点で、メディアアートに関するモノ(作品)とコト(イベント・催事)を定義および記録・整理していく。
メディア芸術連携基盤等整備推進事業
報告者:メディア芸術コンソーシアムJV事務局 森由紀
コミュニティの形成として、自治体連携会議と「MAGMA sessions」の企画を進行中である。メディア芸術データベース(MADB)の利活用促進に向けて、情報発信を行うとともに活用事例の創出に取り組む。具体的には、データサイエンス教育に活用すべく教材やPRツールを作成、MADB活用コンテストも引き続き開催する。また、次なるターゲットとして「地域」を設定しており、新潟市・札幌市でメディア芸術に関わる人物への調査・ヒアリングを進めている。また、MADBの登録データの活用とデータ拡充を目指し、分野別強化事業およびアーカイブ推進支援事業とMADBの連携について検討する。パイロットモデルの試行では、メディア芸術やMADBと地域の連携をテーマに、熊本県の人吉球磨地域でワークショップを開催した。メディア芸術アーカイブ推進支援事業では、採択された18件の団体同士の横のつながりの構築を目的とした合同情報交換会の開催準備を進めている。
メディア芸術データベース等に係る調査研究事業
報告者:メディア芸術コンソーシアムJV事務局 水野歌子
メディア芸術データベース(MADB)の開発・運用に関しては、SPARQLクエリサービスの機能強化や新公開GUIプロトタイプの公開を通じて、一般ユーザーが扱いやすいインターフェースを試行する。データ登録における課題の抽出、データの新規登録の検討、登録データの洗練、外部データ連携の検討を通じて、データの運用フローを構築していく。利活用の促進については、MADBのデータ登録や利用時に必要なドキュメント類を整備する。さらに、総合的な広報用ウェブサイトとして「メディア芸術カレントコンテンツ」に「MADB Lab」「MAGMA sessions」を統合。愛称を「MACC」として、研究者や専門家だけでなく一般に向けて、文化庁事業の周知を目指す。
有識者検討委員会主査による全体総括
報告者:立命館大学 映像学部 教授 細井浩一
各分野とも必然性や歴史的意義を踏まえ、精緻なプロセスでアーカイブ事業が進行している。日本はハイコンテキストで分厚いカルチャーを特徴として、特に海外からの視点では、マンガ・アニメーション・ゲーム・メディアアートといった区別なくひとつの文化として捉える傾向が強い。今後はインバウンド需要の増加に備え、各分野の領域横断的な活用および一体的な発信が求められ、分野全体の内的なリレーションを構築する時期に来ている。また、メディア芸術の制作・消費・活用の現場においてデジタル化の傾向にあり、各分野の状況に合わせた対応が必要である。
※URLは2022年12月16日にリンクを確認済み
※すべて敬称略